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O plus E誌 2016年10月号掲載
 
 
真田十勇士』
(松竹配給)
      (C) 2016『真田十勇士』製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月22日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2016年9月1日 松竹試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  城外での野戦シーンも,城内での会話劇も楽しめる  
  懐かしい題名だ。筆者の子供の頃は,この題名での紙芝居,漫画本,チャンバラ映画が数々あったのに,最近はすっかり聞かなくなった。大坂冬の陣,夏の陣で活躍する真田幸村(どうも,真田信繁という正式名称はピンと来ない)配下の家臣10名のことである。江戸時代の軍記物や講談で既に数々の「真田もの」が存在したが,「十勇士」という括りを最初にしたのは,明治・大正時代の「立川文庫」とのことだ。
 今年が「真田イヤー」とされるのは,勿論,NHK大河ドラマ『真田丸』の余波で,書籍・TV特番・観光地のイベント等,様々な便乗商法が登場している。本作はこの題で2014年に上演された舞台劇を実写映画化した作品だ。今年も舞台劇は再演され,同時進行で監督(演出家)や主要登場人物を踏襲した本作が公開されるという,タイアップ作戦がとられている。
 今でも十勇士の名前は諳んじていたが,本作で少し違和感があったのは,真田幸村の嫡男・大助が十勇士に入っていて,穴山小助が登場しないことだ。この程度のバリエーションはよくあるそうなので,ヨシとしておこう(写真1)。物語上で最もユニークなのは,真田幸村(加藤雅也)は稀代の軍略家でも勇猛果敢な武将でもなく,実は気弱で優柔不断な男だったのが,ある偶然から虚像が独り歩きしたという設定である。それがバレないよう,猿飛佐助(中村勘九郎)と霧隠才蔵(松坂桃李)が幸村をサポートし,徳川軍を混乱させる物語だという。エンタメはそうでなくっちゃ,と膝を打ちたくなった次第だ。
 
 
 
 
 
写真1 これが本作の十勇士(中央が猿飛佐助)
 
 
  監督は堤幸彦。『20世紀少年 3部作』(08, 09)『天空の蜂』(15年9月号)等で,CG/VFXを多用した大作も経験しているので,当欄にとっても大いに期待がもてた。女優陣では,淀殿に大竹しのぶ,女忍者の火垂に大島優子を配している。徳川家康に松平健,ナレーターに(元NHKアナウンサーの)松平定知と,2人の松平姓を起用している。これは洒落かと,少し笑ってしまった。
 本作の舞台は,1614年から15年にかけての大坂冬の陣と夏の陣である。一方,NHK『真田丸』は,本稿執筆時点で1600年の「関ヶ原の戦い」が終わったばかりだ。これからの回で同じ時代に入る前に,先に異説の幸村考を十勇士中心に見せるとは,かなり商売上手だ。
 以下,当欄の視点での評価である。
 ■ 時代劇の大作となれば,城や砦,大名屋敷や市中の様子もCGで描くのが定番である。その程度は,NHK大河ドラマでも実現されている。連続番組で何度も再利用できるのに対して,1回限りの劇場用映画でそれ以上のレベルを達成しているか懸念したのだが,これはしっかりクリアできていた(写真2)。大画面での観賞に堪える堂々たる大坂城だ。では,城内の描写はといえば,こちらは質感の高い立派なセットが組まれていた(一部はCGかも知れない)。「TV屋と一緒にするな」という,プロの映画の美術班の声が聞こえて来そうだ。
 
 
 
 
 
写真2 堂々たるCG製の大坂城(NHKより立派?)
 
 
  ■ 合戦シーンで大軍の多数の兵士を描くのにも,CG描写が定番だ。俯瞰シーンでの利用が多いが,写真3では,手前の赤の真田軍は実写,向こうに見える白の徳川の大軍はCGだろう。舞台劇の映画化だから,戦闘シーンはほどほどだろうと思っていたら,野戦シーンがかなり充実していた(写真4)。近来の時代劇でもこれは出色で,シネスコサイズの画面に相応しい戦闘が描かれている。これは嬉しい誤算だった。ただし,合戦の最中の兵士の密度が少し希薄に感じた。びっしり詰まった映像にしたければ,そう演出すればいいだけだから,きっと本物の戦いはこれくらいなのだろう。欠点は,皆が甲冑姿なので,十勇士の個々人の区別がつきにくかったことだ。
 
 
 
 
 
写真3 白一色の家康の大軍に挑む赤い甲冑の真田軍
 
 
 
 
 
写真4 野戦シーンはリアルで,かなりの迫力
(C) 2016『真田十勇士』製作委員会
 
 
  ■ 天王寺口の戦いで家康を追いつめながら真田軍が破れた後,舞台は大坂城内へと移る。最後の約30分間,物語は二転三転する。さすが舞台劇で練り込んだ展開で,各俳優の芝居がかった演技もなかなかのものだ。大島優子は相変わらず大根だが,大竹しのぶの貫録が凄い。孫悟空のごとき,中村勘九郎の猿飛佐助もキマっている。ともあれ,製作費をたっぷりかけた本格的時代劇は,この夏の『シン・ゴジラ』よりも数段楽しめた。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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