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O plus E誌 2015年12月号掲載
 
 
(字幕版)
(日本語吹替版)
リトルプリンス 星の王子さまと私』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2015 LPPTV - LITTLE PRINCESS - ON ENT - ORANGE STUDIO - M6 FILMS - LUCKY RED
 
  オフィシャルサイト[日本語][仏語]    
  [11月21日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2015年8月5日 ワーナー試写室(東京)
2015年11月9日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  字幕版より,圧倒的に素晴らしい日本語吹替版  
  最後は,フランス製のキャラの登場だ。フランス人飛行士・小説家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの名作「星の王子さま」の知名度は抜群で,270以上の言語・方言に翻訳され,既に1億4,500万部を売り上げたというから,その点ではパディントンの敵ではない。今では,小学校高学年や中学生の夏休み必読書リストに登場するが,筆者の世代は,女子高生の愛読書だった。何故かと言えば,岩波書店刊のカラフルなハードカバー版が出版されたばかりで,少し難解な岩波調の翻訳文も相俟って,この本を携えていること自体がお洒落だったからである。今なら,滅多に映画を観ないで,語るに値しない宮崎アニメを激賞する観客層に似ている。
 既に岩波書店の独占翻訳出版権は消失し,多数の翻訳書が出版され,少し分かりやすい訳文も登場しているようだ。ただし,原作そのものが意味不明,解釈自由な書物なので,その解釈を巡って,異説,新説も飛び出し,謎解き本も何冊か登場しているようだ。
 既に1973年と1984年に実写映画化され,1978年に日本でTVアニメ化されているが,本作は純粋な「星の王子さま」の映画化作品ではない。副題に「と私」が付されているように,「若いころ不時着した砂漠で出会った星の王子さまとの思い出を語る老飛行士」が登場し,物語全体のナレーター役でもある。「星の王子さま」の後日談ともなっているが,この老飛行士と隣家の少女の交流の方が主テーマである。
 フランス製のアニメ映画だが,セリフは英語で,ジェフ・ブリッジス,ジェームズ・フランコ,マリオン・コティヤールらが声優を務めている。これは少し残念で,やはりフランス語で観たかった。当欄の関心事は,アニメの構成の仕方だ。「星の王子さま」の物語をなぞる部分はシンプルな人形を使ったストップモーション(コマ撮り)アニメ,老飛行士と少女が登場する現代の部分はフルCGアニメーション,という両刀遣いである。
 監督は,マーク・オズボーン。既に『カンフー・パンダ』(08年7月号)を成功させ,様々なアニメ技術に通暁しているから,本作の監督にピッタリだ。というか,新旧アニメ技法の二刀流自体が,監督のアイデアだという。「星の王子さま」を要約するパートを人形劇にしたのは大正解だ。元々原作本の挿し絵は素朴だが,そのイメージに合わせている(写真1)。それでいて,大切なメッセージを伝えるバラ園のシーン(写真2)は,美しく,丁寧な手作りの味わいを堪能させてくれる。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 素朴なコマ撮りアニメで童話の世界を描く
 
 
 
 
 
写真2 美しく印象的なバラ園のシーン
 
 
  一方,9歳の少女と教育ママの登場場面は,徹底して人工的で無機質なフルCGで描かれている。勿論,これは意図的で,隣家の老飛行士の庭の樹木は,質感豊かだ(写真3)。少女と老人の交流が深まるにつれ,画調も音楽も暖かみを増す。オンボロ飛行機(写真4)の造形も秀逸で,味がある。少女がこの飛行機で離陸するシーンは,本作最大の見せ場だ。雲の上に出るまでの描写が,特に素晴らしい。映画の後半は,ハンス・ジマーの音楽が物語を牽引するが,この離陸シーンやもの悲しいシーンでの音楽の挿入の仕方が絶妙だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 CG側は,庭の樹木の描写が素晴らしい
 
 
 
 
 
写真4 赤いオンボロ飛行機のデザインも秀逸
(C) 2015 LPPTV - LITTLE PRINCESS - ON ENT - ORANGE STUDIO - M6 FILMS - LUCKY RED
 
 
  少女と老人の物語だけなら,単純でつまらなかったと思う。「星の王子さま」をモチーフにしたことにより,厚みが増した。ズバリこの映画を誰に勧めるかと言えば,昔「星の王子さま」を手にして,意味不明で投げ出した少年少女たちだ。改めて本作で「大切なものは,目に見えない」なるメーセージの意味が理解できるだろう。
 試写会は2D版だけだったので,残念ながら3D版の出来映えは確認していない。字幕版と日本語吹替版の両方を見比べたが,これは圧倒的に吹替版の方が良かった。際立っていたのは,老飛行士を演じる津川雅彦の癖のある声だ。最初の語りからすぐに彼だと分かり,その顔が浮かんでしまうが,やがてこの老人に乗り移ったかのように一体化した名演技が続く。少女との交流が好ましく感じられるのは,この味わい深い声があってこそだ。エンドロールで流れるユーミンの主題歌「気づかず過ぎた初恋」も日本語吹替版だけで聴くことができる。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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