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O plus E誌 2001年6月号掲載
 
 
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『ラマになった王様』
(ウォルト・ディズニー映画
/ブエナビスタ配給)
 
(c)Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved
       
  [7月14日より全国公開予定]   (2001/4/23 ブエナビスタ試写室)  
         
     
  ピリッとした懐かしい漫画映画の味  
   最近,会長兼CEOのマイケル・アイズナーの自伝『ディズニー・ドリームの発想』(徳間書店)や『ディズニー千年王国の始まり』(有馬哲夫著,NTT出版)など,最近ディズニー社を取り上げたビジネス書が数多く出版されている。その中で決って話題となっているのが,アニメ製作部門の(後に映画部門全体の)総責任者であったジェフリー・カッツェンバーグとの確執,彼の退社とドリームワークスSKGの設立,膨大な退職金額をめぐる訴訟,等々である。
 米国の経営者でも最高の年収を誇るだけあって,M・アイズナーがCEOとなって以来,メディア産業としてのディズニー社の躍進ぶりは目覚ましく,中興の祖というに相応しい。その成長の中で,J・カッツェンバーグが率いた長編アニメ部門の業績も素晴らしい。長い間沈黙していた伝統ある部門が,『リトル・マーメイド』(89)以降,『美女と野獣』(91)『アラジン』(92)『ライオン・キング』(94)と立て続けに大ヒットを飛ばした。カッツェンバーグが去った後も,年1作のペースで製作され,『ムーラン』(98)『ターザン』(99)にいたっている。
 執念ともいうべきカッツェンバーグの対抗意識から,ドリームワークス側もアニメ製作部門を設け,『プリンス・オブ・エジプト』(98)『エル・ドラド』(00)と野心作を発表しているが,全世界のファミリー向きという点では,やはり本家ディズニーの方が勝っている。興行的にも本家の方がずっと旗色がいい。改めて,これがブランド力,伝統のなせる術だなと感じる。
 SFX史的には,『ライオン・キング』でセルアニメ調にも3D-CGを本格導入し,『ヘラクレス』(97)辺りからはVFXも多用し始めた。『ターザン』では,アーティストの描画タッチを反映できるディープ・キャンバス法を導入して芸術的とも言える背景を生みだしたことは,99年11月号で述べた通りである。『ターザン』のあと,いかにもマンガ風の『ティガー・ムービー/プーさんの贈りもの』が挟まったので,この最新作『ラマになった王様』(00)では,さらに進化した技術の粋と本格的ドラマを期待したのだが,これは見事に外された。「ラマ」というのは,南米の高地に住むラクダ科の草食動物のことである。舞台設定もインカ文明の影響を受けた南米奥地のとある王国。傲慢で身勝手で浪費家の王様クスコは,魔女イズマの怒りを買い,魔法でラマにされてしまう。人間に戻れる魔法の薬を探すクスコは,心優しい農夫パチャに助けられ,やがてこの世で最も大切なものは富や名声でなく,信じあえる友だということを知る,というのがストーリーの概略である。ロマンスもわくわくするアドベンチャーもなく,この映画のメインテーマは男同士の友情だ.
 広告宣伝も控えめだし,上映時間もわずか78分。高騰する一方の製作費を抑えて,大作主義のリスクを避けたかのようだ。『ターザン』調の森林も少し見られるが,手は込んでいない。背景の見事さなら『エル・ドラド』の方が数段上だ。宮殿やテーブル上の食器など,明らかに3D-CGベースだとわかる描写もあるが,大半はかつてのセルアニメ風だ(写真)。
写真 オブジェクトは3D-CGがベースのようだ
(c)Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved
劇画調に向う一方だったのが,かつての漫画映画に回帰した感がある。
 ところがこの味付けが,なかなかどうして悪くない。かつて映画館で観た短編漫画映画のドタバタ,スラップ・スティックが随所に見られる。懐かしのドナルド・ダック,ポパイ,トムとジェリー等々を思い出させてくれ,実に楽しかった。 大作の仰々しい大叙事詩が続いては見る方も疲れるし,飽きられる。『ターザン』もストーリーは単純でリズム感があったが,その軽やかさの方を引き継いでいる。
 この種のドタバタは,アニメ屋にとっては伝統芸術に属す技だろう。ディズニーの場合,アニメ制作スタジオはフロリダとパリに分かれているが,この作品でもその両方がほぼ均等に参加していた。伝統的技能を守るためというほど大げさなものではなかろうが,こうした息抜きがやれるのも,ディズニーというブランドゆえだろう。
 一方,長編アニメの音楽をビッグ・アーティストに依頼する近年の習慣は維持されていた。『ターザン』のフィル・コリンズ,『エル・ドラド』のエルトン・ジョンに負けじと,この映画はスティングが担当している。話題の主題歌「ラッキー・ムーチョ/ラマになった王様」は,大御所トム・ジョーンズ(日本語吹替版では西城秀樹)の歌だが,筆者はエンドロールでスティング自身が歌う"My Freind and Me"の方がずっと気に入った。
 余談だが,この映画の試写会で同じディズニー系列のVFX大作『パール・ハーバー』の予告編を観た。真珠湾を攻撃する多数の零戦や降下する爆弾の視点から見た米国艦隊の映像は見事だった。これはどう考えてもCGだろうから,今からその完成が楽しみだ。『タイタニック』級という『パール・ハーバー』の製作費(200億円以上)を確保するために,『ラマになった王様』を低予算に抑えたのなら,この息抜き戦術は成功したと言えるだろう。
 
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