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O plus E誌 2001年6月号掲載
 
 
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『テイラー・オブ・パナマ』
(コロンビア映画/SPE配給)
 
       
      (2001/5/10 ソニー試写室)  
         
     
  ポスト冷戦時代のル・カレ作品の映画化  
   『寒い国から帰ってきたスパイ』『ロシア・ハウス』で知られる国際スパイ小説の大家ジョン・ル・カレ作の『パナマの仕立屋』(集英社刊)の映画化作品である。1999年にアメリカから返還されたパナマ運河の利権争奪戦を題材とした物語だ。
 主演は,すっかり5代目007ジェームス・ボンド役が板についたピアース・ブロスナン。このイメージが強すぎると,他の役だと違和感が多くなるのだが,この映画での役どころは英国MI6の諜報員アンディ・オズナード。うん,これならピッタリだ。
  共演のパナマの仕立屋ハリー・ペンデルには,『シャイン』(96)でアカデミー主演男優賞に輝く名優ジェフリー・ラッシュ。 これは,なかなか面白い組み合わせだ(写真)。
写真 この2人の組みあわせは正解

 製作・監督は,『未来惑星ザルドス』(74)『エクソシストII』(77)『戦場の小さな天使たち』(87)で知られるベテラン,ジョン・ブアマン。これだけでも,単なるスパイ・アクションではないことが予想できる。撮影チームも美術スタッフも欧州出身者で固められ,スタジオ撮影も彼の本拠地アイルランドで行われたというから,アメリカ映画というより英国映画の香りがする。
 女とギャンブルで失敗した英国の諜報員アンディは,厄介払いでパナマに左遷される。ここで一旗揚げようと目論むアンディは,政府要人を顧客に持つ仕立屋ハリーの弱みを握り,工作員への道に引き込む。返還後のパナマ運河に利権と反体制運動を絡めて彼らがでっち上げた情報が,思わぬ事態を引き起こし,米軍がパナマへ出動するという大事へと発展した。というのが,ストーリーの骨子である。原作は運河返還前に書かれているが,映画では返還直後が舞台となっている。冷戦時代のような東西対立の単純構図でなくなった後のスパイものとしては上々の出来栄えだ。
 長編原作の脚色には,ブアマン監督も原作者ル・カレも参加したというだけあって,これは成功している。ル・カレらしくスパイの人間性が好く描けているし,それでいて,やや盛り上がりに欠けるル・カレ作品を映画らしいクライマックスに仕上げている。
 この映画のポイントは,ジェームス・ボンドを想像させておいて,実はモラルのないアンディを見せる対比の妙。ブアマン監督が『007ワールド・イズ・ノット・イナフ』を見てP・ブロスナンに決めたというだけあって,この狙いは大当たりだ。一方,夫ハリーが工作員を働いていることを知らないキャリア・ウーマンの妻ルイーザ役には,ジェイミー・リー・ジョーンズ。この設定もシュワちゃんと共演した『トゥルーライズ』(94)と同じで,このキャスティングも意図的だろう。セリフ中にもフルモンティ(アカデミー作品賞を受賞した英国映画),ショーン・コネリー,ロバート・デ・ニーロなどが飛び出してくるのも,映画ファンを意識してのお遊びだ。
 運河沿いの景観,大統領の宮殿,パナマ一の新高層ビル(マリオット・ホテル)を舞台にするなど,観光要素もちりばめられている。高層ビルや大使館の1室の一面がガラス張りの窓で,そこから見える屋外光景がしばしば登場するのが印象的だった。ロケによる実写が大半だろうが,ディジタルマット処理もかなりあったのではと感じられた。上手く処理されているが,どことなく壁に掛かった絵のような印象なのである。
 明らかにVFXなのは,クライマックスの米軍ヘリの出動と爆撃シーンだろう。そのスチル写真が公開されないので,フルCGの編隊か,数台の実写映像をコピー&ペーストしたのかは不明だが,今やどちらであっても同程度のクオリティに仕上げることは可能だ。『キャスト・アウェイ』(3月号参照)では,嵐のシーンにVFXが集中的に使われ効果的だった。ボリューム的には及ばないが,この映画でも一部のシーンをVFXで演出することで,クライマックスの迫力を増すことに成功している。
 ハリーの回想や幻想にしばしばべニー叔父さん登場するが,これは一切VFXなしだった。強いて言えば,このカットインを少しVFXで飾った方がより印象的だったと思うのだが,67歳のベテラン監督にそこまで求めるのは無理かも知れない。
 
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