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O plus E誌 2012年12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『映画と恋とウディ・アレン』:『007』は50年間で23作だが,監督ウディ・アレンは多作で,1966年に監督デビューし,1969年以来,ほぼ毎年1作を撮り続けている。その彼のコメディアン時代の映像から,創作過程の秘密,プライベート面まで,本人の語りを交えて克明に描く2時間弱のドキュメンタリーだ。26本の映画と14本のTV番組からの映像と,34人の関係者の証言が盛り込まれている。正直言って,過去のウディ・アレン作品は肌に合わなかったが,近年の作品は好きになってきた。以前から,起用する女優陣の好みは悪くないと感じていたが,それだけにダイアン・キートン,スカーレット・ヨハンソン,ペネロペ・クルスや,最新作のナオミ・ワッツのインタビューは興味津々で眺めた。マーティン・スコセッシ監督や俳優ショーン・ペンのアレン評も鋭い。本作の監督は,ロバート・B・ウィード。 20世紀後半から21世紀にかけての映画史の一部として,貴重な記録と言えるだろう。
 ■『カラスの親指』:不思議な題名だと思ったが,ここで言う「カラス」とは,詐欺師の隠語とのことだ。スリの少女とその家族が,詐欺師の男2人に助けられ,共同生活を始めるというおかしな物語だが,コンゲームとしても,家族愛の映画としても,かなり楽しめた。原作は,直木賞作家・道尾秀介の同名小説で,日本推理作家協会賞の受賞作である。主演の阿部寛とコンビを組む新米詐欺師役の村上ショージが,絶妙の演技を見せる。吉本興業所属のベテラン芸人で,映画の本格出演は初めてだという。本作での印象が強過ぎて,他作品への出演が難しくなるのではと危惧するほどのベスト・キャスティングだ。ほのぼのした擬似家族生活と適度の緊迫感に浸って,「衝撃のラスト」という触れ込みを忘れて観ていた。さほど驚きではないが,表題の「親指」の意味にじんとくる,悪くない種明かしだ。
 ■『人生の特等席』:クリント・イーストウッドの4年ぶりの主演作で,まだ主演「も」するのかと思ったら,何と何と,本作は監督なしの主演「だけ」だった。メジャー・リーグ屈指の名スカウトだが,最近は視力の衰えを隠せず,引退寸前という役どころは,まさにハマリ役だ。背筋を伸した誇り高い男の様は,『あなたへ』(12)の健さんと通じるものがある。そう言えば,この2人は同い年だった。監督は,10数年にわたりイーストウッド作品を助監督・製作総指揮等で支えてきたロバート・ロレンツで,これが監督初作品である。不器用な父親を気遣う娘役は,エイミー・アダムス。疎遠だった父と娘が絆を取り戻す物語は悪くない語り口であったのに,結末が安易過ぎる。ヒール(悪者)の2人の描き方も安直で,凡作に留まってしまったのは残念だ。
 ■『裏切りの戦場 葬られた誓い』:実話である。時は1988年,場所はフランス領ニューカレドニア,題材は独立を叫ぶ先住民との武力衝突事件で,政府軍が無抵抗の過激派を射殺した事実を,今もフランス政府は否定しているという。人質解放の交渉人であったフィリップ・ルゴルジュ大尉が出版した手記の映画化作品で,『クリムゾン・リバー』(00)のマチュー・カソヴィッツが製作・監督・脚本・編集・主演を務め,10年かけて完成させた作品だ。表題から,主人公が望まない形での不幸な結末に終わったことは想像できるが,1つ間違うと平板な表現になりがちな題材を,見事な社会派ドラマに仕立てている。24年経った現在も同地はまだフランスの植民地であるという現実を知り,暗澹たる思いになる。
 ■『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』:副題がないと『メン・イン・ブラック』シリーズのパロディで,女性版かと思ってしまうが,スーザン・ヒルの小説「黒衣の女 ある亡霊の物語」の映画化作品で,しっかりとしたゴシック・ホラーである。舞台は19世紀末の英国の片田舎で,古い邸宅で恐ろしい出来事に遭遇する若き弁護士役を演じるのは,あの『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフだ。既に23歳で,本作では一児の父という役どころだが,小柄で彫りの深く,太い眉の顔立ちは,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを終えた頃のイライジャ・ウッドを彷彿とさせる。子役でスタートし,あれだけの大きな役を終えた後は,イメージが固定してしまい,次なる出演作が難しいところだ。本作では,怪奇現象を前にした彼には,魔法の杖を出させ,呪文を唱えさせたくなる(笑)。その手はあり得ないにせよ,イメージを損なわず,俳優として再出発させる作品の選択としては,正解だったと思う。
 ■『砂漠でサーモン・フィッシング』:原題は『Salmon Fishing in the Yemen(イエメンで鮭釣りを)』であり,単なる砂漠でなく,国名が明示されている。イエメン共和国の大富豪の無茶な要望を,英国外務省が国家プロジェクトして取り上げ,水産学者ジョーン博士(ユアン・マクレガー)が難題に挑戦するという設定だ。恋のお相手は,大富豪の女性代理人のハリエットで,エミリー・ブラントが配されていた。この顎割れコンビは余り似合っていないと思ったのだが,どうしてどうして,軽妙でシニカルな会話を交わし合う前半は呼吸もピッタリで,2人ともこれほどコメディ・センスがあるとは驚いた。ヒューマン・ドラマが得意なラッセ・ハルストラム監督が,こんな洒脱なエンタテインメントを撮るのも意外だった。実現可能かと思わせる解決策を次々と実行に移す,プロジェクト進行の様も楽しめる。中盤以降,普通のラブ・ロマンスものになってしまうのが少し残念だが,前半の貯金がものを言い,楽しい作品に仕上がっている。水を蓄えたダムの光景やその放流・洪水シーンには,(レベルは高くないが)CG/VFXがしっかり使われている。
 ■『マリー・アントワネットに別れをつげて』:今までこの王妃を描いた映画や演劇を何作観たことだろう? ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』(07年1月号)も思い出すし,あの『ベルサイユのばら』もこの範疇に入る。本作の逸話は,従来作品とかなり異なっている。王妃に朗読係の女性シドニーが仕えていたという設定で,彼女の目から見た「ヴェルサイユ大奥物語」が語られている。描かれているのは1789年7月14日のフランス革命勃発直後の激動の3日間だが,物語自体はフィクションだ。フランス人監督ブノワ・ジャコーによるフランス語の映画で,実際にヴェルサイユ宮殿で撮影されている。衣装や調度類の時代考証もしっかりしている。なかなか面白い歴史劇だが,どうせフィクションならば,クライマックスをもっと盛り上げ,劇的な結末にしても良かったかと感じた。
 ■『グッモーエビアン!』:意味不明,理解不能の表題で,何で飲料水の名前が出てくるのかと思ったら,「Good Morning, Everyone」がナマったものだった。ノーテンキで騒々しい男・ヤグ(大泉洋)がしばしば発する朝の挨拶である。突然海外から帰って来て,同居を始めるこの男とシングルマザーのアキ(麻生久美子)の関係や言動には,ちょっとついて行けなかった。思春期の娘ハツキならずとも,映画の中盤過ぎまでは,イライラさせられた。終盤は,母と娘の絆を描く大真面目な話に転じる。ハリウッド流のクサイ話のはずが,前半が破天荒なだけに,心暖まるいい話に思えてくる。主人公ハツキ役の三吉彩花よりも,親友トモちゃん役の能年玲奈が良かった。別稿の『カラスの親指』でも重要な役を演じていたが,大女優に育って行きそうな予感がする。
 
  (上記のうち,『砂漠でサーモン・フィッシング』はO plus E誌に非掲載です)  
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