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O plus E誌 2009年9月号掲載
 
 
『火天の城
(東映配給)
      (C) 2009「火天の城」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月12日より丸の内TOEI 1ほか全国東映系にて公開予定]   2009年7月14日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
 
         
   
 
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カムイ外伝』

(松竹配給)

      (C) 2009「カムイ外伝」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月19日より丸の内ピカデリーほか全国松竹系にて公開予定]   2009年7月30日 松竹試写室(大阪)
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  真面目で丁寧な作りだが,もう少しCGにも予算を  
 

 今月の邦画界は,どういう訳か時代劇ラッシュである。先の『BALLAD』のような変則の時代ものではなく,この2本とも堂々たる本格的時代劇で,東映と松竹が共に今年一番の期待作と位置づける力作である。この他にワーナー・ジャパンが製作した『TAJOMARU』もあるが,残念ながらそれは未見だ。それにしても,何で同じ月に4本もぶつけるのか。皆が,秋のシルバーウィークには時代劇が相応しいと考えたのだろうか。
 『火天の城』は,直木賞作家・山本兼一が,2004年に松本清張賞を受賞した同名小説の映画化作品である。松本清張賞が大きく様変わりした時の話題作ということで,早速購入して,この小説は読んでいた。「火天の城」とは,織田信長の命で築かれた前代未聞の城郭要塞・安土城のことで,その築城責任者の宮大工・岡部又右衛門が主人公だ。その物語は,大工・職人ら延べ100万人以上を動員し,五層七階の楼閣,日本で初めての天主閣建築に関する技能集団の「プロジェクトX」だと言える。
 原作小説は,綿密な取材と資料調査で当時の建築術を丁寧に記した著作で,なるほど松本清張賞と思わせる作品だった。その半面,地味で少し盛り上がりに欠けていたという記憶がある。豪華絢爛の安土城が題材なら,映画ではそれがCGで華々しく描かれることを期待した。
 その期待にたがわず,写真1のように威風堂々たる安土城がキービジュアルとして使われている。天主だけでなく,石垣も杜も人もデジタル技術での精緻な描写だが,東映宣伝部によると,これをCGとは思わず,実写だと思っている人が多いという。一般人はそんなものなのか……。この威容に合わせて,力強い毛筆の題字が採用されている。今年のNHK大河ドラマ『天地人』の題字と同じ筆致で,人気書家・武田双雲氏による書である。筆者は小説のカバーをかざる北村宗介氏の題字も好きだが,双雲流の力強さが,この映画に賭ける関係者の意気込みを表わしているように感じる。

   
 
写真1 この精緻な描画は勿論CG  
 
   
 

 監督は『化粧師 KEWAISHI』(01)の田中光敏。主人公の岡部又右衛門に西田敏行,その妻・田鶴に大竹しのぶ,織田信長に椎名桔平というキャスティングだ。脇役陣は,寺島進,笹野高史,夏八木勲,緒形直人といったそこそこの顔ぶれなのだが,何しろ西田敏行の存在感が大きい。原作よりも感動風味付けの脚本だが,ちょっと彼の演技力に頼り過ぎといった感じで,他が少し霞んでいる。それでも,椎名桔平の信長はなかなか良かった。田中監督との相性がいいのだろう。
 美術監督・西岡善信氏の名前が表に出ているように,セット作り,小道具や装飾にも,輝かしい実績をもつ伝説上の人物の技が生きていると感じさせるものがある。安土城のデザイン・コンペに使われる3種の模型や,それを燃やす様は前半の見どころだ(写真2)。大量の檜を使った建設現場も本物感に溢れている(写真3)。天主を支える親柱の入手が物語の鍵だが,さすがにこれは合成樹脂製だったようだ(写真4)。その他,細部にわたり,さすが時代劇の東映京都撮影所だと思わせる丁寧な作りだ。
 その半面,残念だったのは,CG製の天主閣の出番が少な過ぎることだ。VFX担当は『BALLAD』と同じ「白組」だから,その仕上げが悪いはずがない。写真1のような場面は,映画中には登場しない。雪の中,朝焼け,夜のライトアップでの天主閣は登場するが,やや上からの俯瞰視点ばかりで,細部が見えるアップでのシーンがほとんどない。この作品も,美術や衣装に比べて,CG/VFXに回す製作費をケチったからだと想像する。原作通りの安土城の炎上も見たかったシーンなのに,その前で終わってしまっている。残念なことだ。

     
 
写真2 完成予想模型三体を燃やすシーンは前半の華
 
     
 
写真3 本物の檜で建築現場を組んでだというから,結構コストがかかっただろう
 
     
 
 
 

写真4 樹齢二千年の巨木は台湾で撮影したが,削り出した姿は合成樹脂製で約3トン
(C) 2009「火天の城」製作委員会

 
   
  このカムイなら,コミックファンも納得の意欲作
 
 

 一方の『カムイ外伝』は,日本のコミック界の金字塔,白土三平作の「カムイ伝」からのスピンオフした「カムイ外伝」を初めて実写映画化したものだ。監督・脚本は『血と骨』(04)の崔洋一,共同脚本執筆は売れっ子の宮藤官九郎で,主演のカムイ役を『L change the WorLd』(08)の松山ケンイチが演じている。共演は,小雪,伊藤英明,佐藤浩市,小林薫,大後寿々花といった面々で,こちらも豪華なキャスティングだ。
 そもそも「カムイ伝」は,1964年から1971年まで漫画雑誌ガロに連載された劇画で,江戸時代の農村と非人部落を描いた大長編である。主人公の抜忍カムイは,あまり登場しない。階級闘争がテーマの思想性の高い劇画で,筆者は学生時代に毎月ガロの発売を待ってむさぼり読んだ。掲載誌をビッグコミックに移し,第二部が1984年から2000年までの間に間欠的に発表されたが,あまり感心した出来栄えではなかった。
「カムイ外伝」は,同時期に週刊少年サンデーに連載され,忍者としてのカムイの技を語った少年漫画である。画調も劇画でなく,マンガ風であった。ただし,「カムイ外伝 第二部」は「カムイ伝 第二部」の前に描かれ,劇画調で内容もぐっとシリアスなドラマになった。
 映画もこのスタイルをほぼ踏襲している。前半は,山崎努のナレーション付きで,忍者カムイの技を解説してくれる。「飯綱落し」「変移抜刀霞斬り」といったカムイの得意技がいつ出て来るかが,ファンの関心事だ(写真5)。後半は,第二部中の「スガルの島」を基にした物語で,人間味のある物語と派手なアクションを両立させたスペクタクルに仕上げている。

   
 
写真5 最後も変移抜刀霞斬り同士の対決。これは嬉しい。  
 
   
 

 正直言って,この映画化にはあまり期待していなかったのだが,嬉しい誤算であった。まず,松山ケンイチのカムイが,かなり似合っている。これなら,全作品を熟読してきたファンの目から見ても合格点である。沖縄に設けた幸島オープンセットも千石船(写真6)もしっかり作られていて,造作にも演出にも手抜きを全く感じない。先が読めない攻防に真剣さが伝わってくる。

   
 
写真6 千石船は本物だが,海と浮かぶ姿や炎上シーンはVFXの産物  
 
   
 

 最大の成功要因は,CG/VFXやワイヤーアクションをふんだんに取り入れたことだろう(写真7) 。決してその質は高くないのだが,量で勝負した上に,使いどころが秀逸だ。CG製の鮫は「ジョーズ」(75)のパロディかとニヤリとするが,その鮫を一刀両断するシーンは痛快だ。大波の中を進む小舟の構図なども,白土三平作品らしい雰囲気を醸し出している。
 ともあれ,良質で見応えがある時代劇が出て来て,日本映画界が活気づくのは喜ばしいことだ。  

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写真7 突如飛び出して来る鹿や何度も登場するカモメなどもCG製
(C) 2009「カムイ外伝」製作委員会

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に入替・追加しています)  
   
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