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O plus E誌 2000年6月号掲載
 
 
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『ミッション・トゥ・マーズ』
(タッチストーン・ピクチャーズ/ブエナビスタ配給)
 
(C)2000 Touchstone Pictures. All Rights Reserved
       
         
         
     
  前半快調,後半失速  
   映画は素直に見て楽しめばよいのだが,こういう時評を書いていると事前勉強する癖がついてしまった。SFX/VFXの技法だけならまだしも,ついつい先にインターネットで海外での興行成績や一般観客の評価も見てしまう。入場料を払った客が何を言おうと自由だが,それにしても何十億円を投じ,1000人以上が従事した労作をよくもまあ好き勝手言うものだ。好みが別れることも甚だしい。例えば,Yahoo! Moviesのユーザー評点はからの5段階評価だが,平均3.2とか4.1となっていてもをつけている人はまずいない。ほとんどがのどちらかである。ウェブに意見をわざわざ投稿するのは,大感動で涙ウルウルか,金返せと叫ぶ寸前の輩なのだろうが,あまりに見事に二分されているのに驚く。映画とは,誰もがそうした勝手な思い入れを持てるものなのだが……。
 久々のSFサスペンス超大作と期待が高かった『ミッション・トゥ・マーズ』は,公開後の一般評価がことさら厳しかった。前宣伝が効いて公開第一週目はぶっちぎりのNo. 1となったものの,翌週からの急落ぶりも目立った作品である。NASAの折り紙付きの火星探査ミッションを題材に,監督は『アンタッチャブル』『ミッション:インポッシブル』のブライアン・デ・パルマ,主演は『フォレスト・ガンプ』『アポロ13』『スネーク・アイズ』で名脇役を演じたゲーリー・シニーズ,共演は『ショーシャンクの空に』の主役ティム・ロビンス,共に監督経験もある演技派だ。視覚効果担当はディズニー系のDream Quest Images(DQI)に大手ILMも参加となると,アメリカ人なら喜びそうな冒険スペクタクル映画のはずである。何がそんなに不興を買ったのかと,余計に見たくなってしまった。
 時は2020年,人類初の有人探査計画で火星表面に降り立ったマーズ1号の乗組員たちを突如大きな砂嵐が襲う。急遽救出ミッションが組まれ,マーズ2号で4名が火星に向かうが,途中隕石衝突による事故のため宇宙船は大破する。レスキュー隊長ウッディ(ティム・ロビンス)を犠牲にして,残る3名は着陸船でかろうじて火星に到着する。そこで彼らを待っていたものは……というストーリーである。
 前半は悪くなかった。事故からウッディを失うまでの宇宙空間での葛藤は見ごたえがあった。「なんだ,結構面白いじゃないの」と思ったのだが,火星到着後からラストまでがいけなかった。サスペンスもなければ,アドベンチャーでもなく,盛り上がりに欠ける。巨大な顔状の砦も火星人も子供じみていて,たわいもない物語で終わってしまった。この脚本では,クールでシニカルなG・シニーズの味も生きてこない。
 過去の宇宙ものの手法をいたるところに取り入れている。『アポロ13』や『アルマゲドン』が下敷きにあることは確かだし,『2001年宇宙の旅』『未知との遭遇』へのオマージュと思しきシーンも再三登場する。異様な巨大隆起物も,シグナル音を利用した宇宙人との交信も,エンディングの甘さも『未知との遭遇』に似ている。この映画は,ワーナー・ブラザースの類似企画『レッド・プラネット』に対抗して公開が数ヶ月早まったというが,そこでシナリオの詰めが甘くなってしまったのだろうか。
 
     
  宇宙考証は正確  
   ストーリーはお粗末だが,映像は見ごたえ十分だ。数ヶ月の前倒しをカバーするために,視覚効果にはDQIとILMに加えてティペット・スタジオ,CIS(Composite Image Systems)など数社が参加した。それに見合うだけ,しっかり仕上がっている。
 映像のマジシャン,ブライアン・デ・パルマという印象が強いが,この映画ではむしろ宇宙船も火星も極めてオーソドックスな作りになっている。見どころの第一は,赤茶けた火星の数々のシーンである(写真1)。大きな赤い砂嵐は,てっきり『ツイスター』で竜巻を『ハムナプトラ』で砂塵に顔を描いたILMの製作かと思ったが,これはDQI社の作らしい(写真1a)。どのVFXプロダクションも,機会あればレパートリーを増やしたいのだろう。
 火星表面の撮影は,バンクーバー南部のフレイザー砂漠で行われた。砂丘を削り,コンクリートでコーティングした後,大量の赤いペイントを吹き付けたという。太陽光の照り返しのシーン等を見ると,さらに赤色フィルタを使ったか,あるいはディジタル処理で色調を調整したかと思われる。じっくり観察すると,遠景のマット画と赤い地表面のつなぎにやや不自然なところもあるが,全体としてはよくできている。1976年のバイキング号が撮った地表面写真,1997年のマーズ・パスファインダーが捉えたステレオ画像等で知った火星にそっくりだった。
 宇宙から見た火星(写真1b)も素晴らしい。宇宙空間に浮かぶ地球と同様,これらもNASA提供の画像をもとに作られたのだろう。時代考証ならぬ宇宙考証に相当な時間をかけたと思われる。97年10月号でNASAのケネディ・スペース・センターの見学記を書いたが,そこで見た数々のロケットや宇宙船と比べて違和感は感じないし,IMAX映画で見た実録の宇宙遊泳とも酷似している。宇宙空間で船体に落ちる影(写真2a),無重力空間に飛び散る血液(写真2b)やソフトドリンクの塊り具合も,本物の映像を研究してCGで再現されたのだろう。この映画は,ドキュメンタリー・タッチで描いたら,もっと優れた作品になっていただろう。
 
     
 
(a)(b)
写真1 赤い火星の光景は見物
(a)模型の宇宙船は実写の宇宙飛行士CG影を合成(b) 飛び散る血液はもちろんCG
写真2 宇宙考証はNASAのお墨付き
(c)2002 TOUCHSTONE PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.
 
     
   ストーリーはでも,映像制作・視覚効果ではに値する。ビデオではそれを味わえないので,NASA推奨の想定火星映像と考えて映画館で見ることを勧めておこう。  
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