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O plus E誌 2006年3月号掲載
 
 
ミュンヘン』
(ユニバーサル映画
&ドリームワークス映画
/アスミック・エース配給)
      TM&(C) DREAMWORKS LLC. /Universal Studios  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月4日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開中]   2006年1月19日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  さすが巨匠の入魂作,ラストの余韻が心に残る  
 

 この号が出た約1週間後に今年度のアカデミー賞授賞式がある。秋口頃から「本年度アカデミー賞最有力作品」と自称する作品が続々と登場して,マスコミは早々と予想を書き立てる。この映画はさほど前評判に上らなかったが, 1 月 19 日に試写を観たとたん,なぜこの映画が作品賞の対象じゃないのか,巨匠スティーヴン・スピルバーグにはもはや賞など贈るのは失礼というのか,他の監督作品なら話題沸騰で最有力だったろうにと感じた。果たせるかな1月末の候補作品発表では,しっかり作品賞と監督賞の両部門にノミネートされていた。
 前評判が立たなかったのも無理はない。最近のスピルバーグ作品は事前情報を流すことを極度に嫌い,公開直前までベールに包まれている。完成披露試写会もギリギリまでないから,こうして公開後の号でしか紹介できない。批評家泣かせだが,監督名だけで客を呼べる自信があるから,事前の風評を避ける方法が取れるのだ。
 この数年,『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2003年3月号)『ターミナル』(2004年11月号) は大スターを起用しながらも,軽いタッチの娯楽作品だった。 SF 大作『宇宙戦争』(2005年8月号)は,ご当人は渾身のリメイク作品のつもりだったようだが,大ズッコケで終った。本作品は,その鬱憤を晴らすかのようなシリアス系の力作である。となると,オスカー受賞作の『シンドラーのリスト』 (93) 『プライベート・ライアン』 (98) と比べる評も少なくないが,そのいずれにも似ていない。これは,映画を知り尽くした巨匠にとっても,細心の目配りと絵作りの感性の限りを尽くした挑戦作だと思う。
 1972 年ミュンヘン五輪の選手村にパレスチナ・ゲリラ「黒い九月」が侵入し,イスラエルの選手・コーチら 11 人を拉致した上で銃殺する。ドイツ警察の救出作戦失敗に激怒したイスラエル政府は,その後自らの手で首謀者 11 人への報復を企てた。秘密諜報機関モサドの一員のアヴナーは,仲間 4 人と活動資金を与えられ,この暗殺任務のリーダーを命じられる。家族を残して暗殺者として歩み出す彼の苦悩と報復テロの生々しさを描く。
 主演のアヴナー役は,『ハルク』(03年8月号)『トロイ』(04年6月号)で骨太の演技を見せたエリック・バナ。暗殺チーム仲間には, 6 代目ジェームズ・ボンド役が決まったダニエル・クレイグ,『アメリ』(02年1月号)のマチュー・カソヴィッツをはじめ,多彩で渋い脇役陣を起用している。いいキャスティングだ。
 個性的なプロたちとはいえ,何事にも超人技で成功するスーパーマン集団ではない。何度かの失敗を経験し,仲間を失いながら,暗殺を続けるチームの心情に感情移入してしまう。アクションが派手過ぎないゆえに,銃撃戦は却ってリアルで衝撃的だ。 2 時間 44 分を長く感じさせない見事な語り口で観客を引き込んで行く。雨中の襲撃失敗シーンや,カメラを引いたショットで見せる公園のシーンなど,絵作りの上手さにも感心する(写真 1)。

 
     
 
 
 
写真1 ここも重要な一場面。構図がうまい。
TM&(C) DREAMWORKS LLC. /Universal Studios
 
     
 

 この映画の VFX 担当は,天下の ILM 。ミュンヘンを初め,ブダペスト,アテネ,ベイルート,パリ,ローマ,ロンドン等の当時の街並みを表現するデジタル視覚効果が目立たない形で参加しているのだろう。アヴナーの若妻ダフネの妊娠中の大きなお腹は,本物だろうか CG の産物だろうか? いずれであっても不思議はない。
 確実なのは,エンディング近くでアヴナーが暮らすブルックリンから眺める対岸のマンハッタンの光景だ。 1970 年代の街並みは現実の映像をデジタル加工して作ったに違いない。静かにカメラをパンして,その南端に見えるぼやけたツインタワーの姿。主義主張の違う民族間での報復テロの繰返し合戦からは何も生まれないことを語るのに,これ以上の映像は要らないだろう。 

 
          
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