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O plus E誌 非掲載
 
 
 
20世紀少年
<第2章>
最後の希望』
(東宝配給)
 
      (C) 1999, 2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館
(C) 2009 映画「20世紀少年」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [1月31日より日劇2ほか全国東宝系にて公開中]   2009年2月6日 TOHOシネマズ梅田  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  観客は,若いコミック愛読者層だけという現実  
 

 いつ観ようか,どこで観ようか,それまでに原作コミックをどこまで読み進んでおこうか,これほど迷った作品も珍しい。3部作の第1作は,映画の完成が遅れ,なんとか劇場公開前にマスコミ試写会で観ることはできたが,公開直前のO plus E誌2008年9月号には間に合わず,Webページでの紹介だけに留まってしまった。その代わりに紙幅の制限がなく,通常の記事の2倍近くの分量で,紹介・評価文を書くことができた。
 結局,続編の第2章もWeb上だけでの紹介とし,これは公開後に劇場で観ることにした。前作は,邦画としてはかなりの話題作であったが,評論家筋の評判は軒並み芳しくなかった。それゆえ,第2作目にはどのような年齢層の観客が足を運んでいて,どのような反応を示すのか,直接この目で確かめてみたかったからである。この作品に関しては,映画の中身そのものよりも,それが日本の映画観客にどう受け止められるかの方に興味がある。現在の邦画の市場性や問題点を象徴しているかのようなシリーズ企画だからだ。
 一般公開日は1月31日(土)だったが,選んだのはその翌週の2月6日(金)の夕方で,大阪・梅田のシネコンTOHOシネマズ梅田」での18時からの回だった。噂を聞いて出かけるにせよ,休前日のデートコースに利用するにせよ,最も好都合で客の入る時間帯のはずである。既に,公開週末2日間の興行成績は,動員55万6354人,興収6億2218万4250円,「第1章」対比で99.4%という結果が出ていた。前作同様,興収40億円は固いというから,日本の映画興行の年間ベスト10に入る立派な数字である。
 昨年スクリーン数を増やしたシネコンで,この映画に割り当ててられていたのは,一番大きい座席数751の「シアター1」だった。立地抜群の関西最大のハコであり,東京なら有楽町の「日劇1」に相当する。そこでの観客の入りは40%程度だったろうか。前夜開催の『レッドクリフ Part II』の完成披露試写会も同じシアターだったが,8割以上の席が埋まっていた。有料だと約半分という数字は,公開週の週末からの落ち込みが激しいのか,大阪とはいえ,地方都市の映画人口がこんなものなのか,この時点ではまだ判断ができなかった。ところが,2週目の週末も首位,公開9日間で早くも動員100万人を突破し,累計興収は13億3900万円に達したという。そーか,こういう風に全国各地の都市でコツコツ稼いで,興収数十億円に達するのだなと理解した。その点,洋画は地方都市で弱いようだ。
 さて,問題の観客層である。想像していた以上に,圧倒的に若い世代だけだった。恐らく,この大半が原作コミックの愛読者なのだろう。カップルが多いし,男同士のグループもかなり居る。小中学生男児を連れた母親の姿も見えた。見回したところ,中高年男性はたった1人だった。よほどの浦沢直樹ファンなのか,筆者のように訳ありで観に来ていたのだろうか。過去に筆者がシネコンで観たどの映画よりも,もっとも年齢層の広がりが小さい。ビッグコミック・スピリッツの読者層はもっと広いはずだが,映画となるとそれがぐっと絞られてしまうのだろう。これで第1作と比べて99.4%ということは,そっくり同じ連中がこの3部作を観に来ていることになる。何やら,宗教集団がバックある政党の選挙動員のようで,気味が悪い。まさか「ともだち」を崇め奉る連中が集まって来た訳でもあるまいに……。
 映画興行もビジネスである以上,商品性の高い作品を生み出す必要がある。それにしても,日本映画はこんな狭い観客セグメントだけを相手にしていて良いのだろうか? 春休みや夏休みの「マンガまつり」ではないのだ。いやしくも,この映画は週末の繁華街の最大のスクリーンにかかる看板作品である。映画は,監督の他,撮影・照明・美術・衣装・編集・音楽担当のプロのスタッフが大勢関わって完成する総合芸術である。ロクに映画を観に来ない中高年が悪いと開き直るのではなく,TVドラマやコミックや人気ゲームにばかり頼る企画や,想定観客世代にしか広報・宣伝を打たない姿勢に問題があるのではないか……。そう感じて久しいが,改めてその傾向を再確認せざるを得ない結果だった。

 
     
  原作の破綻を上手く回避しつつ,怒濤の展開  
 

 観客層分析が長くなったが,映画の中身に移ろう。20世紀末の「血の大みそか」から15年経った2015年が第2章の主たる舞台である。主要登場人物はほぼ同じだが,主人公であるはずのケンヂ(唐沢寿明)の出番はほとんどない。その身代わりのように,本作では姪のカンナがヒロインとして物語を引っ張る。原作コミック全24巻(含,結末編『21世紀少年』)の内,ほぼ15巻目までをカバーしている。「ともだち」が打たれて死亡し,万博の開会式で復活する辺りまでである。原作は,浦沢作品らしく時代や場所を激しく往来するが,この第2章はカンナの登場場面を寄り集めた感がある。そのお蔭で,随分分かりにくさが緩和され,すっきりした続編になっている。
「ともだち教団」が目論む世界人類滅亡に抗する「最後の希望」であるカンナを演じるのは,3000人のオーディションから選ばれた平愛梨(たいら あいり)だ。実年齢は既に24歳だが,152cmと小柄なので,十分高校生に見える。他に,成人したサダキヨ役のユースケ・サンタマリア,蝶野役の藤木真人,高須役の小池栄子などが新たに登場するが,やはりカンナの存在感が図抜けている。内田有紀似で男っぽい性格を役柄を好演しているが,ルックスは原作のカンナにあまり似ていない(写真1)。基本方針として徹底してコミックに似た俳優を使い,母親のキリコ役の黒木瞳もイメージはぴったりなのだから,カンナももう少し何とかして欲しかったところだ。

 
   
 
写真1 右が「最後の希望」である遠藤カンナ  
 
   
 

 顔面相似形といえば,石塚英彦のマルオ,六平直政の仁科神父などは,コミックから抜け出て来たかのように生き写しだ。そして,1作目同様,多くのシーンはコミックの構図そのもので,既視感に溢れる映像になっている(写真2)。これは,その是非を論じるレベルではなく,大ベストセラー・コミックをなぞり,その読者を映画館に呼び込もうという大方針なのだから,そう受け取るしかない。一体,次はどうなるんだろうという思わせぶりな演出も浦沢ワールドを踏襲している。勿論,原作にはない場面もいくつか登場し,映画ならではのスケールアップも感じられる(写真3)

 
   
 
写真2 代表的な思わせぶりシーン。さあ,仮面の下は……。  
 
   
 
 
 

写真3 これは映画ならではの場面。この後,衝撃の……。
(C) 1999, 2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館
(C) 2009 映画「20世紀少年」製作委員会

 
   
 

 CG/VFXはといえば,前作以上の頑張りが見られた。銃口からの閃光,飛行船などは序の口だが,東京の街頭風景を少し加工する,その手口が上手い。国会議事堂前,海ほたる,新橋駅前ビル,代々木駅前,新宿歌舞伎町をVFX変形し,ともだち教団によって「少し変な社会」が到来していることを感じさせる。子供たちが興じる空間型の3Dビデオゲームやレーザーあや取りも出色だった。いずれも原作コミックには登場しないオリジナルで,この演出とデザインを考えた担当者には,座布団1枚,いや2枚進呈しておこう。第1章と第2章は同時撮影したというから,CG /VFXにかける時間があった分,この続編の視覚効果の方がかなり優れているのも当然だ。残念なのは,そのスチル写真を提供されないことである。
 この映画には随所にギャグが登場するが,その多くは古い親父ネタだ。そもそも原作からして,昭和の世相・風物誌の趣があるが,映画はそれを徹底的にビジュアル再現する。バーチャルリアリティとして登場する駄菓子屋などは実に見事だ。1970年当時の子供の服装,小学校の教室や校庭などの描写にも気合いが入っている。音楽もしかりだ。ただし,「バハハーイ!」といった別れのセリフや「おらは死んじまっただー」と口ずさむメロディなどは,若い観客に通じるのだろうか。黛じゅんや吉沢京子も通じる訳がない。美術班や衣装班のベテラン・スタッフは嬉々として,20世紀の再現に力を入れただろうが,その遊び心が分かる世代は観客層の中にはいないのだ。もう一度言うが,この映画の広報・宣伝方法は,これでいいのか?
 前作の直後に原作コミックを半分の12巻目まで読んで,原作の面白さを味わってしまった筆者は,それ以上進むのを止め,この続編を待った。すでに一般観客の視点ではなく,原作のファンの目でしか,この3部作を評価できない。その視点からすれば,この2作目は結構よく出来ている。堤幸彦監督が「もうスピードで疾走する怪物のような作品」と自ら語るように,この映画はテンポが良い。思わせぶりな描写で読者を煙にまく浦沢作品は,風呂敷を拡げ過ぎて構想が破綻し,連載の終盤には収拾がつかなくなる。この映画はその欠点をよくカバーし,整理してまとめ上げている。
 さぁ,色々張った伏線は,次作でどう料理するのだろう? コミックのエンディングは不評であったが,原作をどう換骨奪胎し,満足感が得られる最終章とするのか,脚本家と監督のアレンジャーとしての腕が見ものだ。

 
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