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O plus E誌 2008年7月号掲載
 
 
『ホートン ふしぎな世界のダレダーレ
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2008 Fox, Based on Dr. Seuss characters TM & (C) Dr. Seuss Enterprises.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月12日よりお台場シネマメディアージュほか全国公開予定]   2008年5月30日 東宝試写室(大阪)
 
         
   
 
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カンフー・パンダ』

(ドリームワークス映画
/アスミック・エース
&角川エンタテインメント配給)

      Kung Fu Panda TM & (C)2008 DREAMWORKS ANIMATION L.L.C.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月26日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2008年5月30日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  良心的でオーソドックスなファミリーアニメ
 
 

 この夏公開のフルCGアニメ2本を取り上げよう。もはや全編3D-CGであることには何の珍しさもないことは再三書いた。両作品とも大きな興行収入を上げ,世界市場で通用しているとなると,その企画意図と作品の水準を分析してみたくなった。迎え撃つ本邦では,宮崎駿監督作品『崖の上のポニョ』と押井守監督作品『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』が待機している。まだセル調アニメの基本を崩さず,世界に影響を与えたジャパニメーションの教祖的存在が揃って新作を公開するとなると,アニメ市場の動向に否が応でも興味は湧く。
 まず『ホートン』は,『アイス・エイジ』シリーズの20世紀フォックスのCGアニメだから,当然ブルー・スカイ・スタジオの制作だ。『ロボッツ』(05年8月号)『アイス・エイジ2』(06年5月号)に続く第4作目となる。相変わらず,職人気質の丁寧な作りだ。今回はオリジナル脚本ではなく,絵本「ぞうのホートンひとだすけ」(わたなべしげお訳,偕成社刊)を元にしている。本作の映画の原題は『Dr. Seuss' Horton Hears a Who』だが,ドクター・スースは欧米では誰もが知っている著名な絵本作家で,映画化作品には毎度この冠がつく。本欄ではかつて『グリンチ』(01年1月号)を紹介したが,これはCGを多用した実写映画だった。その時の主演ジム・キャリーをホートンの声に起用したのは,『グリンチ』の成功にあやかりたいという想いからだろう。
 象のホートンは,ドクター・スースの作品の中でも数作品に登場する人気キャラであるから,そのイメージは崩せない(写真1)。いきおい,他の動物たちのタッチも絵本に忠実で,年少者向けのシンプルなデザインとなる。ダレダーレ国の住人や町の描写もしかりだ(写真2)。それなら3D-CGである必要はないのだが,欧米のアニメ制作は完全に3D-CG化への道を歩んでいる。もはや引き返せない。そのためか,映画の冒頭からいかにも3Dを意識した作りが目立つ。IMAX-3Dも意識した遠近感強調の表現だ。濡れた肌や光の陰影も見事で,一般観客が意識しない細部で,このスタジオのこだわりが感じられる。CGなら当然と分かっていながら,野原一面のレンゲ草のシーンは壮観だ。
 物語は,ジャングルに住む想像力豊かな象のホートンが,ほこりの中にある極小の国「ダレダーレ」からの助けを求める声を聴き,この国を助けるため奔走するというもの。小さな国の市長の責任感,住民の連帯意識,親子愛など道徳めいた話が続くが,それほどクサくはない。ダレダーレ国の存在を信じない森の住人たちのマスヒステリー,宗教裁判めいた弾劾などは,信じることの大切さを訴えるが,特定の宗教に基づいたものではない。即ち,子供にも安心して見せられる良心作だが,大人だけで観る映画ではない。
 そうとは分かっていながら,クライマックスに向けてのストーリー展開,物語展開は秀逸で,思わず見入ってしまう。映画はこう作るのだという教材になるだろう。ライティング,カット割りも含めて,3D-CGは,実写映画よりも映画教育に適している。

   
 
 
 

写真1 象のホートンは,原作のイメージを踏襲

 
   
 
 
 

写真2 小さなダレダーレ国の住人たちと町の様子
(C) 2008 Fox, Based on Dr. Seuss characters TM & (C) Dr. Seuss Enterprises.

 
   
  助演男優賞,美術賞に値するダイナミックな武侠映画
 
 

 もう一本の『カンフー・パンダ』は,『シュレック』シリーズのドリームワークス・アニメーションの作品で,『ビー・ムービー』(08年1月号)以来となる。この後も作品は目白押しなので,今や業界一の量産体制を敷いていることは間違いない。『ビー・ムービー』はやや消化不良気味の作品だったが,別チームが担当した本作には相当力が入っている。同社の営業方針として,ディズニー&ピクサーの主力客層よりも少し上の青年層をターゲットとしているが,本作品はアクション好き,カンフー好きの一般観客の観賞に耐えるクオリティに仕上がっている。動物たちがカンフーをするというだけで,ギャグ満載のおふざけ映画を想像してしまうが,どうしてどうしてアニメとはいえ,これは立派な武侠映画である。
 中国の山深くにある美しい桃源郷「平和の谷」が舞台だ。その地には,翡翠城の奥深くに眠る龍の巻物の奥義を得た者が,史上最強の「龍の戦士」になれるという言い伝えがあった。極悪非道のカンフー戦士タイ・ランが刑務所を脱獄し,龍の巻物を狙ってやって来ることから,平和の谷に危機が訪れる。彼に対抗する勇者を選ぶ試合で,並みいるカンフー達人たちを差し置いて選出されたのは,体は大きいが小心者のパンダのポーだった……。
 鈍重でひょうきんなポーの声にはジャック・ブラック,彼を鍛えるシーフー老師にはダスティン・ホフマンというキャスティンが素晴らしい。この名コンビの掛け合いが絶妙で,それがこの映画の最大の成功要因だろう。シャイで人情味のあるポーには,ドリームワークス・アニメーション社の大スター「シュレック」のイメージが重なる(写真3)。となると,シーフー老師は「ドンキー」のはずだが,「長靴をはいた猫」のキャラも重なっている。その達人振りと愛すべき存在は,『スター・ウォーズ』シリーズの「ヨーダ」を感じさせてくれる(写真4)。完全に主役を食ってしまっている。「天才バカボン」と「バカボンのパパ」のようでもある。アニメ作品であっても,助演男優賞でオスカーを贈りたいくらいだ。

 

 
写真3 パンダのポーにはシュレックのイメージが重なる  
 
   
 
写真4 完全に主役を食ったシーフー老師の名演  
 
   
 

 声の出演者は,他にはアンジェリーナ・ジョリー,イアン・マクシェーン,マイケル・クラーク・ダンカンなどを配した上に,カンフーにピッタリのジャッキー・チェンやルーシー・リューまでを登場させているから,力の入れようが分かるというものだ。実際,カンフー・シーンの出来映えは本格的で,かなりのものだ。アニメとはいえ,テンポは速く,年少者はついて行けないだろう。ゲーム世代が主ターゲットだろうか。
 音楽もいいなと思ったら,案の定,筆者のお気に入りのハンス・ジマーとジョン・パウウェルが担当だった。もう1つ特筆すべきは,背景の描き込みの見事さだ。至る所で中国の素晴らしい光景が登場する(写真5)。荘厳,静寂,華麗,優美……音楽に合わせて,背景画も様々な顔を見せる。宮廷内部の装飾や調度品,華麗な外観の表現にも力が入っている(写真6)。派手なアクション・シーンで破壊される建物の描写にも一分の隙もない。これまたアニメ作品であったとしても,美術賞にノミネートされて良いくらいだ。
 難を言えば,それだけ緻密にデザインされた作品でありながら,ちょっと脚本が弱いのが惜しい。それでも,春から夏にかけて多数登場したカンフーもの(次号紹介作も含む)の中では,この作品がベスト1だ。

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写真5 随所に中国ならでは光景が描かれている。背景の山も建物も,桜が舞い散る様も美しい。
 
     
 
 
 
 
 

写真6 宮廷内部の装飾や外観の描写にも力が入っている。美術賞ものだ。
Kung Fu Panda TM & (C)2008 DREAMWORKS ANIMATION L.L.C. ALL RIGHTS RESERVED

 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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