先月号の『少林少女』の短評で「チャウ・シンチーは名前だけの参加なのか？」と書いたが，本作品は正真正銘チャウ・シンチー（周星馳）が監督・製作・脚本・主演の香港映画の最新作である。『少林少女』の公開に合わせて，ヒット作の『カンフーハッスル』（05年1月号）『少林サッカー』（02年5月号）がテレビ放映されたから，知名度もぐっとアップしたことだろう。4月号の『カンフーくん』に加えて，この夏は『カンフー・パンダ』『カンフー・ダンク』の公開が控えているから，映画界は時ならぬカンフー・ブームの再来である。当然，この『ミラクル7号』も楽しいカンフー・アクション満載かと思いきや，カンフーは全くなし，親子愛を描いた初のSFファンタジーだという。
　工事現場で働く日雇い人夫の父親のティーは，一人息子のディッキー（シュー・チャオ）に新しい靴も買ってやれない超ビンボー生活なのに，「息子には最高の教育を受けさせたい」という想いから，金持ちの子女が集まる名門小学校に通わせていた。ディッキーは学校では同級生の再三のイジメにあうが，そんなある日，ティーがゴミ捨て場から拾ってきた緑色の物体を，最新型ロボット「ミラクル7号」と称して友人に吹聴する。これが実は謎の地球外生命体で，そのミラクルパワーの助けを借りて，学校生活はバラ色になるはずだったが……。
　原題は『長江七號』，英題は『CJ7』である。劇中に登場するペット型ロボット「長江一號」の延長線上の命名だが，邦題の『ミラクル7号』はパンチに欠ける。ただし，愛称で「ナナちゃん」と呼ばせたのは正解だった。字幕版でもこの愛称はピッタリだったから，日本語吹替版なら尚更だろう。ゴム状の緑のボディと白い毛の頭部をもつ単純な形状で，クレーンキャッチャーにありそうな安っぽいオモチャである（写真1）。ところが，CGの力を借りて，変形自在，表情も豊かになると，俄然「ナナちゃん」の愛称が活きてくる。
　前半は快調，周星馳ワールド全開の楽しさだ。『少林サッカー』の切れ味には劣るが，ギャグや遊び心は，これぞ本家と思わせる水準だ。この人の映画の妙味は，脇役の人物造形の楽しさにある。よくぞこんなに極端で漫画的なキャラを用意し，それに合う俳優を探して来るものだ。工事現場のボス，嫌われ者のカオ先生から，いじめっ子のジョニーはもとより，極め付けは超デブデカ少女のマギーだ（写真2）。こんな女子学生を登場させ，コケにするのは，ある種の差別じゃないかと思ったが，演じているのは男性レスラーとのことだ。それじゃ，納得だ。

　SFX/VFXシーンは，全体で約400カット。世界水準からすれば，そんなに高級な技は使っていないが，使いどころが上手い。UFO（写真3）や宇宙空間は，いかにもいかにもという感じのクラシックな表現で，ゴキブリやウンチのギャグは笑わせてくれる。それでいて，建築現場の高層部分からの眺めなどは，さりげないインビジブルVFXである。
　ゴム状で変幻自在のナナちゃんは，実物オモチャとCGの両方を使っているのだろう。その繋ぎ目は全く目立たないから，白い毛の部分の表現力はかなりのものだ。その表情の豊かさはこの映画のウリだが，目の部分にはしっかり周囲の映り込みも施されている（写真4）。クライマックスで，ナナちゃんがフルパワーを発揮する場面の表情は絶品である。
　映画の後半は，親子愛で少し泣かせてくれるが，その点では凡庸だ。E.T.ものとしても新味はない。チャウ・シンチーなら，どんな斬新なギャグや毒気を見せてくれるだろうと期待した向きには，少し残念な出来映えだ。
　最後に，ちょっとネタバレ（？）をしておこう。ディッキーを演じるシュー・チャオは，この映画で抜擢された子役だが，何と，少年ではなく，女の子だという（写真5）！ これはサプライズだ！ 将来はどんな俳優に育って行くのかが楽しみだ。