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O plus E誌 2008年1月号掲載
 
 
 
ナショナル・トレジャー 〜リンカーン暗殺者の日記〜
(ウォルト・ディズニー映画)
 
      (C)2007 Disney Enterprises, Inc. and Jerry Bruckheimer, Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [12月21日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2007年12月12日 東映試写室  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ハリウッド流週末家族連れ娯楽映画の模範解答例2  
 

 この映画も全世界同時公開だ。各配給会社の大作には,ほぼ必ず「字幕翻訳:戸田奈津子」と入るので,どれが広告宣伝に力を入れている作品かすぐ分かる。競馬なら,春のクラシック路線の有力馬には,武豊か安藤勝己が騎乗するのと同じだ。それが『アイ・アム・レジェンド』には名前がなかったので変だと思ったら,こちらの担当だった。いくらパワフルな戸田さんでも,この短期間に両方引き受けるのは無理だったようだ。
 こちらはヒット作の続編である。前作は他愛もない宝探しがテーマで,北米では2004年11月の感謝祭週末に,日本では翌年の春休みに公開され,日米共に週末興行成績3週連続No.1のメガヒットとなっている。となれば,直ちに続編製作が企画されたのも当然だ。
 さて,この映画に関して何を語ろうか? 余りに前作と同じパターンであるため,評するのにも困ってしまう。米国史の重要事件に関係する暗号解読に始まり,冒険の連続を経て,お宝を探し当てて大団円となる。製作:ジェリー・ブラッカイマー,監督:ジョン・タートルトーブ,主演:ニコラス・ケイジ,ダイアン・クルーガー,そして助演陣はジャスティン・バーサ,ジョン・ボイト,ハーヴェイ・カイテルまでが全く同じだ。
 前回は合衆国初代大統領ジョージ・ワシントン,今回は第17代大統領アブラハム・リンカーンに関わる話から始まる。前回は独立宣言書の盗み出し,今回は現職大統領を誘拐といった荒技をストーリー展開の核にしている。目指す宝は,前作は古代から遺された世界の貴重な文化財,本作は南部連合が隠した埋蔵金(黄金都市)と,これも全くの相似形である。
 脚本は前作の方が面白いが,地下都市のスケールは本作の方が上だ。CF/VFXの担当も同じAsylum社だが,これまた大仕掛けのVFXは控えめで,インビジブル・ショットに徹している。むしろ,セットデザインや撮影現場でのSFXの方に力が入っている。敵役は,前回のショーン・ビーンに対して,今回はエド・ハリスだが,この渋い名脇役がちっともワルに見えない。セックスも暴力もなく,主人公は1人の人間も殺さない。純然たる悪人は存在せず,皆いい人たちばかりだが,いかにPGレートのファミリー映画とはいえ,少しクサ過ぎる感もある。
 クサいと言えば,勿論うるさいくらいに家族第一主義が掲げられている。前作では,主人公ベン・ゲイツ(N・ケイジ)と父親(J・ボイト)の和解だったが,本作では母親が登場し,32年前に別れた夫とも和解する。これが,『クィーン』(07年4月号)でオスカーに輝いたヘレン・ミレンであるのが嬉しい。「おや,エリザベス女王まで登場か」と思わせるのが商売上手の所以だ。
 もとより,感動で涙する映画でもなければ,批評家受けを狙って斜に構えた映画でもない。まかり間違っても各種映画賞にノミネートされる心配もない。感心するのは,クリスマス休暇に家族連れが映画館に足を運び,安心して楽しめるポップコーン・ムービーに徹していることだ。この映画をネタに語ろうと思えば,米国大統領の歴史と都市伝説,「自由の女神」にまつわる逸話,テンプル騎士団とフリーメイソン,南北戦争当時の社会的価値観まで,蘊蓄を語れる社会科教材だ。
 そういう拘束条件をすべて並べた上で,興行的にヒットする映画を作れと言われて,きちんと方程式通りの答えを出せるのだから大したものだ。映画脚本家やプロデューサの養成コースの教本に使えるのではないかと思う。 
 ところで,この映画にはスチル画像が事前にほとんど提供されず,しかもWeb掲載禁止だが,された画像ですら,そんなシーンはどこにも登場しなかった。おそらく,当初予定の脚本を書き換えたか,複数あったエンディングの1つであったのが,急遽ボツになったのだろう。それもハリウッド流ビジネスの1つだ。
 欠点を言えば,この映画の音楽はうるさすぎる。場面を盛り上げるのを通り越し,「ハイ,ここでハラハラドキドキして,ここで大いに驚いて…」と一々誘導指示してくるのがウザったい。まるで,ゴンドラか遊覧船に乗ってテーマパークのアトラクションを次々に見せられているかのようだ。
 そーか,このシリーズは最初からディズニーランドのアトラクションで使えるように考えてあったのだ。ならば,VFXに凝らず,現場特殊効果を重視したのも理解できる。ラシュモア山の地下に眠る黄金都市のデザインは,なるほど,そのままディズニー・ワールドで再現できるという訳だ。恐るべし,J・ブラッカイマー!     

 
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  (Web掲載が許可されていないため,O plus E誌に載せた画像ここでは割愛しました)  
   
   
    
 
付録:清水寺でのトーク&試写会ルポ
   
   全国5ヶ所のナショナル・トレジャーで記念試写会 この映画にキャンペーンの1つとして,清水寺で行われた試写会イベントを取材したので,述べておこう。
 話題の大作となると,試写会が始まる前に,撮影日記の公開,ブログの他に,様々な企画・イベントで盛り上げようとする。オフィシャル・サイトを見て分かるように,この映画の付随企画も相当に多彩だ。その1つとして,全国で国宝・重文級の建物で一斉試写会を催すという。東宝の『日本沈没』(06年7月号)の時は,全国主要都市を高速ネットで繋いだ記念イベントがあったが,会場はただのホールだった。今回は「ナショナル・トレジャー」に相応しい歴史的な場所を確保しての「日本の宝試写会」というのだから,嬉しいではないか。
 試写会場に選ばれたのは,次の5ヶ所である。
 ・北海道は,札幌市中島公園にある「豊平館」。明治初期様式のホテル建築として重要文化財指定されている。
 ・東北地方は,宮城県・松島にある「瑞巌寺」。伊達政宗が復興させた本堂が国宝指定されている。
 ・中部地方では,愛知県の「犬山城」。ここの天守閣も国宝だ。
 ・近畿地方に国宝は沢山あるが,今回は京都の「清水寺」。建物だけでなく境内も国宝で,世界遺産にも登録されている。
 ・九州では,今年築城400年を迎えた「熊本城」。宇土櫓をはじめ13棟が,重要文化財に指定されている。
 
   
  博物学者・荒俣宏氏のトークショー  
   京都在住の筆者は,勿論,清水寺に出向くことにした。桜の名所,紅葉の名所でもあり,年中観光客で賑わっているが,実は外人を案内して来る以外には,あまり足を踏み入れたことがない。国宝という意識もなかった。まさか,清水の舞台からスクリーンを吊るすはずはないし,本堂の仏像を片づける訳には行かないし,どこで映画を映すのかと思ったら,「円通殿」だという。そんなのもあったのか……。
 一斉の試写会は12月13日の夕で,清水寺では試写に先立ち博物学者・荒俣宏氏(写真1)のトークショーがつくという。この映画は単にストーリーを追うだけ楽しめるが,蘊蓄を傾けた解説がある方が楽しめるのは言うまでもない。
 プレス関係者は,18時10分に仁王門に集合だった。師走の18時はもうすっかり暗いし,肌寒かった。翌日は赤穂浪士の討ち入りの日だから,雪が降っても不思議ではない(本当は旧暦だが)。折角なら,もう少し早く来て,久々に国宝・重文をしっかり眺めておけば良かったと少し後悔した。
 会場の円通殿とやらは,仁王門から左に入った大講堂の中にあった。本堂や舞台は右手で,いつもそちらに一直線に向かうから知らない訳だ。スクリーンはやや小さめながらも,ここで一般者100名を集めての試写会を行うというのは,なかなか粋な試みだ(写真2)
 荒俣宏のトークは,ざっと以下のような感じだった。
 ■ さっき清水寺を案内してもらったが,随求堂,本堂の向かいにある中身不明の秘物,アテルイの碑など,清水寺にもミステリーは沢山ある。こうした清水寺にあるミステリーを題材に,小説を書きたくなった。
 ■ 昔見たヒッチコック映画で,自由の女神やラシュモア山には何かあると子供心に感じていた。秘密や不思議が隠されていた可能性はあると,本作を見て納得した。
 ■ ナショナルトレジャー的視点で世の中の建造物などを眺めると,映画以上の面白いもの出て来るのではないか。日本文化を題材にすれば,絶対面白いものなる。次作では,ペリー艦隊に乗ってやって宝探しにやって来て欲しい。
 ■ 言葉自身が暗号である。言葉を使っていることや映画を観るということ自身が,あらゆる世界の物事を暗号解読の目で見ていることになる。
 ■ アメリカには歴史がないと言われているが,アメリカ人が先祖の汚名を晴らすという新鮮さに驚き,感動した。もしかして本当の話かと思わせるところがうまい。いい家族の映画にもなっている。

 なるほど,ラシュモア山はヒッチコックの『北北西に進路を取れ』(59)にも出て来たし,アメリカ人が好きな大統領の顔を刻み込んだ想い出の地だ。リンカーンは彼らが最も好きな大統領の1人だが,その暗殺はケネディ大統領暗殺事件と同様,謎に包まれている。そう言えば,この映画で誘拐される大統領を演じたブルース・グリーンウッドは,『13デイズ』(01年1月号)でも,JFK役だった。秘密を握る大統領にピッタリという訳だろうか。
 前作は合衆国内だけ,本作でパリ,ロンドンに出かけたのだから,荒俣氏の言うように,次回作は是非日本にやって来て欲しいものだ。ペリー来航にかこつけなくてもいいから,主人公のベン・ゲイツか親父が日本の宝探しをすれば十分だ。もともと脚本が上手いシリーズだから,期待したい。
 
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写真1 荒俣宏氏と舞妓さんのツーショット
 (実はディズニー映画関西支社の小田さん)
 
   
 

写真2 試写会場となった清水寺円通殿に荒俣氏が登場

 
 
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