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O plus E誌 2007年7月号掲載
 
 
 
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憑神(つきがみ)
(東映配給)
 
      (C) 2007 「憑神」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [6月23日より丸の内TOEI 1ほか全国東映系にて公開中]   [2007年4月5日 東映京都撮影所 第1試写室]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  楽しい時代劇だが,もう少しデジタル装飾も欲しい  
 

 ずっと続いていたのに先月は途絶えたから,今月は1本は邦画を取り上げておきたい。浅田次郎原作,降旗康男監督とくると,当然あの『鉄道員(ぽっぽや)』(99)を想像し,感涙ものかと思うが,これがまるで違う。しかも,降旗監督には珍しい時代劇だ。じゃ,『壬生義士伝』(03)のような田舎侍主役の硬派路線かというと,それも違う。舞台は江戸末期ではあるが,楽しいコミカルな時代劇だ。東映が,『大帝の剣』(07年4月号)『俺は,君のためにこそ死にに行く』(同5月号)と並んで上半期の3大作品と位置づけた中では,最もデキがいい。
 貧乏御徒組の家の次男で,入り婿先から策略で離縁された別所彦四郎に,ふとしたことから貧乏神・疫病神・死神が取り憑いたことから生じる騒動と人間模様を軽妙なタッチで描いている。『鉄道員(ぽっぽや)』のキャッチコピーが,「あなたにおこる小さな奇跡」であるなら,「あなたに取り憑く思わぬ災難,大きな騒動」とでも言えるだろうか。もっとも,正規の宣伝文句は「今を生きる,すべての人に幸せを呼ぶ映画」だが,それも当たっている。
 主演は,時代劇がつづく妻夫木聡。『どろろ』(07年2月号)の百鬼丸よりも,この好青年の下級武士が似合っている。夏木マリ,江口洋介,香川照之,赤井英和らが脇を固めるが,貧乏神を演じる西田敏行の存在感がすごい。『ゲゲゲの鬼太郎』(07年5月号)の輪入道でも異彩を放っていたが,この映画での芸達者ぶり,セリフ回しはそれ以上で,全盛期のウォルター・マッソーもロビン・ウィリアムズも脱帽だ。貧乏神が修験者の呪文に降参する長回しのシーンが圧巻で,これが全部台本通りなのか,アドリブなのか,それだけでも興味深い。
 俳優の演技が生きていて個性的に感じるのは,監督の腕だろう。楽しい中にも,人間にとっての幸せとは何かを感じさせてくれるのは,原作がしっかりしているからだ。原作はもう少し理屈っぽく,浅田ワールドらしい感涙部分もあるが,映画は抱腹絶倒中心で収めている。こういう時代劇が企画されること自体が嬉しい。山田洋次時代劇=藤沢周平作品は,真面目な姿勢で観なければいけない感じがあっただけに,肩の凝らない,くつろいだこの映画には別の味わいがある。
 さて,本欄の主題であるCG/VFXはというと,こういう超常現象ものなのに,ほとんど登場しない。せいぜい,貧乏神の霊験で大量発生する鼠や火災のシーンや,遠景の塔など多少の背景デジタル合成くらいだったろうか。最近の邦画の中でも視覚効果の活用は平均以下だろう。琵琶湖畔の近江八幡市に組んだという江戸の町のオープンセット(写真1)は良くできていたから,製作費の大半をこのセットに使ったためだろうか。いや,ベテラン揃いの降旗組は,まだデジタル技術には頼らない映画作りを貫いているからだろう。
 その職人気質も分からなくはないが,『大帝の剣』『俺は,君の…』という凡作にあれだけのVFX使うくらいなら,この映画にその予算の一部を回して欲しかったところだ。例えば,三巡稲荷の祠に突然灯りがつくシーン(写真2)や疫病神や死神の登場・退出シーンなども,CGで装飾強化すれば,もっと楽しい演出が可能だったに違いない。とまぁ,当欄ならではの文句を言ってみたが,なくても十分楽しめる映画ではある。 

 
     
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写真1 近江八幡市に建造したオープンセットがウリ
 
 
 
 
写真2 このシーンなどはVFXでの演出が欲しかった
(C) 2007 「憑神」製作委員会
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
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