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O plus E誌 2007年4月号掲載
 
 
purasu
蟲師』
(東芝エンタテインメント配給)
      (C) 2006「蟲師」フィルムプロジェクト  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月24日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2007年1月26日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
   
 
purasu
大帝の剣』
(東映配給)
      (C) 2007「大帝の剣」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [4月7日より丸の内TOEI 1ほか全国東映系にて公開予定]   2007年3月6日 東映試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  叙情的な風景も構図もいいが,もっと切れ味が欲しい  
    日本映画界が好調のようなので,今月はCGが重要な役割を果たしている邦画2本から始めよう。漆原友紀原作のコミックを映画化した『蟲師』と夢枕獏原作のSF伝奇時代劇を映画化した『大帝の剣』である。
  まず『蟲師』の読み方だが,これは素直に「むしし」と読めば良い。100年前の日本には,人間に取りつく妖しき生き物「蟲」がいて不可解な現象を引き起こしていた。その蟲の謎を紐解いて人々を癒す能力をもつ者が「蟲師」という設定である。どうやら,物の怪と対峙する「陰陽師」や悪魔祓い師の「エクソシスト」にヒントを得て創作されたキャラクターのようだ。
 監督は,ジャパニメーションの金字塔『AKIRA』(88)の大友克洋。この巨匠が映画化するなら当然アニメかと思うが,それが何と実写映画である。20数年ぶりとのことだ。主人公の蟲師・ギンコ役は『SHINOBI』(05年10月号)のオダギリ ジョーで,名前通り銀髪で登場する。文字を操って蟲を封じる娘・淡幽は,『フラガール』(06)の蒼井優が演じる。日本映画界期待の2人である。他に,女蟲師・ぬいに江角マキコ,虹に似た蟲を探す男・虹郎に大森南朋が配されていて,それぞれ存在感のある役柄をきちんとこなしている。
「日本人のDNAに深く刻み込まれた原風景が眠れる感性を蘇らせる」というだけあって,雄大な自然風景が再三登場し,まだ日本にこのような場所があったのかと少し驚く。特に山と雲が素晴らしく,日本中を徹底ロケハンしただけのことはある。安易に海外ロケに頼らない姿勢は褒めるべきことだ。もっとも,すべてが自然ではなく,中にはVFXで合成されたシーンもあるようだ。
 一方「革新的VFXファンタジー巨篇」と銘打つだけあって,蟲の引き起こす様々な現象もCG/VFX技術で表現している。雪や埃のように舞う蟲や幻想的な光を発する映像加工は,言うまでもなくデジタル技術の産物だ(写真1)。トコヤミは黒いモヤ状の蟲で,これが黒い塊から粉末へと変化する様が何度も登場する。この種のCG表現は悪くはないが,さほど革新的でもなく,またこれかと見飽きてしまう。出色なのは,淡幽の操る文字が流れるように壁を這い,紙に吸い込まれる様子だ(写真2)。この映画最大の見ものだろう。じっくり観ると,巻き貝のような「阿」の触手の動きも,結構工夫されていたようだ(写真3)。構図がいいのは,監督が全カットの絵コンテをきちんと書いているからだろう。
 100年前の日本を演出すべく,すべてがスローペースで進行する。ただし,前半は語り口調も俳優の演技も良かったのだが,後半ギンコが蟲に憑かれる辺りからの展開はもたつき,切れ味に欠ける。ストーリーの先が読めないのは脚本の妙ではなく,ご都合主義だと感じた。結末もこの終わり方が芸術的だと思っているのだろうが,妙に淡泊過ぎる。昨年のベネチア映画祭に出品したというから,賞狙いの目的もあったのだろう。「映画館に足を運んで,映画を観たんだ」という充実感が欲しい。
 ある観客からは「後半は失笑ものだな。最初はキレイでいいかなと思っておったのに」という声が聞こえた。同感である。安っぽい芸術性は作品全体を壊す。ギンコが蟲を退治し色々な難事件を解決する物語,即ち『陰陽師』(01年10月号)のような娯楽作品に仕立てた方が,蟲師という魅力的なキャラが生きたのにと感じた。  
 
     
 

写真1 埃のように浮遊する蟲の表現(左)も幻想的な光を発する加工(右)も,今のCG技術なら楽々達成できる

 
 
 
写真2 流れるように壁や床を這う文字列は見事!
(C) 2006「蟲師」フィルムプロジェクト
   写真3 魔物から伸びて来る触手の動きにも注目
 
     
  意欲作だが,ハチャハチャ度が足りない  
   その『陰陽師』の夢枕獏が書いたSFが原作というので,『大帝の剣』には期待した。徳川3代将軍家光の時代で,忍術・妖術・剣術が入り乱れ,天草四郎から宇宙人までが飛び出すという破天荒さがウリである。身の丈2mの主人公・万源九郎を演じるのは,阿部寛。『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』(07年2月号)でもトボケたいい味を出していたので,楽しいハチャメチャな展開が期待できた。いや「ハチャメチャ」ではなく,SF分野では,下らない笑いを満載した疾風怒濤のナンセンスな作風を「ハチャハチャ」と言うそうだ。
 監督は『TRICK』(00)『明日の記憶』(06)の堤幸彦。まるで違う作風に挑戦し続けている鬼才ゆえに期待できる。果たせるかな,人を食ったかのような江守徹の大仰な語りに乗って,冒頭から宇宙のシーンが登場する(写真4)。『スター・ウォーズ』のパロディのつもりらしい。宇宙の彼方からやって来る特殊金属オリハルコンの形状は,クリプトン星からカル=エル(後のスーパーマン)が乗って来るカプセルにそっくりだ。これが宇宙空間で「大帝の剣」「闘神の独鈷杵」「ゆだの十字架」の「三種の神器」に分解し地球上に散逸する。時を経て,なぜかそれが都合よく,江戸時代初期の日本に集まって来るという設定である。3つ揃うと世界を征する巨大パワーが生まれるので,争奪戦が繰り広げられるが……。
 VFXは1000カット以上というだけあって,ワイヤーアクションや愛すべき怪物達のメイクに加えて,至るところにCGシーンが登場する。腕が吹っ飛んだり,怪しげな光線を出したり(写真5),顔の周りを蝿が群がったり,身体が2つに割れたり……。VFX主担当はNICE+DAY社だが,まぁこれだけ数があると全部上出来という訳には行かない。かなり健闘している方だろう。
 苦労の跡が観られたのは,大剣を担ぐ孤高の侍の大きさや大剣を振り回す様だ。阿部寛はもともと長身だが,それが十分2m以上に見えるように工夫されている。大剣は,用途に応じて鉄製,木製,ゴム製,プラスチック製等々が用意されたが,勿論CG製の場面も登場する。いずれもしっかり重そうに見せている(写真6)
 意欲作ではあるが,残念ながらキャッチコピーほどには面白くない。その1つの原因は,良質のギャグが少なく,ハチャハチャ度が足りない。もう1つは,観客を物語に引き込む音楽がなく,リズム感に欠けていることだ。それでも,この監督やスタッフはこの映画を通して経験を積み,やがて画期的なハチャハチャ映画を生み出してくれると感じられるものはあった。期待しよう。
 
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写真4 時代劇と思いきや,いきなり宇宙船が登場。『スター・ウォーズ』のパロディのつもり?

 
 
     
 

写真5 この程度のCG描写や合成が多いが,もはや語る必要もなし

 
 
   
 
 
 
写真6 これがオリハルコン製の大剣。見るからに重そう。
(C) 2007「大帝の剣」製作委員会
 
     
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)   
   
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