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O plus E誌 2007年4月号掲載
 
 
purasu
あかね空
(角川映画配給)
 
      (C) 2006 あかね空LLP  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [3月31日より新宿ガーデンシネマほか全国公開予定]   2007年3月5日 角川試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  直木賞受賞作の人情話とCGのマッチングが嬉しい  
 

 もう1本邦画で行こう。山本一力作の直木賞受賞作の映画化で,江戸時代下町で豆腐屋を営む一家の物語だ。市井の人情ものとして『花よりもなほ』(06年6月号)と比べたくて足を運んだが,冒頭からCGパワー全開で描いた永代橋と江戸の全景の登場に嬉しくなった(写真1)。後者は,安藤広重の浮世絵を元に描いたというから,ますます興味は募る。川面に浮かぶ船や夕焼けの反射具合の処理など,なかなかいい出来だ。
 上記2作よりもVFXの登場場面は少ないが,それでも大通りから眺めた遠景や浅間山の噴火などにCGが使われ,『花よりもなほ』や『武士の一分』(06年12月号)にはないスケール感を出している。長屋の風景はよく作り込まれているし,オープンセットや寺社のロケなども京都に頼らず,関東地区だけで済ませたという(写真2)。余計な物を消すのにもデジタル技術が使われているようだ。
 残念なのは,背景をCGで描いたカットの大半がカメラを据え付けたままだ。これでは単純なCGマット画で,しかも光学的整合性がお粗末ですぐ作りものと分かる。業界内から漏れ聞くところによれば,日本映画のVFXカットは何でも一律10万円だとか。これじゃ,500カット片づけてもたったの5000万円。数十億円かけるハリウッド大作とは勝負にならない。冒頭の永代橋に時間をかければ,他が手抜きになるのも無理はない。
 さてこの映画化は,既に『スパイ・ゾルゲ』(03年6月号)を最終作品とした篠田正浩が,原作に魅了されて企画したものだ。篠田作品で助監督,監督補を務めていた浜本正機がメガホンを託し,共同で脚本を書いている。原作のもつ雰囲気を残し,うまく圧縮したいい脚本だ。
 主演は,都から江戸に下って豆腐屋を開業する「永吉」に内野聖陽,想いを寄せて添い遂げる「おふみ」に『リング』(98)『嫌われ松子の一生』(06)の中谷美紀。こちらも,目下絶好調の2人だ。内野聖陽といって分からなければ,今年のNHK大河ドラマ『風林火山』の主役・山本勘助役を演じていると言えば通じるだろうか。関西弁の町人役という全く様子の違う役どころを演じさせ,かつ賭場を仕切る傳蔵親分の二役を演じさせたのは当りだった。昔の舞台劇や日本映画ではよく使った手だが,最近は珍しい。実力派俳優だけに上手く演じ分けているが,強いて言えば,永吉の方が好演で,スキンヘッドの傳蔵親分は凄みが足りない。仲谷美紀の「おふみ」はといえば,可愛過ぎて18年後の老け役が似合わないことだろう。これは本人のせいでなく,邦画界にもっと優れた老けメイク技術があれば済んだことだ。
 脇役では,中村梅雀の悪役が絶品で,石橋蓮司,岩下志麻,泉谷しげるの町人,職人ぶりもいい味を出している。その分,永吉・おふみの3人の子供を演じる若手俳優3人(武田航平,細田よしひこ,柳生みゆ)の未熟さ が目立つ。プロなら,もう一寸何とかならないものか…。原作は2部構成で,後半は次男若夫婦を中心に描いている。直木賞講評では「第二部はなくてもよかった」という委員の意見もあったが,その通り,第二部を大幅に圧縮したのが正解だ。
 山本一力という作家のこれからの作品に注目している。山本周五郎,藤沢周平にはない魅力を発揮すれば,その映画化作品も増えるだろう。CG技術は磨けば磨くほど向上し蓄積もできるから,江戸や京都の当時の風情を描くことなど簡単だ。ただし,10万円/カットはもう少しアップしてもらいたいものだが。

 
     
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写真1 冒頭に登場する永代橋と江戸の風景は見事な出来映え。右の構図は広重の「名所江戸百景」がベース。

 
 
 
 
 
写真2 オープンセットや寺社のロケも卒なくこなし,時代ものとしては合格点
(C)2006あかね空LLP
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)   
   
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