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sfxビデオ観賞室
 
O plus E誌 2000年3月号掲載
 
     
 
動物を自在に操る3作品
 
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『ドクター・ドリトル』
(1998年 20世紀フォックス映画)
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『ベイブ 都会へ行く』
(1998年 ユニバーサル映画)
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『マイティ・ジョー』
(1998年 ウォルト・ディズニー映画)
     
   牧羊犬コンテストに優勝する子豚を描いた『ベイブ』は,地味な作品ながらアカデミー賞にノミネートされた。惜しくも作品賞は逃したものの,子豚や犬の鼻・口を3D-CGで制御してしゃべらせる技術が評価され,視覚効果賞を受賞した。ちょうど『トイ・ストーリー』が長編アニメーション賞を獲った年である。今振り返ると,SFX史の大きな転機となった年だと言えるだろう。
 動物をこうして自在に話させることが可能なら,すぐにでも作り直せるのにと思ったのは,『ミスター・エド』(昔のテレビ番組),『ドリトル先生の不思議な旅』,そして『猿の惑星』シリーズだった。アニマル・トークと呼ばれるこの技術を中心に,動物を自在に操る3作品を論じてみよう。
 
 
  アニマル・トークは完成の域?  
   動物と話せるドリトル先生を主人公としたミュージカルは1967年の作で,『マイ・フェア・レディ』でオードリー・ヘップバーンと共演したレックス・ハリスンの主演作ということでそこそこヒットした。筆者がもっとも映画に熱中していた頃である。団魂の世代には同じことを考える人間がいるらしく,折からのリメイク・ブームに乗って,エディ・マーフィ主演の『ドクター・ドリトル』が登場した。ご丁寧にも映画の中では,馬がしゃべる『ミスター・エド』の昔のシーンも出てきた。
 動物デザインにかけては世界一のジム・ヘンソン・クリーチャーズ工房が手がけたアニマトロニクスと,調教された本当の動物にCGで口を動かす方法の組み合わせは『ベイブ』と同じである。手法的には新味はないが,3D-CGは多用せず,2D画像の差し替えでコストダウンを図ったようだ。俳優と動物を別々に撮影し合成するスプリット・スクリーン技術は,ディジタル合成が主流となりほとんど継ぎ目を感じなくなった。
 各種動物の中では,フクロウと虎がよくできていた。『ジュマンジ』の猿やライオンは嘘っぽく,もうちょっと何とかしてよと思ったが,それに比べると格段にリアリティが増している。
 『ドクター・ドリトル』が興行的にはそこそこ成功したのに対して,『ベイブ 都会へ行く』は前作ほどはヒットしなかった。熱心なファンが着くような作品でなかっただけに,またアニマル・トークかと思われ敬遠されたのだろう。
 ビデオで観る限り,続編としての出来栄えは水準以上だと思う。コンテストに優勝したベイブが,牧場経営の危機を救うため,奥さんに連れられ出演料目当てに都会に来る。そこで巻き込まれた騒動,新しい動物達との交流で,ベイブはそのリーダーに祭り上げられる,というストーリーである。アクション風の味付けでテンポも悪くない。ベイブの表情にはベテラン俳優の風格すら感じられる。
 
     
 
写真3 どれが実物でしょう?(ベイブ 都会へ行くより)
(c)1998 Universal City Studios. All rights reserved.
 
     
  登場する動物の種類も数もアニマル・シーンも多く,もちろん技術的にも進歩している(写真3)。3D-CGは前作同様,オスカー受賞のリズム&ヒューズ社が担当し,アニマトロニクスの出来も『ドクター・ドリトル』よりも良い。ベイブだけをとっても,アニマトロニクスは12種類に及び,ホワイトヨークシャー種の実物の子豚も6匹ずつ3週間ごとに交換された。子豚は撮影期間中にどんどん大きくなっていってしまうからである。
 あらゆる手段で動物を登場させる技は完成の域に近いと感じたのだが,それでもアカデミー視覚効果 賞にノミネートもされなかった。アニマル・トークはもう当たり前の技術ということだろうか。
 
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  脚本が技術を生かしていない  
 
『ドクター・ドリトル』は日本語吹き替え版で見たのですが,ゲラゲラ笑ってしまいました。セリフがよくできていて,結構おかしかったですよ。
我が家では子供たちにも不評で,そろそろ面 白くなるだろうと思っているうちに終わってしまった(笑)。ここまでの技術が伴ってエディ・マーフィとくれば,ハチャメチャな展開を期待しているのに,脚本がまるで技術を生かしていませんね。もっともっと楽しい映画にできたはずです。
厳しい評価ですね。『ベイブ 都会へ行く』は確かに動物の種類は増えていますが,一見そう進歩しているように見えませんでした。
調教された動物とはいえ,他の動物との混在は難しいので,カメラに写 らないところでトレーナーがなだめ,一部をCGやアニマトロニクスに置き換えての撮影が日常茶飯事だったそうです。
前作の印象が強烈だっただけに,続編は損をしますね。チンパンジーやオランウータンの表情は,すごくよくできていたと思います。
甲高い声でネズミの歌う「今夜はひとりかい」(Are You Lonesome Tonight?)が絶品でした。プレスリーのビッグヒットですが,懐かしいな。
これも,中年のオジサンが作ったんですね(笑)。
 
     
  またディジタル資産が増えた  
 
『マイティ・ジョー』もリメイクなんですね。
1949年の『猿人ジョー・ヤング』なんて誰も覚えてないですよ。よほど良い脚本が払底してるか,リメイクというと企画が通りやすいんでしょう(笑)。
でも心優しいゴリラのジョーの演技は,本物かと思うくらいで,技術の進歩が良く分かりますね。
言葉は話しませんが,通 常の3倍の大きさというから,本物はいません。各種サイズのアニマトロニクス,フルCG,そして着ぐるみでの俳優の演技をブルーバックで撮影し,これをディジタル・データとして拡大し合成する方法の3種類が使われています。
スチル写 真で見るかぎり,区別はつきませんね。
動画として見ると,毛づやや動きの微妙な違いで,フルCGは分かりました(写真4)。一般観客は気づかないかもしれませんが…。
街中で暴れるのはCGのジョー
(c)1998 Disney Enterprises. All rights reserved.
でも,いかにも中に人間が入っているなと感じたキングコングとは雲泥の差ですね。生きているジョーがいるかのような錯覚すらしました。
母親と子供のジョーもあるけど,ほぼ大人になってからのジョーだけですから,じっくり描けましたね。アニマトロニクスとスーツ・イフェクトはベテランのリュック・ベンソン,VFXはドリーム・クエスト・イメージ社とILMが担当です。
これもILMですか。どことなく『ジュラシック・パーク』にも似てましたね。
ロケ地が同じハワイの島だったので,背景がそっくりでした。主演のビル・パクストンも,『ジュラシック・パーク』のサム・ニールと感じが似ているし…。
ストーリーは,健全なディズニーのかたまりみたいな映画ですが,かなり楽しめました。
でも,あのエンディングはやり過ぎですよ。ディズニーとはいえ,あそこまで調子よくやるかと…。
ハハハ。そうですね。
ともあれ,恐竜やエイリアンを自在の操れるILMにとっては,ゴリラの動きをマスターしたのは,また1つ財産が増えたことになります。ディジタルVFX技術は,こうした蓄積が各社に増え,それが互いに影響を及ぼしあってスパイラル状に発展しています。過去5年間目覚ましい進歩を遂げ,今なお急激な上昇気流に乗っている分野だと思います。
 
   
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