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O plus E誌 2006年11月号掲載
 
 
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父親たちの星条旗
(ワーナー・ブラザース映画
&ドリームワークス映画)
 
      (c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L. L. C.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [10月28日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2006年10月11日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  驚異的インビジブルVFXで描く硫黄島争奪戦の臨場感  
 

 老いてますます盛んというのは,彼のためにあるような言葉だ。70歳を過ぎて『ミスティック・リバー』(03)『ミリオンダラー・ベイビー 』(04)の佳作2本を立て続けに放ち,再び映画人としての頂点に立ったクリント・イーストウッドのことである。昨年は公開作品がなかったから,さすがに製作ペースも落ちたかと思ったら,何と2作連続公開する意欲的な連作を用意していた。
 太平洋戦争での激戦,硫黄島での日米の戦いを,攻める米国海兵隊と島を死守する日本軍双方の視点から描いた2部作だった。今回は自ら出演はせず,監督・製作・音楽を担当し,それを映画化権をもっていたスティーブン・スピルバーグが共同製作したという。戦争映画を一変させた『プライベート・ライアン』(98)のスピルバーグが後ろ盾についた以上,並みのリアリズムである訳はない。かといって,最近のイーストウッド作品の傾向からして,戦争アクション中心であるはずもない。
 表題欄の光景は,誰しも一度は見た経験があるだろう。アーリントン墓地にある海兵隊記念碑として刻まれているこの印象的なポーズは,1945年2月に硫黄島で撮られた1枚の報道写真に基づいている。歴史に残るこの写真の裏側に隠された真実に迫る物語だ。原作は,生還した3名の「英雄」の1人,海軍衛生兵ジョン・"ドク"・ブラッドリーの息子ジェイムズ・ブラッドリーが著した「Flags of Our Fathers」(邦訳は「硫黄島の星条旗」/文春文庫)で,これを原題通りの本作品と『硫黄島からの手紙』と題した作品の2部構成で見せるという。
 主演の生還兵3名を演じるのは,ライアン・フィリップ,ジェシー・ブラッドフォード,アダム・ビーチというから,この映画を機に売り出そうという成長株ばかりだ。毎度のことだが,軍服姿の同年齢層が沢山いると,最初は誰が誰だか区別がつかない。映画としては,生還後からのフラッシュバックを多用して,戦争中の真実を語るドキュメンタリー調に仕上げている。
 この映画が訴えるもの全体の評価は次作を待つことにし,本欄ではVFXに関する論評だけに留めよう。
 ■ 最近の戦争映画と同様,戦闘機や戦艦などの大半はCGで描かれている。特筆に値するのは,史実に残る約800隻の船団の描写である。戦艦,駆逐艦からの砲撃による火炎と煙がCGなのは当然だが,アップのショットでは反動で揺れる砲身まで描いている。艦のテクスチャ処理も航行する艦と海面の接触部の描写も見事だ。
 ■ カメラを引いた位置で多数の船を映し出す壮観さは,『トロイ』(04年6月号)が用いた手法だが,アングルを変え,船の配置を変え,何度も登場するのが印象的だ。戦闘中の艦はそれぞれの位置を複雑に変えるが,その航跡が見事なタッチで描かれている。エンドロールでは,現存する写真やフィルムで実際の戦争場面を(勿論,古びたモノクロ映像で)見せてくれるが,忠実かつスケールアップして描写しているのが分かる。
 ■ 米軍の攻撃目標となったのは小さな島の南西端にある擂鉢山である。硫黄島はその名前通り火山の溶岩でできた島であるから,代用の利くロケ地はそう多くない。地形的に似たアイスランドが選ばれ,長期ロケを敢行したというが,摺鉢山やその手前にある海岸線の形まではロケ地で再現できない。そこで登場するのが,CGによる「インビジブルVFX」の威力である。背景に何度となく登場する擂鉢山は,ほぼすべてCG映像の合成と考えて良い。写真1は,単に海面に艦隊を浮かべただけではなく,何の変哲もない平地をそっくり,デジタル技術で当時の硫黄島の入り江に差し替えているのである。
 ■ VFXの担当は,ほぼデジタル・ドメイン1社である。多数のVFXスタジオに分散して受注する最近の傾向に反して,ここまでの分量を1社でこなせる力量は大したものだ。全体を1社で統一して管理できるからこそ,この一貫した品質が保てるのだろう。VFXだけの評価としては文句なく☆☆☆だ。  

 
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写真1 船を浮かべただけでなく,この海岸全体がCG製
(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L. L. C.
 
   
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