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O plus E誌 2005年11月号掲載
 
 
『ALWAYS 三丁目の夕日』
(東宝配給)
      (C)2005「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会  
 
  オフィシャルサイト[日本語]   2005年10月3日 東宝試写室(大阪)  
  [11月5日より日劇ほか全国東宝系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  VFXも出色だが,山崎監督の泣かせる技にも感服  
 

 今月は童話・メルヘン系の作品が多いが,何をおいてもまずこの作品から語ろう。日本のVFX界の第一人者,『ジュブナイル』(00年7月号)『Returner リターナー』(02年9月号)の山崎貴監督の待望の第3作目だ。昨年SIGGRAPH会場で偶然出会った時,「暮れくらいから,次回作の撮影に入ります。今度はタイムトラベルものじゃないけど,期待していて下さい」と話していた。何とそれがビッグコミック・オリジナル連載の『三丁目の夕日』の映画化だと知った時は,驚きかつ大いに嬉しくなった。
 西岸良平氏のほのぼのとした画風で一貫して昭和30年代の庶民生活を描くこの人気コミックは,昭和47年から始まった(当初の題は『夕焼けの詩』)。西岸氏と同じ1947年生まれの「団塊の世代」の筆者は,一作残らず愛読している。ずっと若い山崎監督(昭和39年生)がこの時代を描けるのかと思ったが,いや『ジュブナイル』で少年少女の心を見事に描いた彼にはハートがある。きっと西岸作品の真髄を読み取れるだろうと期待した。そーか,今回の山崎監督は,自分が生まれる前の昭和30年代にタイムスリップしていたのか。
 この映画の舞台は昭和33年の東京の下町・夕日町三丁目で,皇太子ご成婚の前年,建設中の東京タワーが徐々に出来上がって行く日々が描かれている。主人公の少年2人は小学校4年生というから,西岸氏や筆者より1学年の下の設定だ。副業で駄菓子屋を営む売れない作家・茶川竜之介(吉岡秀隆)と彼に育てられている少年・古行淳之介(須賀健太),自動車修理工場の鈴木オートを営む夫妻(堤真一,薬師丸ひろ子)と息子一平(小清水一揮)の2家族を中心に物語は展開する。茶川竜之介が想いを寄せる小料理屋の女将「ヒロミ」に小雪,鈴木オートの従業員ロクちゃんを女性にしたてた「星野六子」に堀北真希の美女2人を排したのはいいキャスティングだ。鈴木一平とロクちゃんの丸顔が,まさに西岸ワールドにぴったりだ。これはいい。
 昭和30年代,日本映画全盛期のTOHOのオープニング・マークから入って,いかにも時代を感じさせる色調で東京の下町を描く。懐かしいはずだが,この時代はこんなに古くさかったのかと少し驚く。子供たちが飛ばした紙と木の模型ヒコーキが舞い上がり,カメラはこれを追って空から都電が通る大通りへと移動する。この模型ヒコーキは最初実物でやがてCGにすり替わっているが,この映画のシンボルとしてエンドロールにも登場する。
 大通りの都電ももちろんCGだが,街並みは模型,人やクルマは実写とCGを巧みに混ぜている。この通りが何度も登場するだけあって,かなりの力作だ。町の中に青や緑の大きな幕を張ってクロマキー合成する手法は,『シカゴ』(03年4月号)や『シービスケット』(04年2月号)でも使われたよくある手だが,ようやく日本のVFXもこうした大掛かりなロケに挑戦するようになった。さすが山崎氏所属の白組ならではだ。

 
 

 この映画は時代考証とVFXに支えられ,徹底して黄金の昭和30年代前半を懐かしみ,楽しむ映画だ。それに尽きるが,以下その要点である。
 ■ 映画前半に登場する機関車のシーンや上野駅正面出口のシーンでもミニチュアが多用されている。最近のVFX界はミニチュア回帰だと山崎監督は語るが,確かにILMもWETAもしかりだ。CGの画質向上に対抗できるミニチュア製作技術があるから言えるセリフである。それでいて蝿や蛾はCGで描くなど,技術のエッセンスをよく把握して使い分けている。

 
 

 ■ 上野駅構内の雑踏,ホームへの列車の到着,車窓から見る当時の光景の合成もいい出来だ。その一方で,三丁目の古い街並みは大掛かりなセットで質感を出している。銀座4丁目交差点等,まだ多くの人が覚えている光景が嘘っぽく見えないのは,建物やクルマだけでなく当時の人々の服装の再現も正確だからだ。子供たちの服の汚れやよれ具合も実に見事だ。

 
 

 ■ 衣裳だけでなく,小道具もよくぞここまで再現したものだ。お巡りさんの白い自転車,買い物カゴ,焼き鳥を包む竹の皮,百円札,フラフープ,少年誌の表紙と付録,小学校の机と黒板,明治牛乳の濃紺の牛乳箱,観音開きのトヨペット・クラウン,電機店のナショナル坊や,田舎への土産に高島屋のバラの包装紙,煙草屋のガラスケースに並ぶタバコの種類(光,新生,パール等),電柱の広告(ボンタン飴,ライオン石鹸,グリコ等),流れる歌謡曲は三橋美智也の「リンゴ村から」,大津美子の「ここに幸あれ」……。いやぁ,懐かしい。
 ■ 「携帯もパソコンも TVもなかったのに,どうしてあんなに楽しかったのだろう」とは,よくぞ言った。筆者は当時の物価をまだ覚えている。京都の市電は片道13円/往復25円,市バス15円,コロッケ5円,駄菓子は5円か10円,きつねうどん30円,中華そば40円だった。玉子は当時15, 16円で今もそう変わらないから, いかに物価の優等生か分かる。特に感心したシーンは,湯たんぽの湯で翌朝顔を洗う場面と,あこがれのテレビにビロードの垂れ幕がかぶせてあった場面だ。確かに当時を知る人のアイデアで,芸が細かい。拍手!
 ■ ヒロミ(小雪)に愛の告白をされて竜之介(吉岡秀隆)が戸惑い照れるシーンは,まるで寅さんだ。さすが甥っ子・満男君役で長年鍛えた演技だ。物語は単純で結末は想像通りだが,泣かせてくれる。山崎貴監督はデザイン学校出身のVFXのプロだというのに,いつ木下恵介,山田洋次流の脚本術を学んだのかと感心する。
 ■ ここまで褒めたので,2点だけこだわりの注文をつけておこう。竜之介からヒロミへの愛の返答は「君この前,僕と一緒になってもいいと言ったよね」ではなく,シャイな彼なら「淳之介のお母さんになってもいいと…」であるべきだろう。もう1つは,旧式氷冷蔵庫の上段に入れる氷だ。二貫目相当の氷を入れていたが,あのサイズの冷蔵庫なら毎日一貫目が標準だったはずだ。  

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