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O plus E誌 2005年6月号掲載
 
 
『オペレッタ狸御殿』
(日本ヘラルド映画&松竹配給)
      (c)2005『オペレッタ狸御殿』製作委員会  
 
  オフィシャルサイト[日本語]   2005年4月25日 ヘラルド試写室(大阪)  
  [5月28日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  デジタル美空ひばりの登場にご注目!  
 

 オペラは知っていても,オぺレッタはよく知らないという読者も少なくないかと思う。手元の電子辞典(大辞林)によれば,「オペレッタ」とは「 19世紀中頃にパリで生まれヨーロッパ全般に広まった,せりふと踊りを含む陽気で風刺的なオペラ。軽歌劇。喜歌劇。」と定義されている。まぁ,ミュージカルの祖先みたいなものだ。この映画では,ミュージカルよりは古風で,ややもったいをつけた感じ,舞台での歌劇のニュアンスを強く出そうとしてこの言葉を使っていると考えていい。
 一方の「狸御殿」は, 1940〜50年代の日本映画黄金期に,各社が看板女優を起用して製作した歌と踊りの楽しい作品群だ。狸たちが自在に人間に化けて,恋と笑いと涙を繰り広げるというから,物語も奔放自在のバラエティショーである。どの映画であったか覚えていないが,子供の頃に何本か観た記憶がある。
 監督は,この道半世紀以上という老巨匠の鈴木清順。御歳 82歳,生きた化石のような存在でありながら,研ぎ澄まされた前衛感覚は老いてますます盛んだ。その老監督が,今を時めく看板女優として,何とあのチャン・ツィイーを選んで,つきっきりの演技指導をしたというから大変だ(写真1)。加えて何と何と,今は亡き美空ひばりがデジタル出演するというではないか。こりゃ何をおいても観ないわけには行かない。本欄で取り上げないわけには行かない。
 チャン・ツィイーの相手役に相応しい美少年はといえば,最近売り出しのオダギリジョー。金城武やキムタクは共演済みだから,ふむふむまぁ,そんなところじゃろうか。狸風のメイクが似合う共演者としては,由紀さおり,薬師丸ひろ子,高橋元太郎,パパイヤ鈴木などが選らばれた。いずれ劣らぬ狸面に仕上がっている。
 狸御殿の狸姫が,美しさゆえに父に命を狙われる「がらさ城」の世継ぎ雨千代と恋に落ちる話だが,物語はあってないようなものだ。見せ物の1つは,随所に舞台劇と思しき場面から,突如して世界の絵画をバックにした世界へとワープして,そこで歌や踊りが合成される(写真2)。歌舞伎,能,狂言に,音楽はオペラ,ロック,踊りはタップ,ワルツにストンプ,尾形光琳,狩野探幽から,レオナルド・ダ・ヴィンチ,サルバトーレ・ダリのオマージュまでが飛び出す有り様だ。
 正直言って,この監督の前衛芸術,ポップアート的映像感覚が,筆者にはよく分からない。気になったのは,やたら着物の裾から腿や脛がちらつく,そのリアリズムだけだ。批判しているのではない。本当に映画としての評価が下せないから,以下,技術面だけを論じる。
 デジタル合成, VFXは随所に登場するが,従来のビデオ・エフェクトの域を出ず,そう高度なものではない。金色の極楽蛙などは笑えてくるレベルだ。むしろ低予算の中で,必死に新技術を使おうとしている感じだ。それが,ある種の新鮮さにはなっている。
 美空ひばりの「デジタル出演」は心待ちにしていたが,これには感心した。てっきり,過去のフィルムの登場シーンから切り出した映像をデジタル合成して嵌め込んでいるのだと想像した。何と姿は CGで,声は音声特徴パラメータからデジタル合成した上で,新しい歌まで歌わせているではないか。映像は多少無理があったが,声はどう聴いても「美空ひばり」だ。これは大収穫だった。
 ついでに言えば,由紀さおり演じる「びるぜん婆々」の歌まで「美空ひばり」に聞こえたが,ありゃ何だ? 意図的に彼女が「美空ひばり」の物真似風に歌っていただけなのだろうか…。
 歌といえば,チャン・ツィイーやオダギリ・ジョーはご愛嬌に過ぎない。最も聴かせたのは,高橋元太郎が歌う「快羅須山の極楽蛙」だろう(写真3)。さすが元歌手の本領発揮だ。若いファンには「水戸黄門」の「うっかり八兵衛」のイメージしかないだろうが, 40数年前のアイドルグループ「スリーファンキーズ」のメンバーだった。後のジャニーズ系に繋がるルーツ的存在だ。

     
 
写真1 人気女優チャン・ツィイーに演技をつける鈴木清順老監督もご満悦
 
   
 写真2 絵画風の背景にライブアクションを合成する
 デジタル処理は紙芝居風
 (c)2005「オペレッタ狸御殿」製作委員会
 
写真3 高橋元太郎(左)と薬師丸ひろ子(右)
     
 
 

 ところで,お目当てのチャン・ツィイーはと言えば,これだけ可愛くない彼女は初めてだ。およそかつらが似合っていないではないか。筆者のようなオヤジファンには不満だろう。もっとも,配給会社の女性社員 Fさんは「私たちの世代には,断然オダギリ・ジョーですよぉ」と言っていたから,老監督が目指したデートムービーとしては十分合格点なのかも知れない。 

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