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O plus E誌 2004年6月号掲載
 
 
『ゴッド・ディーバ』
(シャルル・ガソ作品
/日本ヘラルド映画配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][仏語]   2004年4月19日 日本ヘラルド試写室(大阪)  
  [5月1日より全国松竹・東急系で公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ストーリーは二の次で,映像美を楽しむ映画  
   久々にフランス映画を取り上げよう。試写会のタイミングが合わず1カ月遅れとなってしまったが,本映画時評としては避けて通れない作品だ。『アメリ』(2002年1月号)『ジェヴォーダンの獣』(2002年2月号)のデュラン・スタジオがVFX担当というから尚更である。  
 欧州随一のこのスタジオのCGクリエータとは,モナコで開催される映像の祭典Imaginaで何度か親しく交流した。彼らは,実によくハリウッド映画のVFXを研究している。技術は徹底分析して学んだ上で自分たち独自の映像表現を創り出すのだという強い自負心がある。映画ではその実力を発揮できる機会が少ないが,日頃はCMやミュージック・ビデオで密かに腕を磨いている。一昨年,ニースへの帰路のヘリに同乗した人物は,「コミックをベースにしたすごい企画があって,今その映画化に取り組んでいるんだ」と話していた。  
 テレビのスポットCMにも登場する空に浮かぶピラミッドの映像(写真1)を見ただけで,この映画の摩訶不思議な世界が想像できるだろう。原作・共同脚本・監督は,フランスが誇る創造的ビジュアリスト,SFアーティストのエンキ・ビラル。バンド・デシネと呼ばれるカラー上製本のコミック分野で,独自の確固たる地位を築いた巨匠として知られる。舞台美術や映画の衣装デザインなども手がけ,自らの監督作品も既に数本ある。  
     
 
写真1 ハドソン河上空に現われた不思議なピラミッド   写真2 近未来SF映画には定番のフライング・タクシー  
 
 
 
     
   原題は『IMMOTEL Ad Vitam』。1980年代に彼が生み出したニコポル3部作の『不死者のカーニバル』『罠の女』『冷たい赤道』(河出書房新社刊)のうち前2作が,この映画の原作である。高層ビルの間を駆け巡るフラ(82)や『フィフス・エレメント』(97)を思い出させるが,むしろこちらが本家本元だという。『ゴッド・ディーバ』なる邦題がどこから来たのかは,よく分からない。隣席の女性記者たちは「チョコレートみたいな題名ね」と話していた。なるほど,ヨーロッパ調の神秘的な高級感を醸し出す役割は果たしている。  
  幻想的な映像には美しいフランス語が合うなと期待したのだが,残念ながらセリフは英語だった(『戦場のピアニスト』もそうだった)。営業政策上というより,これは2095年のニューヨークを舞台にしているためだろう。原作通り未来のパリでは駄目なのかと思うが,圧倒的な高層ビル群,そして荒廃した未来となるとニューヨークが最適らしい。暗いくすんだ色調,圧倒する都市景観。写真3のような光景を見ると,それも納得できる。  
  人間とミュータントとエイリアンが暮らす未来社会で,人の体と鷲の頭をもつ古代エジプトの神ホルス(写真4) は死刑判決を受け,残された7日間に,政治犯ニコポル(トーマス・クレッチマン)の肉体に乗り移り,青い涙を流す美しい女ジル(リンダ・アルディ)を探す。という設定だが,この映画のストーリーは語る必要はないだろう。複雑な人物(?)設定や世界観が鏤められているが,その詳細を理解しようとしまいと物語は難解である。この種の芸術は大衆の理解を求めていないから,物語に素直に入り込めなくても平気だ。これは,耽美的な映像を楽しむ映画だ。美術館を歩き回ることなく,前衛グラフィック・アートを観客席に座ったまま長時間眺めていられると考えればいい。写真5のミュージアムなどは,息を飲む見事なデザインだ。  
  VFXはといえば,上記2人とエルマ・ターナー医師を演じるシャーロット・ランプリングの3人の俳優以外は,すべてフルCGか大幅にデジタル加工されたキャラクターというから,その意欲のほどが分かるだろう。技術面云々よりは,ここはその造形力,演出に注目すべきだ。写真1〜3は,絵画なら分かるが,実写と3D-CGを合成したシーンでこういうタッチを出せるというのがすごい。空を飛ぶ飛行艇は,その動きだけでなく,後部排気口から出る蒸気による大気を揺らぎまで微妙に描いて見せ,細部へのこだわりを感じさせてくれる。  
     
 
写真3 この高層ビル群の光景を見ると,なるほどパリよりニューヨーク方が似合っていると納得する
 
 
 
    その反面,写真4のホルスや他の神々は,もう少しリアリティ高く描けなかったのかと思う。最も不可解なのは,フルCGで描かれる人間のうち,上院議員や刑事たち数人のキャラクターである。分量的に大変だったとはいえ,いくら何でもそりゃないだろというプアな表情のCGだ。実力的にもっとリアルに描けなかった訳はないから,これは意図的だとしか思えない。神から見た薄汚い人間は,マンガ同然の描き方で十分という皮肉でも込められているのだろうか。  
     
 
  写真4 古代エジプトの神ホルス。他の人身獣面の神々も頭部だけでなく全身が CG製。     写真5 このミュージアムのシーンだけでもビジュアルのレベルの高さが分かる  
 
     
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