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O plus E誌 2003年5月号掲載
 
 
『サラマンダー』
(タッチストーン・ピクチャーズ/東宝東和配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年2月24日 ヤクルトホール(完成披露試写会)  
  [5月17日より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  VFXは秀逸だが,物語が暗すぎる  
   The Secret Lab (TSL)というVFXスタジオの名前を覚えておられるだろうか? 伝統あるDream Quest Images社がディズニーの傘下に入り,『ダイナソー』(2000年12月号)製作のために,Disney Feature Animationのデジタル部門と統合されてできた会社である。その後,『102』(2001年3月号)などを手がけたが,最近あまり名前を聞かない。ディズニー系の作品だけに制約されているためだろうか,やる時は徹底した完全主義を発揮するため経営不振なのだろうか。
 そのTSL社が久々に200人以上をかけて作り上げた入魂の作品が,この『サラマンダー』だ。原題は『Reign of Fire』(火の王国)。「サラマンダー」は火の精霊として知られる巨大竜で,RPGなどでもよく登場するが,実は映画の中ではこの言葉は出て来ない。配給会社があえて邦題に採用したため,日本語字幕には登場する。
 時代は現代のロンドン。6,500万年の眠りから覚めた邪悪な巨大竜が,地下鉄工事現場に現れて人間を襲い,驚くべき繁殖力で仲間を増やして世界の文明を破壊してしまう。人間はわずかな要塞を築いて息を潜めて生きているが,そこに米国のケンタッキーから軍用へリで辿り着いた義勇軍が舞い込む。彼らは夕方になると視力を失うという巨大竜と戦うことを主張するが…,というのが物語の概要だ。
 監督は,TVシリーズ『X-ファイル』で売り出し,劇場版『X−ファイル ザ・ムービー』も手がけたロブ・ボウマン。母を失った要塞のリーダー,クインには『アメリカン・サイコ』(00)のクリスチャン・ベイル。彼と対立する義勇軍のリーダー,ヴァンサンに『評決のとき』(94)『U-571』(00)のマシュー・マコノヒー,ヒロインの女性パイロット,アレックスには『007/ゴールデン アイ』(95)『バーティカル・リミット』(00)のイザベラ・スコルプコというキャスティングだ。
 キュートな美女1人に意志の強そうな男性2人のチームが,力を合わせてサラマンダーを倒すべくロンドンに向かうというステレオタイプの設定だが,中でも驚きはヴァンサン役のM・マコノヒーだ。これまで,やや線の細い知的な役柄が多かったのが,この映画ではスキンヘッド,筋肉剥き出しの荒くれ男として登場する。色々な役柄を演じたがるのが俳優の常とはいえ,この変身ぶりは特筆に値する。
 それにしても暗い話だ。伝説の火を吹く竜が現代に甦って面白くもなければ,生き延びた人間にも楽しみはない。なぜアメリカのケンタッキーから義勇軍がイギリスまでやって来るのか納得できないし,竜を倒そうとするパワーもやや不自然だ。映像も暗めで,観ているだけで気が滅入って来る。よくもこんな企画にゴーサインを出したものだ。ところが,終盤の30分,大団円に向けてのストーリー運びには釘づけになってしまう。クライマックスだけでも感情移入させるのは,さすがプロの仕事,ハリウッドの映画作りのなせる技だ。
 さて,TSLの描くサラマンダーだが,減点ナシで一分の隙もない。『ダイナソー』のチームが作ったなら,この怪獣を描くのにこのレベルは当然だろう(写真1,写真2)。とりわけ,義勇軍との空中戦の模様は見事な演出だ。技術的には,竜の肌はテクスチャー・マッピングだけで表現するのではなく,1枚1枚のウロコまで描いているらしい。しかし,『ジュラシック・パーク』『MIB』『X-メン』シリーズや,『エボリューション』(2001年9月号)でこの手のCGを見続けてきた読者,観客には新鮮味は感じられないだろう。
 この映画の北米での公開は昨年の夏だった。サンアントニオでSIGGRAPH 2002に集った日本人CG関係者たちは,この映画と『スパイダー パニック!』(2002年12月号)を見比べて楽しんだ。好みや評価は分かれたが,後者の方が人気が高かった。CG,VFXの腕よりも楽しい映画の方を選んだに過ぎない。
     
 
 
 
写真1 ロンドン上空を制覇するCG製のサラマンダー。
(c) Touchstone Pictures
 
     
 
 
 
写真2 こちらは実寸大の造作物
(c) Touchstone Pictures
 
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