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O plus E誌 2020年1・2月号掲載
 
 
イントゥ・ザ・スカイ 〜気球で未来を変えたふたり〜』
(アマゾン・スタジオ /ギャガ配給 )
      (C)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月17日よりヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー公開中]   2019年12月5日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ワクワクする空中での冒険物語,足が竦み目が眩む  
  続いては,Amazonオリジナル作品だ。Netflixのように映像配信専業でも月額契約でもないが,TV番組・映画製作部門のAmazon Studiosがあり,2015年頃から他社と共同配給を始めていた。2部門でアカデミー賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)は,その代表作である。当然,Amazonプライムで配信するコンテンツ充実のための試みであったが,その後,単独で配信するオリジナル作品を増やしている。本作は,日本国内ではギャガが配給し,表記のように劇場公開されているが,この公開日以前からAmazonプライム経由で配信されていた。プライム会員を優先しつつ,そうでない映画ファンにも配慮している営業政策だと言える。
 当欄のメイン欄で初めて扱うCG/VFX多用作の原題は『The Aeronauts』。この単語を知らなかった。宇宙飛行士は「astronaut」であり,普通の航空機のパイロットはこうは呼ばないから,何だろうと思ったら,気球や飛行船の操縦士のことだった。なるほど,最近滅多にお目にかからない英単語である訳だ。
 時代は1862年,ビクトリア朝のロンドンが舞台での実話を基にした物語である。気象学者のジェームズ・グレーシャーは,天気予測に必要なデータを得るため,前人未踏の高度7,000mを超える飛行を計画する。十分な実験資金を調達できなかったジュ―ムズは,女性気球操縦士のアメリア・レンに頼み込み,観測機材を積み込んで,彼女のガス気球で大空へと飛び立つ。ワクワクする冒険物語であるが,上空は空気が薄く,零下50度の極寒の上に,気球を降下させるための装置が凍りついて動作しないという危機に見舞われる……。
 実際に1862年9月5日の飛行で推定高度11,277mに達したという記録があるが,J・グレーシャーのパートナーはヘンリー・T・コックスウェルだったとのことだ。劇中のアメリアは,他の女性飛行士の性格も混ぜてデザインされた架空の人物である。米英合作であるから,米国の国民的英雄である女性飛行家のアメリア・イアハートを想起させる名前にしたのかも知れない。
 監督はトム・ハーパー。次項の『キャッツ』のトム・フ―パーと紛らわしいが,こちらは英国で短編映画やTVシリーズ中心に活躍して来た人物のようだ。主演のジェームズとアメリアを演じるのは,『博士と彼女のセオリー』(15年3月号)のエディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズ。ホーキング博士とその妻を演じたコンビの再結成というのは,素直に嬉しい。この2人が演じる場面が大半で,他の人物の登場場面は覚えていない。ただし,本作の主役はアメリアであり,クレジットもF・ジョーンズが先である。複数の人物のミックスとはいえ,女性が活躍する映画に相応しい主人公だ。
 ■ 劇中では,高度12,000mというセリフもあった。ジェット機の通常の巡航高度が8,000〜12,000mと言われているから,その上限に近い。そんな高さまで実際に気球で昇ったというのが驚異的だが,それをどんな映像で描いているのかが興味の的だった。雲海の上に気球全体を配した構図は当然CGによる描写であり(写真1),下部の籠部分の中の2人の後に雲が見えるシーンは背景合成だと予想できる(写真2)。有人の籠部分を斜め上から捕えた映像も登場するので,これもスタジオでのグリーンバック撮影に背景合成の産物なのだろうと思ったが,近くにヘリを飛ばしていたり,長いクレーンを用意しているメイキング映像(写真3)もあるので,かなりの高度までは実写だと再認識した。最近のことなら,当然,ドローンも活用していたことだろう。臨場感は抜群で,地上を見下ろす場面では,試写室にいながら,何度も足がすくんだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 雲海より上空(上)は勿論,ロンドン市内の上空(下)でもCG製の気球を合成
 
 
 
 
 
写真2 こちらは2人が実写で,背景の雲をVFX合成
 
 
 
 
 
 
 
写真3 ヘリや大型クレーンを利用した撮影も行われたようだ
 
 
  ■ さすがに写真4はVFX合成だろう。いくら命綱は着けていても,人気女優に空中でこんなポ―ズをさせるはずはない。緊急事態の回避のため,アメリアが気球側面を登る写真5以降が大迫力だ。この後の気球の上での作業シーンは想像しただけでも気が遠くなる。CG/VFXとして格別に難しくはないが,構図や演出がいい(写真6)。気球搭載の気象観測機器,小道具類もしっかり描かれているので,物語全体のリアリティが高い。
 
 
 
 
 
写真4 さすがに,人気女優に空中でこんなことはやらせない
 
 
 
 
 
 
 
写真5 アメリアは独りで気球側面を登る。この後の頭頂部での行動が圧巻。
 
 
 
 
 
 
 
写真6  VFX技術があるから,こんな大胆な構図の映像も作れる
(C)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
 
 
  ■ 顔の雪はメイクで,吐く息はCGで追加したのだろう。気球に積もった雪もCGだろうが,光線の処理が秀逸だった。CG/VFXの主担当は英国のFramestoreで,他にRodeo FX,Alchemy 24も参加している。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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