head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
O plus E誌 2021年Webページ専用記事#2
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「あの夜,マイアミで(オリジナル・サウンドトラック)」 
(Universal Music)

   
 
 
 
  映画本編は「未紹介のゴールデングローブ賞ノミネート作品」(2021年Web専用#1)のページで評したが,改めてサントラ盤も紹介しておこう。GG賞では,ドラマ部門の監督賞・助演男優賞と主題歌賞(歌曲賞)の3部門にノミネートされたが,いずれも受賞には至らなかった。アカデミー賞では,やはり3部門ノミネートだが,監督賞候補にはなく,脚色賞部門にノミネートされている。筆者のアカデミー賞予想では,当時の人気歌手サム・クックを演じたLeslie Odom Jr.を助演男優賞に,彼が作曲し自ら歌ったオリジナル曲“Speak Now”を主題歌賞に推したので,その補足説明とサム・クック (Sam Cooke) についても少し語っておきたい。
 映画本編のAmazon Primeでの配信開始(1月15日)と同時に,サントラ盤アルバムもデジタル配信されている。Amazon Prime会員なら無料で聴ける。ちょっと珍しいが,約3ヶ月経った4月16日から,国内盤CDも発売された。筆者と同様,アカデミー賞の有力候補と考えたからだろうか。
 アルバムは全22曲収録で,音楽担当のTerence Blanchardのオリジナルスコアが8曲, Leslie Odom Jr.の歌唱曲も8曲,劇中での使用曲やこの映画に関連があるトラックが6曲の構成となっている。T. Blanchardはグラミー賞6度受賞のジャズ・トランペット奏者だが,近年は映画音楽の作曲家として活躍している。『マルコムX』(92)『25時』(02) 『ブラック・クランズマン』(18)『ザ・ファイブ・ブラッズ』(20年Web専用#3)等,スパイク・リー監督のブラック・ムービーの音楽担当として起用されることが多いようだ。正統派の映画音楽も多数手がけているが,本作では監督のレジーナ・キングの求めで,ほぼピアノだけの演奏曲に留めている。通常のオリジナルスコアに比べて8曲と少ないのは,映画本編が4人の激論の会話中心だったため,その邪魔をしないようにとの配慮だったのかと想像する。
 Leslie Odom Jr.が歌う8曲は映画中では流れなかった(と記憶している)曲も収録されているが,おそらく多めに収録しておいて,カットされたシーンもあるためだろう。Sam Cookeのコパカバーナ出演シーンの最初に「皆さんもご存知かもしれません」と断って歌い出す“Tammy”は,Debbie Reynoldsの歌唱で知られる当時のヒット曲で,多くの歌手がカバーしている。またNat King Coleのヒット曲として知られる“(I Love You) For Sentimental Reasons”がなぜここに入っているのかと思ったら,この両曲ともSam Cookeの初期のアルバムの収録曲だった。当時は,デビューまもない頃のアルバムには,オリジナル曲だけを歌わず,よく知られたカバー曲を収録するのが定番だった(そう言えば,Beatlesの最初の2枚のアルバムもそうだ)。
 8曲中で“You Send Me” “Chain Gang” “Good Times” “A Change Is Gonna Come”の4曲は,まごうことなきSam Cookeのヒット曲である。Sam Cookeが少しハスキーで,鼻にかかった歌い方であるのに対して,L. Odom Jr.は甘いハイトーン・ヴォイスでカバーしている。見事な歌唱だ。後の3曲は,映画終盤にこの順でステージ上のライヴ歌唱として登場する。出色なのは,Bob Dylanの“Blowin' In The Wind(風に吹かれて)”に対抗して作られたという“A Change Is …”で,Sam Cookeの死の直後にレコード発売された代表曲である。この歌唱とともに映画本編は終了し,そのままエンドロールをバックに書き下ろしのエンドソングである“Speak Now”が流れる。まるでこれもSam Cookeの曲で,彼自身が歌っているメッセージソングのような印象を与える。
 Sam Cookeについても触れておこう。1933年の米国南部のミシシッピ州生まれの黒人人気歌手で,1950年代末から60年代前半にヒットチャートを賑わした。ルックスの良さとスマートな身のこなしから,当時としては珍しく白人家庭にも受入れられる存在であった。映画中では,マルコムXにそのことをからかわれている。当初はポップ分野で売り出し,次第にR&B分野での大きな存在となる。まさにこの映画が描いているように,発言力をもつ音楽,ボクシング,アメフト分野の著名な黒人の1人で,黒人解放運動のシンボル的存在だったのである。近年は,Aretha Franklinと並ぶソウル・ミュージックの始祖のような扱いを受けているが,それは後年の評価で,絶頂期の33歳で他界したため,Arethaほどの実績はない。彼の死を悼んだOtis Redding, Bobby Womack, Solomon Burkeらの後輩が,彼の曲を積極的にカバーし,ソウル界を盛り上げたため,伝説的な存在となったようだ。
 彼の死の1964年当時,日本ではよほどの洋楽マニアでない限り,名前を知られていなかった。当時,洋楽に傾倒していた筆者が初めてSam Cookeの曲を聴いたのは,1963年の春か初夏に購入したドーナツ盤でであった。Little Peggy Marchの大ヒット曲[ビルボード誌1位]“I Will Follow Him”のB面にあった“Another Saturday Night(こんどの土曜に恋人を)”[ビルボード誌10位]だったことをはっきり覚えている。日本だけのカップリングだったようだ。ジャケットに写真すらなかったので,黒人だとは知らなかった。軽快なロック・ナンバーだったので,もっと聴こうと他のド―ナツ盤やLPをくまなく探したのだが,見つからなかった。まだその程度の扱いだったのである。彼のオリジナルアルバムは14枚(含,ライヴ盤)あるが,その半数は現在デジタル配信で入手でき,ベスト盤も多数販売されている。このサントラ盤にはSam Cookeの歌唱は入っていないので,そうした音源で彼の歌を愉しむのもいいかと思う。
 
  ()  
   
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br