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O plus E誌 2015年8月号掲載
 
 
進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
(東宝配給)
      (C) 2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 (C) 諫山創/講談社
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [8月1日よりTOHOシネマズ新宿他全国ロードショー公開予定]   2015年7月3日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大人気アニメの実写映画は,リアルな巨人がウリ  
  さて,3本目として,上記2本に負けない,語るに足る一作はないかと探したところ,邦画に恰好の話題作があった。人を捕食する巨人たちと人類との壮絶な戦いを描いたダーク・ファンタジーである。例によって,原作はコミック誌で連載中で,TVアニメで話題を呼んだ人気作の,待望の実写映画化である。何しろ,中高生から大学生まで,コミック&アニメ世代なら知らない者はなく,話題では上記2作に全くひけを取らないそうだ。実写版映画は,前後編2作に分かれていて,前編を夏休みに,後編を秋のシルバーウィークに公開というから,興行戦略上も万全の構えである。
 いつものように,試写会前の勉強として,原作コミックの単行本(既刊16巻中の)6巻までを読み,アニメは『劇場版「進撃の巨人」前編〜紅蓮の弓矢〜』をDVDで観た(後編は,現在公開中)。昨年後半から,実写映画に先立って「るろうに剣心」「寄生獣」「暗殺教室」「海街diary」等のコミックを熟読し,いずれも人気を博すだけのことはあると実感した。ところが,この原作コミック「進撃の巨人」だけは,全く受け入れ難かった。余りにも絵が下手過ぎ,プロとは思えない。コマ割りも,セリフも,筋立ても稚拙で,通読するのが苦痛であった。
 それに比べて,アニメの方が観るに耐える内容だった。日本のアニメ業界は技術水準が高く,製作体制が確立しているので,稚拙な原作を一定水準に引き上げるパワーがある。欧州をイメージした町並みはカラフルであり,カメラワークやアクション演出で平均レベルのアニメに仕上がっていた。実際,深夜放映のTVアニメで人気が沸騰したが,原作の評判は今イチのようだ。
 さて,実写映画の監督は『日本沈没』(06年7月号)の樋口真嗣,特撮監督は尾上克郎で,多数の巨人を描くのに,東宝が誇る最強のコンビである。主人公の青年エレン役に三浦春馬,ヒロインのミカサ役に水原希子で,若手俳優が多数出演している。原作にはない人物設定で,長谷川博己,ピエール瀧,國村隼が登場するが,彼らの存在と演技が物語の厚みを増している。
 ずばり出来映えは,映画>アニメ>>コミックの順である。『映画 暗殺教室』(15年4月号)の評価は全くの逆順で,「原作のもつ躍動感を実写映画で生かし切っていない」と評した。本作はその反対で,原作の拙劣さを特撮やCGでパワーアップした映像が補い,劇場映画の品位を保っている。以下,その見どころである。
 ■ コミックもアニメも,中世ヨーロッパを思わせる舞台設定で,登場人物名はすべて西洋風である。日本人俳優を配して,その雰囲気が出せるのかと懸念したが,時代も場所も不祥の設定に変えられていた。世界遺産登録が決まった軍艦島でのロケ(写真1)を中心に,それに類した荒廃した街並みのセットで物語が進行する。アニメ版とは随分印象が違うが,それでも特に違和感はなかった(写真2)
 
 
 
 
 
 
 
写真1 世界遺産登録が決定した軍艦島でのロケを敢行
 
 
 
 
 
写真2 風景も人物も全く欧州風には見えないが,違和感はない
 
 
  ■ 三重の高い壁で巨人の侵入を防いでいるというので,『メイズ・ランナー』(15年6月号)のCG製の壁と比べて,出来映えを論じたかったのだが,出番はそう多くなかった。CGで描いた壁は前半少し登場するだけだが,彼我の差は感じられず,上々の出来だった。高さ50mの壁を越える「超大型巨人」は,身長120mの設定である。これはCG製ではなく,シリコンやウレタンで作られたパペットだ。上半身だけが制作され,両手,頭,口,眉,背中を動かすのに,12人で操っている(写真3)。旧式の特撮技法だが,意気込みが感じられた。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 上半身だけの超大型巨人は12人で操演する
 
 
  ■ 破壊された壁から,15m級,10m級,5m級の多数の巨人が侵入し,人間を捕食する。この巨人たちは,フルCG描写ではなく,メイクや前張りを施した20人の俳優の生身の演技をブルーバック撮影し,VFX加工で大きくして,実寸大撮影した人間と合成している。アニメと比べると,かなりリアルでグロテスクだが,大きなゾンビと思えば納得が行く。広報方針で,この巨人たちの画像が提供されず,掲載できないのが残念だ。
 ■ 巨人たちを倒すのには,後頭部の下が唯一の急所だ。ここを狙うのには「立体機動装置」のワイヤーを使って空中から攻撃する。これは文字通りワイヤーアクションで撮影されたが,動きも合成も上出来だった(写真4)。CG/VFX制作には,イマージュ/モータライズ,白組,マリンポスト等,10数社が参加している。VFX利用カット数はかなり多く,邦画では大作の部類だ。
 
 
 
 
 
写真4 立体機動装置でのワイヤーアクションも上質
(C) 2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 (C) 諫山創/講談社
 
 
  ■ 主役のエレンが巨人に飲み込まれ,そして復活するシーンは本シリーズの肝で,原作では2巻目,劇場版アニメでは前編の中ほどで登場する。この映画では,それが一向に描かれず,熱烈ファンなら,全く別の物語になったのかとヤキモキすることだろう。ラスト間近でようやくその場面が登場し,安堵するはずだ。ギリギリまでじらして後編に繋げる,この盛り上げは上手い。興行的にも成功することだろう。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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