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O plus E誌 2016年3月号掲載
 
 
ヘイトフル・エイト』
(TWC/ギャガ配給)
      (C) MMXV Visiona Romantica, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月27日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2016年1月18日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  拘りのワイド画面で,タランティーノ西部劇が満開  
  3年ぶりのクエンティン・タランティーノ監督作品だ。振り返って見れば,前々作『イングロリアス・バスターズ』(09年11月号) も前作『ジャンゴ 繋がれざる者』(13年3月号)もメイン欄で紹介し,共に最高点のを与えている。根っからのタランティーノ好きと言うほどではないのだが,結果的にはそうなっている。
 両作品ともアカデミー賞には作品賞を含む複数部門にノミネートされ,クリストフ・ヴァルツが助演男優賞を2度受賞し,後者は脚本賞も受賞している。本作は,助演女優賞,作曲賞,撮影賞の3部門ノミネートに留まっている。ただし,監督自身は自らの最高傑作と語っている。新作のお決まりの宣伝文句であるが,1作毎に工夫を凝らし,その思い入れゆえの発言とも言える。実際,それだけの仕掛けを凝らした意欲作だ。
 時代は南北戦争後の西部劇で,それもマカロニ・ウエスタン風の味付け,168分の長尺,『キル・ビル』(03&04)ファンなら納得の後半の派手な銃撃戦……。本作をそう紹介しようと思って,前作『ジャンゴ…』の記事を見直したら,既に「長尺なのだが,全く長さを感じさせない。分かりやすく,かつ楽しい映画」「やたら銃をぶっ放し血飛沫と肉塊が飛び散る映像が印象的」と記していた。その点では同じだが,本作はもう一工夫ある。西部劇にして,密室ものミステリーの体裁をとっている。
 様々な理由から,猛吹雪の中,雑貨屋の山小屋に閉じこめられた人物たち,いかにもワルの曲者8人が登場する。『The Hateful Eight』なる原題は,名作西部劇『The Magnificent Seven(荒野の七人)』のもじりだろうか。ならば邦題は『雪原の八人』とでもしたいところだが,それではパンチに欠ける。この監督なら,全員が犯人なのか,それとも1人ずつ死んで行って,そして誰もいなくなる展開なのかと想像してしまう。主演は,タランティーノ作品お馴染みのサミュエル・L・ジャクソンで,他にカート・ラッセル,ティム・ロス,ブルース・ダーンらが登場する。印象的だったのは,紅一点のジェニファー・ジェイソン・リーの怪演だ。なるほど,助演女優賞部門でのオスカー・ノミネートも納得できる。
 前半は少々退屈だが,後半の種明かしのための伏線となれば仕方がない。約半分が過ぎてようやく殺人事件が起こり,その後一気に面白くなる。拳銃攻撃主体のアクションだが,しっかりミステリー仕立てになっている。では,当欄のお目当て,CG/VFXはというと,殆ど目立ったシーンはない。ただし,映像フォーマットや音楽は語るに値するので,メイン欄で紹介したくなった次第だ。
 ■ デジタル・シネカメラ全盛の時代に,今でも35mmフィルム,それもアナモルフィック・レンズでの撮影に拘るタランティーノ監督だが,本作ではそれが高じて,「ウルトラ・パナビジョン70」なる(筆者ごときは)聞いたこともない特殊カメラで撮影している(写真1)。寒々とした雪の風景や,ロケーションの美しさの表現に最適」という。それもただの70mmフォーマット(2.2:1)ではなく,2.76:1という超ワイド画面で,ハリウッドでも過去数作品にしか使われていなかった代物だそうだ。これはもう,監督の格別の拘りとしか言いようがない。米国では100館以上で70mmフィルム上映されていたようだが,日本では1館もないのが残念だ。当然,その光学的圧縮を逆変換する特殊アナモ・レンズを標準的なデジタル映写機に装着する訳には行かず,通常のシアターではシネマスコープ画面(2.35:1)の上下をカットした上映で済ませている。
 
 
 
 
 
写真1 ウルトラ・パナビジョン70での撮影強行
 
 
  ■ エンドロールの中には,Method StudiosやSkyline VFX等数社の名前があったから,CG/VFXもそこそこ使われていたようだ。雪の原野で撮影したことは確実だが(写真2),遠景の山々や猛吹雪はVFXかも知れない。銃口からの火炎や頭が吹っ飛ぶシーンもCG/VFXの産物だろう。その他,随所でインビジブルVFXが使われていたと思われるが,さして目立った使われ方ではない。映像的に特筆すべきは,やはり2.76:1 の横長画面だ。当然,そのアスペクト比を意識した構図であるから,山小屋内のカメラワークにもそれを活かしている(写真3)。画質的には,70mmフィルムの直接の階調特性は味わえなくても,レンジの広さ,高解像度はデジタル化で劣化してはいないので,真っ白な銀世界を堪能できる。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 上:通常のスチル写真,下:2.76:1の上映画面
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 屋内もここまでワイドに捉えることが可能
(C) MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.
 
 
  ■ もう1つ特筆すべきは,全編を通しての音楽だ。過去にもエンニオ・モリコーネの既存の楽曲を多用していたが,今回はモリコーネがこの映画のためのスコアを書き下ろしている。まさにタランティーノ作品のテイスト満開だ。ゴールデングローブ賞では作曲賞に輝き,アカデミー賞でも有力候補である。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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