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O plus E誌 1999年7月号掲載
 
 
『奇蹟の輝き』
(1998年 Polygram Films,配給:日本ヘラルド映画/松竹富士)
 
(c) 1998 POLYGRAM FILMS. ALL RIGHT RESERVED.
       
      (1999/5/24 日本ヘラルド社試写室)  
         
     
   原題は“What Dreams May Come”,本年度のアカデミー最優秀視覚効果賞受賞作品である。3月にBS放送で授賞式を見るまでこの作品のことは知らなかった。『ゴジラ』は陳腐に尽きたから,金のかけ具合からすると『アルマゲドン』かなと思っていたが,予想は見事に外れた。他には『マイティ・ジョー』がノミネートされていただけで,『ゴジラ』は影も形もなかった。
 年末以来超多忙で,この種の情報収集を全く怠っていたためもあるが,SIGGRAPH98のElectron-ic Theatorにも登場しなかったし,あまり話題になっていなかったように思う。慌ててAmerican Chinematographer誌のバックナンバーを探してみたら,『奇蹟の輝き』は,1998年11月号で取り上げられていた。2編の解説があったが,やはり7月号の『アルマゲドン』ほどの大きな扱いではなかった。
 
 
表1 歴代の視覚効果賞受賞作品
1990年度(第63回) なし
1991年度(第64回) ターミネーター2
1992年度(第65回) 永遠に美しく
1993年度(第66回) ジュラシック・パーク
1994年度(第67回) フォレスト・ガンプ/一期一会
1995年度(第68回) ベイブ
1996年度(第69回) インディペンデンス・デイ
1997年度(第70回) タイタニック
1998年度(第71回) 奇蹟の輝き
 表1は,過去の視覚効果賞受賞作品のリストである。リズム&ヒューズの『ベイブ』が老舗ILMの『ジュマンジ』に勝った第68回のように,『ジュラシック・パーク』や『タイタニック』のような圧倒的本命のない年には,混戦レースから意外な作品が抜け出してくるようだ。
 表彰式で流れていたのは,天国の花園シーンでは,主人公(ロビン・ウィリアムス)が触れると極彩 色の花が絵の具のように流れて行く(写真1)。なるほど,なるほど,これはディジタル処理ゆえの新しい表現だ。『ゴジラ』は『ロスト・ワールド』の焼き直しだったし,『アルマゲドン』は『インディペンデンス・デイ』『ディープ・インパクト』と同じモチーフだったから新味に欠ける。陰でどれほど高度で斬新なVFXが使われていたとしても割り引かれてしまう。やはり,受賞作品にはテクニックのレベルよりも,新しさの方がアピール度は上である。
 『奇蹟の輝き』のウリは,死後の世界のヴィジュアル化で,絵画とCGが溶け合った斬新な芸術的SFXと謳われている。一般 向け試写会には,丹波哲郎が解説に現れたそうだ。
 75%死後の世界のこの作品を視覚化するのに,絵画調にという解を思いついたのは,監督のヴィンセント・ウォードらしい。女主人公のアニー(アナベラ・シオラ)の職業を,原作にはない画家という設定にしたのは,視覚効果 の上では成功だろう。
 SIGGRAPHでも,ここ数年,Non-photoreal-istic Renderingというセッションが設けられ,CGを意図的に絵画調に仕上げるのが1つの流行になっている。デジタル・プロダクションとしては,是非映画の中で使ってみたかったテクニックのはずである。その意味では,生まれるべくして生まれた視覚効果 賞である。おそらく,VFX担当チームは,この賞を意図的に取りに行ったのではあるまいか。恐竜も怪獣も地球壊滅も食傷気味のところに,どこまで絵画的幻想を味つければ審査員の票を稼げるか,計算ずくであったと感じられた。これもまたハリウッド流ビジネスの1つだろう。
  (SPIDER)  
 
写真1写真2
(c) 1998 POLYGRAM FILMS. ALL RIGHT RESERVED. 
     
 

Yuko
絵画調で天国と地獄を描いているとは聞いていましたが,その通 りでした。確かにどこかの美術館で見た光景ですね。色使いやコントラストのつけ方なども。

Dr. SPIDER
西洋の宗教画のタッチなんですよ。『リング』や『らせん』の単行本のカバーもこの類いですね。本物の天国も地獄も誰も見たことはないから,解りやすく見せようとすると,これが一番安易なんでしょう。
主人公クリスの天国の家は印象派調ですね。
そう,モネの庭そのもの。一方,地獄の船の墓場はダリを彷彿とさせましたね。
絵の具のように溶ける前の花は,造花かCGかと目を凝らしてみたのですが,CGですよね?
多分,大半はそうでしょう。広々としたシーンでは造花も混じっているかもしれません。
写 真2の木は良くできていましたが,あれだけ激しく変化させられたというのはCGですか?
人工生命分野でも話題になったフランス製のLシステムというソフトで作ったそうです。このシーンを含む54ショットは『タイタニック』のデジタルドメイン社,118ショットはPOP(Pacific Ocean Post)社が担当したそうです。
絵の具はいかにも嘘っぽかったし,天使が空飛ぶシーンも宙吊りだとすぐ解ってしまいました。もう少し自然に描けないのかと…。
そうかな? 本当にワイヤーで吊ったのではなく,それらしく見せたんでしょう。どれもわざと虚構っぽく強調したんだと思いますよ。最近のCGやVFX技術なら,いくらでも本物らしく見せられますよ。
回想シーンも多かったので,この世とあの世を対比するのに,分かりやすくしたのかも知れませんね。それにしても。
作品としては,如何でしたか?
うーん…(しばらく無言)。私は,こういう精神世界を描いた映画というのは,あまり得意じゃないので…。
『ゴジラ』でアクション物はもうウンザリと言っていたから,愛の物語は女性向きかと思いました。
『ゴースト〜ニューヨークの幻』みたいに分かりやすくはないですね。評論家にはうけたのかもしれませんが…。
そうでもないでしょう。いま油の乗っているロビン・ウィリアムス主演で,視覚効果 賞と美術賞にしかノミネートされなかったんだから,そういう評価なのでしょう。
感動の作品という割には,主人公に感情移入できませんでした。アメリカ映画らしく,明解で,面白く作ってもよかったと思います。
最近のディジタル技術なくしてこの映画の天国と地獄は描けなかった。でも,そういう映像表現力があったからといって,面 白い映画,いい映画になるとは限らないということです。
視覚効果 賞作品として,業界人にはオススメですか?
我々も気になったように,プロなら見逃すわけには行かないでしょう。いま,CG映像業界に憧れる若者は急増しているから,その数だけの観客は集めるでしょうね。
 
  ()Dr.SPIDER(田村秀行)&Yuko(若月裕子)
[(株)MRシステム研究所]
 
   
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