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O plus E誌 1998年7月号掲載
 
 
付録の再補足:『タイタニック』
(20世紀フォックス/パラマウント映画)
 
(c) 1997 BY PARAMOUNT PICTURES AND TWENTIETH CENTURY FOX. ALL RIGHTS RESERVED.
       
         
         
   
   公開後半年になるというのに,まだ『タイタニック』が大入りを続けている。ゴールデンウィーク公開の『エイリアン4』に1週だけNo.1の座を奪われたものの,週間入場者数もずっと1位だ(5月末現在)。
 オスカーを11部門で取ったというのもいい宣伝になったのだろうが,それにしてもヒットしたものだ。2億ドルも製作費をかけて回収できるのだろうかと思ったが,とっくにその10倍以上を稼ぎ出してしまった。パラマウント映画に製作費を半額負担してもらい,北米での興行権を売り渡してしまった20世紀フォックスの幹部もさぞかし悔やんでいることだろう。
 あちこちで話題になったこの映画を何度も取り上げるのは沽券にかかわるのだが,もう一度触れてみたい。ほとんど予備知識なしに観て,じっくり分析できなかったことが,どうも後味が悪いのである。
 メイキング情報も色々目にするようになった。既報のComputer Graphics World誌をはじめ,日経CG誌も2〜3月号で取り上げた。BS1での特番もあった。American Cinematographer誌は,97年12月号丸ごとで特集し,その全文はインターネット(http:// www.cinematographer.com/)で公開されている。「映画撮影」誌No.137には,その一部が邦訳されて載っている。S. スピルバーグはガードがかたく,『ジュラシック・パーク』はスチル写真ですらあまり出廻らなかった。一方,J. キャメロンはかなりオープンで,『ターミネーター2』の時も,メイキング情報が結構伝わってきた。真似られるなら真似てみろ,という自信かも知れない。
 こうした情報を全部頭につめ込んで,もう一度じっくり観に出かけた。GW明けの土曜日なら,もう空いているだろうとの予想は見事にはずれ,まだまだ長蛇の列だった。他の映画はガラガラなのに,これだから興行はコワイ。何とか座れたが,3時間立見したり,通路に座り込んでいるカップルもいた。
 沈没を察知して逃げるネズミは,明らかにCGと分かるが,他は何度見ても見事だ。波や船上のCG人物像は,目を凝らして見てようやくCGかなと分かる程度である(付写真5(a))。動きは,モーション・キャプチャが2割で,残る8割はマニュアルでつけたというが,まるで区別できない。傾く甲板から落下する乗客は,スタントマンかCGキャラクターか,事前に知っているシーン以外は全くわからない(付写真5(b))。海中シーンは,海底の沈没現場まで何度も行って撮影したというが,一部はスタジオの水槽の中らしい。
 豪華船と難破船のすり替わりシーンは,何度見ても見事だ。単純なモーフィングでなく,かすかに船体に錆が現れはじめて,徐々に水中撮影のように見せている。パース合わせも,ゆっくりカメラを回転させながらその過程で見事に溶け込ませている。今にして思えば,『T2』のモーフィングなど,「さぁ行くぞ。エイヤー」という感じで,随分稚拙だった。
 ここはCG,ここはミニチュアの実写という風にカット毎に切り替えるのではなく,いたるところでディジタル処理を加えているようだ。驚くべきは,タイタニック号沈没後の海上のシーンである。もちろん,夜の大西洋上での撮影のわけはなく,スタジオ内の大きな水槽での演技である。推定温度0°C前後に見えるようなメーキャップを施したが,主役のジャック(レオナルド・ディカプリオ)のはく息があまり白くない。この不自然さを嫌ったキャメロン監督は,改めてスタントマンに寒中で同じ息づかいをさせ,その白い息の映像だけをディジタル合成したという。
 言われなきゃ誰も気がつかない,こうした細部にも徹底的なリアルさを求めたJ. キャメロンのこだわりがある。一等船室の食堂の小道具から救命ボートの操作法にいたるまで,このこだわりが貫かれている。だからこそ,観客は3時間余の長さを感じずに感情移入できたのだろう。
 特撮スタッフ出身で自ら脚本も書くJ. キャメロンは,ディジタル技術の可能性も限界も知りつくしている。この監督のこだわりに応えられるだけのディジタル技術が整備されてきたことが,SFX史に残る意義だろう。
 『タイタニック』は,撮影機材や照明方法といった専門的観点からも,語るに足る進歩を生みだしたようだ。ディジタル合成は,もはや特異な技法でも話題作りのネタでもない。従来からの撮影技術と同様に,監督が使いたい時に,使いわけられる技術の1つとなった。もともと,大道具や撮影スタジオは,観客の目をあざむき,それらしく見せるための仕掛けである。ディジタル技術も完全にその仲間入りしたのである。
 
  (Dr. SPIDER)  
  
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