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O plus E誌 2004年7月号掲載
 
 
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (C) 2004 Warner Bros. Ent. Harry Potter Publishing Rights (C)J.K.R.  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年6月4日 ワーナー試写室(東京)
2004年6月8日 梅田ピカデリー1[完成披露試写会(大阪)]
 
  [6月26日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  内容,VFX共に充実の3作目  
   原作も映画も世界的人気シリーズの3作目,監督が変わった。前作までのクリス・コロンバスは製作に回り,『リトル・プリンセス』(95)『天国の口,終りの楽園。』(01)のアルフォンソ・キュアロンがメガホンを取る。4作目『炎のゴブレット』の監督は,既にマイク・ニューウェルに決定している。これだけ手の込んだ作品の製作には何年も前から準備する必要があり,年1作のペースを守るには監督交替も必須という訳だ。
 これまでのシリーズを引き継ぎつつも,新監督は構図やカメラワーク等,違いをだそうとしているのが感じられる。映像のスケールも大きくなった。ライバルだった『ロード・オブ・ザ・リング』の影響も随所に感じられる。ちょっとその意識が強く出ている感もあるが,なかなかいい絵作りだ。
 もう1人重要な交替は,亡くなったリチャード・ハリスに替わるダンブルドア校長役で,イギリスの舞台俳優マイケル・ガンボンがこの責任ある役を継いだ。もう少し背が高い方が望ましかったが,R・ハリスとはまた違った持ち味を出して好演している。次回以降も楽しみだ。
 主役の3人,ハリー,ロン,ハーマイオニーはというと,前作も結構顔が変わったと感じたが,本作ではさらにその印象が強い。子役の成長は早く,同じイメージを保つのは難しい。劇中と実年齢とが同時進行で問題なかったはずだが,年1作感謝祭シーズンの公開だったのが,今回は半年遅れとなった影響も強く出ている。眼鏡で誤魔化せるハリーはまだいい。ハッとするような知的で個性的な美少女だったハーマイオニーのエマ・ワトソンは,普通の女の子になってしまった感じだ。一番変わったのはロンのルパート・グリントだ。もともと他の2人より1歳年長だったせいもあるが,顔は面長になり,かなりの長身に成長してしまった。もはや人懐っこいヤンチャ坊主の印象はない。バスト・ショットを多用したり,3人揃って階段や坂を下るシーンでは,ロン,ハリー,ハーマイオニーの順に歩かせるなど,長身ぶりを隠す苦心の跡が見られる。
 一作毎に厚くなる原作を約2時間半に詰め込むのは脚本家にとっても監督にとっても至難の業だ。本作品はこれまでで一番短い2時間22分だから,多彩なエピソードや人物紹介が駆け足にならざるを得ない。特に前半が顕著で,原作を読んでいない観客には目まぐるし過ぎる。これでも色々カットしてあって,小説の愛読者には不満なことだろう。
 改善策はないものだろうか? 1冊を前後編に分けて,同時撮影し,年2本を公開しては如何だろう? 1冊ずつ完結で後半盛り上がる原作だけに,それでは前編がつまらなくなってしまう。1本に収めるのにエピソードをカットし過ぎると,後の作品で重要な役割を果たす時に困るのだという。ならば,必要になった時点で収録し,回顧談として紹介する方法をとるのが普通だが,このシリーズの場合は,子役たちの成長が障害になるという。それなら,せっせと今彼らを撮り溜めておいて,公開作品からはカットし,後年必要に応じて再利用すればいいではないか。映像的に少し描き加えたい時は,最新の視覚効果技術がそれを十分可能にしてくれるはずだ。と考えてみたのだが,本作品が短くなったということは,既にその方法を採用し始めたのかも知れない。
 原作でも最も評判が良い作品だけに,物語としては楽しめた。前半の目まぐるしさを忘れて,後半はじっくりと堪能できる。どんでん返しやタイムトラベルも含めて,面白さは抜群だ。魔法の楽しさもVFXの充実度もぐんとアップしているので,愛読者も映画だけの観客も満足度は高いだろう。欲を言えば,2度観た方がもっと楽しめる。筆者自身,この稿を書くのに1回では不十分で,東京と大阪で試写を観てしまった。
   
  継ぐのはお前だ!  
   では,お目当てのVFXの解説に移ろう。
 ■老舗ILMを中心に,Framestore CFC,Moving Picture Co.,Cinesite Europe,Double Negativeと,いま米英で最も実力のあるディジタル工房が視覚効果を担当している。総製作費175億円も過去最高だが,CG利用度の増加や品質の向上はそれ以上だ。
 ■魔法とSFX/VFXによる映像表現は相性抜群だが,全2作にも増して,それが楽しい形で使われる。風船のように膨らむマージおばさん(写真1),自在に変形する「夜の騎士バス」(写真2)はその典型だ。膨らみ始めのおばさんは人工装具で表現し,3階建てバスは中古の2階建てバスを購入して改造したという。勿論,肝心な場面ではCG映像も動員して,ディジタル合成・加工されていることは言うまでもない。
 
     
 
写真1 風船のように膨らんだマージおばさん
 
写真2 自在に変形する「夜の騎士バス」
 
 
(c) 2004 Warner Bros. Ent. Harry Potter Publishing Rights (c)J.K.R.
 
     
    ■お馴染みのクイディッチ・シーンはもはや手慣れたものだが,今回は嵐の中での対戦だ(写真3)。実際に雨中で撮影されたというが,さらにディジタル加工して嵐を演出している。ホグワーツ特急が走るシーンなども同様に,ディジタル処理で天候や明るさなどを調整加工している。
 改めて,これをまっとうできるプロダクションがニュージーランドに存在することに驚く。日本の映画人は,邦画の不振を低予算のせいにするが,本当にそうか。志の高さの違いが,技にも影響するのではないかと思う。
  ■新手のクリーチャーはと言えば,ルービン先生やシリウス・ブラックが変身した「狼男」はイマイチに思えた。人間からの変身途中の描写は上手いが,造形そのものはさほどでもない。動きにも少し不自然さが残る。一方の吸魂鬼ディメンターは,不気味さも空を飛ぶ様も,まずます標準的な出来栄えと評価しておこう(写真4)。
 
     
 
写真3 お馴染のクイディッチ・シーンは嵐の中
 
写真4 吸魂鬼ディメンターとの対決が最大の見せ場
 
 
(c) 2004 Warner Bros. Ent. Harry Potter Publishing Rights (c)J.K.R.
 
     
    ■何と言っても,この映画のVFXの主役は,上半身が鷲で,下半身が馬という動物ピッポグリフの「バックビーク」だ。スチル画像(写真5)で観ていた時よりも,映画の中での方が数段出来栄えは上だった。表情はアップにも耐える描き込みだし,羽を広げた姿が素晴らしい。ハリーを乗せて空へ飛び上がる際の離陸,着陸の描写も見事だ。実在の馬が駆ける姿をベースに,CG映像を描き込んだのではないかと思われる。
 

 

 
 
 
 
写真5 半鳥半馬のヒッポグリフ。再三登場するが,スチル画像で見るよりずっと上質に仕上がっている.
(c) 2004 Warner Bros. Ent. Harry Potter Publishing Rights (c)J.K.R.
 
   ■壁の絵画の中の人物の動き,鳥を捉えて食べる木,怪物的な怪物の本,ロンが飼っているネズミの変身シーンなどもVFXの産物である。羊皮紙の「忍びの地図」の文字と足跡も印象的で,このアイデアを再利用したエンドロールはCapital FX社が担当だ。いい出来だ。
 ■ほぼ同時期にスタートした『ロード…』シリーズとは人気を二分して来たが,各種映画賞でも本欄のVFX評価でも後塵を拝した。もはやライバルはいない。今後は,このシリーズにVFXの進化史を期待するしかない。継ぐのはお前だ!3作目にして,その期待にしっかり応えてくれた。本シリーズの未来に乾杯! 
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