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O plus E誌 2012年2月号掲載
 
 
 
 
『J・エドガー』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [1月28日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2011年11月28日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  見事な老けメイクが,迫真の演技を引き出している  
  今月号のトップを飾るはずの話題作『ドラゴン・タトゥーの女』は,年末予定の完成披露試写が1ヶ月以上も延期となってしまい,本号に間に合わなかった(公開日は予定通りなので,Webページ上でしか紹介できない)。メイン記事欄が『はやぶさ 遥かなる帰還』だけでは淋しいというので,急遽短評欄から1本格上げすることになり,選ばれたのが本作品である。
 アメリカ合衆国連邦捜査局FBI (Federal Bureau of Investigation)の初代長官ジョン・エドガー・フーバーの半生を描いた伝記ドラマである。FBIなる組織を作り上げ,約半世紀に渡って長官の席に就いていた「ミスターFBI」であるので,半生というより,四分の三生と言えるほどだ。筆者などは,物心ついた時からずっと「フーバー長官」であり,小説でも映画でもこの名前しか出て来なかったので,いつ退任したのかも知らなかった。実際の在任期間は,弱冠29歳で長官に抜擢された1924年から死去する1972年までの48年間である。
 宣伝ポスターや吊り広告では,レオナルド・ディカプリオの鬼気迫る形相の横顔が使われている(写真1)。オフィシャルサイトで流れる映像中でも険しい表情,詰問調の激しい舌鋒でのシーンが目立つ。例によって,L・ディカプリオが役柄になり切っての熱演であり,オスカー狙いとも思える迫力である。となると,監督はマーティン・スコセッシかと思いきや,これが何とクリント・イーストウッドだった。こういう権力サイドの人物を彼が真正面から描くのは少し意外でもあるが,とにかく映画史に残る監督と進境著しい中堅男優の初顔合わせだ。どんな展開が待ち受けているのかも気になった一作である。
 
   
 
写真1 観る前から想像できる大熱演
 
   
   共演は,彼を溺愛した母親役に英国の名女優ジュディ・デンチ,長年の秘書ヘレン役に『キング・コング』(06年1月号) のナオミ・ワッツ,公私を共にした側近クライド・トルソンに『ソーシャル・ネットワーク』(11年1月号)で双子を演じていたアーミー・ハマーという布陣である。彼らの出番も多く,少人数の助演陣との絡みが大きな意味をもつヒューマンドラマである。
 FBIの歴史そのものの人物というので,犯罪者との息詰まる戦いを期待したら,見事に裏切られる。8人の大統領の機密を握り,大きな政治的影響力をもったというので,議会や法廷での丁々発止の攻防を求めても,それも叶えられない。表題を「J・E・フーバー」ではなく,「J・エドガー」としたことに,私的な内面の描写を重視したというメッセージが込められていると解釈されているが,おそらく監督の意図はその通りなのだろう。
 米国政治史に関わる意義や,マザコン,同性愛者を描いたことの論評は他の映画評に任せ,当欄ならではの分析を述べておこう。映画冒頭でエドガーが遭遇する爆発シーンは言うまでもなく,1920年代以降のワシントンD.C.の街並み描写には,インビジブルVFXがしっかり使われている。現在フーバー・ビルと呼ばれている建物の長官室から見えるペンシルベニア通りを,何人もの大統領のパレードが通過する。それぞれの時代の車や通りの描写は,実物のクラシック・カーなのか,CGなのか,簡単には識別できない。既にVFX業界内では多数のCGモデルが蓄積され,随時登場させられる態勢であっても不思議ではない。
 むしろ,この映画で目を引いたのは,エドガーとクライドの老けメイクだ。スチル写真で観たディカプリオの恰幅の良さは,肥満体質ゆえに,相当体重を増やして本作に臨んだのかと思ったが,そんなことはない。冒頭でいきなり老人で登場するが,いったん青年期に戻り(写真2),そこから徐々に歳月を重ね,見事な老人顔に至る。この種の老けメイクは,一挙に老化させる方が易しく,徐々に老いた顔にする方が微妙な調整を必要とする。長官となり,大統領も震撼させる権力を握り,自信に満ちた顔,それでいて私的な場面でのみ見せる繊細な表情……(写真3)。技術的には特筆すべきものではないが,このメイク自体が内面の変化を見事に表現し,熱演を引き出す役目を果たしていると思う。クライド役のアーミー・ハマーのメイクは対照的だった。この平凡な人物の目立たない存在を,そのまま象徴するかのような老けさせ方だ(写真4)。その半面,秘書役のナオミ・ワッツはさして老いて見えず,とても同じ年数を経てきたとは感じられない(写真5)。老婆に見せるには,元が美形過ぎるのだろうか。
 
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写真2 若き日のJ・エドガー・フーバーと相棒のクライド・ネルソン。これが素顔?
 
   
 
写真3 この貫録と威厳。見事な老けさせ方。
 
   
 
写真4 クライドは,一段と穏やかで凡庸な人物に
 
   
 
 
 
写真5 どう見ても,老婆には見えないよ
(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 
   
   
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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