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O plus E誌 2009年12月号掲載
 
 
 
戦場でワルツを』
(ツイン&博報堂DYメディア
パートナーズ配給)
 
  (C) 2008 Bridgit Folman Film Gang, Les Films D'ici, Razor Film Produktion, Arte France and Noga Communications-Channel 8
  オフィシャルサイト[日本語]][英語]  
 
  [11月28日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開予定]   2009年10月5日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  メッセージ性の高い佳作だが,制作方法には異議あり  
 

 もう1本もアニメ作品だが,先の2本とはジャンルも制作方法も画調もまるで違う。題名もさることながら,この映画も一度観たら絶対に忘れられない印象的な作品だ。イスラエル・ドイツ・フランス・アメリカの合作映画というだけで異色だが,既に各国の映画祭にノミネートされ,いくつもの賞を受賞している。2008年の作品で,今年のアカデミー賞では,外国語映画賞部門で『おくりびと』の最大のライバルだった映画である。
 題名からは,ポーランド人監督ロマン・ポランスキーの名作『戦場のピアニスト』(03年2月号)を思い出す。強い反戦メッセージが込められているのは同じだが,音楽の使い方も映画の作り方も全く似ていない。原題は『Waltz with Bashir』で,1982年に暗殺されたレバノンの大統領バシール・ジュマイエルの名が入っている。この暗殺をパレスチナ武装勢力の犯行と決めつけたレバノン民兵たちが,同国の首都ベイルートにあったパレスチナ難民キャンプを襲った虐殺事件が背景となっている。それでは日本人には馴染みがなく,分かりにくいだろうということで,この題名にしたのかと思われる。
 監督・脚本は,ユダヤ系ポーランド人の両親をもつが,イスラエル生まれのアリ・フォルマン。ドキュメンタリー作品や自国のTVシリーズで実績を上げてきたようだ。この監督自身が主人公で,19歳で従軍したレバノン戦争の記憶がほとんどなくなっていることに気付き,世界中に散らばる戦友たちを訪ねる旅に出る。本当にこの通りの訪問であったのかは定かではないが,記憶と現実を巧みに撚り合わせた語り口が絶妙だ。
 ドキュメンタリー・アニメーションという珍しいジャンルになるが,アニメといっても手書きでもなければ,フルCGでもない。実写の映像をもとに,ディジタル技術で描き上げた絵画調の映像だ(写真1)。本欄の読者ならば,『スキャナー・ダークリー』(06年11月号) で経験済みだ。CGの手法としては,Non-photorealistic Rendering (NPR)に属すが,確たる理論的基盤がある訳ではなく,実写映像に対して適宜ディジタル画像処理を施して非写実的な映像を得る方法の総称である。「兵士の心理状態を見事に映像化」「戦争の心の闇を描く大胆な筆致」「いかなる範疇にも収まりきらない映画!」等,海外の批評家筋からは絶賛されているが,彼らはこれまでにNPR映像を観たことがないのではないかと思う。それゆえに少し評価が甘くなっていると感じた。

 
   
 
 

写真1 絵画調の表現はNon-photorealistic renderingが最も得意とするところ

   
   フォルマン監督は「実写をなぞったのではなく,ビデオ映像をもとにすべて一から描き上げた」と語っているが,全部は信じがたい。かなりデフォルメされた人物はともかく,爆撃やヘリのローターの動き(写真2)のシーケンスを観る限り,実写映像にNPR処理を施したに違いない。雨に濡れた水面や海面の映り込み,火炎や夜間照明の描写もしかりだ。その結果,黄昏時や夜のシーンで,類い稀なる色調表現を達成している(写真3)。適度のコントラストを維持しながら,彩度を抑える表現法だ。こうした技法を駆使して,記憶の曖昧な場面や想像上のシーンを巧みに描き分けている。  
   
 
 

写真2 ヘリのシーンも実写ベースならではの表現

   
 
 

写真3 夜のシーンでの光の使い方や映り込みが絶妙

   
   その半面,マンガ風に描き過ぎた人物の顔が難点だ(写真4)。これでは,演じた俳優たちの顔の微妙な表情が死んでしまう。ヘブライ語やアラビア語の会話は抑揚が少ないゆえに,目や口の僅かな動きを強調する描写が必要だ。それなら,人物にもNPRを素直に使った『スキャナー・ダークリー』の方が,ずっと顔の表情は豊かだった。
 以下は,ネタバレになることを断った上で記しておこう。この映画は,最後に実写映像に転じる。それが,戦争の悲惨さを生々しく伝える効果を果たしている。それまでずっと絵画調のアニメだったゆえに,このエンディング・シーンが際立っていた。見事な計算だ。
 
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写真4 登場人物の表情描写が雑なのが残念
(C) 2008 Bridgit Folman Film Gang, Les Films D'ici, Razor Film Produktion, Arte France and Noga Communications-Channel 8. All rights reserved.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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