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O plus E誌 2000年9月号掲載
 
 
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『60セカンズ』
(タッチストーン・ピクチャーズ
/ブエナビスタ配給)
 
(C)Touchstone Pictures. All rights reserved
       
      (7/11 イマジカ試写室)  
         
     
  ヒット映画の方程式  
   どこの世界にも勝利の方程式をマスターした成功者がいるものだ。ハリウッド映画界屈指の敏腕プロデューサ,ジェリー・ブラッカイマーもその成功者の1人に数えられる。ドン・シンプソンと共同製作した80年代の『フラッシュダンス』(83)『ビバリーヒルズ・コップ』(84)『トップガン』(86)から,90年代後半の『クリムゾン・タイド』(95)『アルマゲドン』(98)まで,ヒット映画のツボを知り尽くしている感がある。
 主演はニコラス・ケイジ。早くも薄りなりかけた頭髪やノッペリしたオヤジ顔からはスター性は感じられないのだが,いつの間にかトップスターの地位を築いている。癒し顔に似合った『シティ・オブ・エンジェル』(98)『救命士』(99)は不発で,『フェイス/オフ』(97)『スネーク・アイズ』(98)といったアクション,サスペンス系の方が決まっているから不思議だ。あまり好きな俳優ではないのだが,ほとんどの主演作を見てしまっている。
 その2人が久々に組んだアクション映画となると,大ヒット作『ザ・ロック』(96)『コン・エアー』(97)並みのスピーディな切れ味を予想するが,その期待を裏切らないカー・アクションを見せてくれる。1974年の『バニシング IN 60"』(原題は『Gone in 60 Seconds』)のリメイクというが,原題とプロのクルマ泥棒というアイデアだけ共通で,登場人物もストーリーも全く別の作品である。
 監督は『カリフォルニア』のドミニク・セナ,相手役は『17歳のカルテ』でアカデミー助演女優賞を受賞したばかりのアンジェリーナ・ジョリー,さらにロバート・デュバル,デルロイ・リンドーといった贅沢な脇役陣で固めているのだが,いずれも存在感は大きくない。これはどうみても,J・ブラッカイマーとN・ケイジのハリウッド映画なのだ。
 兄に憧れてクルマ泥棒の道に入り,失敗を犯して命を狙われる弟キップ(ジョバンニ・リビージ)の窮地を救うため,引退した兄メンフィス(ニコラス・ケイジ)がかつての仲間たちと立ち上がる。課せられた要求はタイムリミットまでの3日間で,高級車50台を盗み,無傷で引き渡すこと。下見に1日,仕込みに1日,そして最後の1日で50台を一気に…。というストーリーだが,導入部の前半はどうでもよい。盗まざるを得なくなるという状況を作り出しているだけだ。楽しみは,いかにして素早くクルマを盗むかの手口とカー・アクションの後半1時間である。
 
     
  マニア垂涎の高級車50台  
   表題は60秒で1台盗み出すという意味だが,それほどの早業と言いたいだけで,1台ごとに秒刻みのカウントダウンが登場するわけではない。見どころは,本物の窃盗犯からアドバイスを受けたというエキスパートの技である。手口の紹介という意味では,伊丹映画的な味付けを感じさせる。これは文句なく面白い。
 目標となる50台の高級車には,バーバラ,ステファニー,スーザン…といった女性の名前が付けられている。この50台には闇市場で高値がつく憧れの高級車が選ばれている。その選定リスト作成には,郡自動車窃盗特捜部員と元窃盗犯が参加したというから,ハンパではない。アストンマーチン,フェラーリ,ポルシェ,シボレー・コルベット,ダッジ・デイトナ等の50〜60年代の名車から,昨年,今年の高級車,個性的なクルマがリストアップされている。マニアなら,その姿を見るだけで涎を垂らす代物揃いなのだろう。その50台すべてが映画中に登場していたのかは定かではないが,パンフレットにあったリストを見ているだけで楽しい。アメリカ人の好みが分かる点でも興味深い。
 50台の中には日本車が4台ノミネートされていた。トヨタ車が3台で,99年型レクサスLS400(日本名セルシオ),98年型スープラ・ターボ,そして2000年型ランドクルーザーである。2000年型メルツェデスベンツS600,99年型ジャガーXK8クーペ,2000年型ボルボ・ワゴンなどと並ぶと,なるほどという感じがする。
 残る1台は,ホンダではなく日産車だった。99年型インフィニティQ45,日本では最近まず見かけないのでが,まだアメリカ市場向けに生産されていたことをここで知った。キャデラック・エルドラード,ベントレー・アルナージといったアメリカ人向け高級車に近い扱いを受けているようだ。
 ホンダもないが,BMWも盗みの対象にはない。主人公メンフィスが恋い焦がれていた最後の1台「エレノア」は,67年型マスタングを改造したシェルビーGT500だった。これを追う刑事の傷だらけのクルマがBMWという対比が面白い。BMWは俗物の日常車にすぎないが,1967年のマスタングはアメリカ自動車工業の最盛期の象徴ということだろう。ようやくサニー,カローラをマイカーにした平均的日本人や,免許を取ったばかりの筆者には,憧れ以上のものだった。ただし,当時はまだ「ムスタング」と呼ばれていた。
 
     
 
写真 クライマックスのジャンプ・シーンを捉えるカメラ配置
 
     
  娯楽作品はかくあるべし  
 
 激しくぶつけ合って疾走するカー・チェイスは珍しくもないが,この映画のそれは一味違っていた。無傷で届けようとするカー・アクション設定のせいだろう。マニュアルのシフトチェンジもスピンターンも実にカッコいい。娯楽作品はかくあるべしという見本のような作り方だ。
 SFX/VFX担当は,ディズニー系のDream Quest Images社改めThe Secret Labである。 この映画の特殊撮影・視覚効果のほとんどは,この最後のカー・チェイスを魅力あるものにするため使われている。 クルマの屋根や両サイドや装着された多数のカメラや,街頭で待ち受けるカメラ群の映像が複雑に交錯する。マット画処理やワイヤー消しも多用されているだろうが,それを感じさせない。
 極めつけは,ロング・ビーチとサン・ペドロを結ぶヴィンセント・トーマス橋での大ジャンプだ(写真)。州陸運局,市警察にかけあって本当に橋を封鎖し,渋滞や事故現場を作り上げたというのにも恐れ入る。日本映画の不振は,ロケ地で協力を得ることの難しさにもあると聞いた。映画のリアリティ作りは,視覚効果だけでなく,こうした撮影現場の確保にもあることを強く感じさせる。  
 昨年から今年にかけて公開された『インサイダー』『ザ・ハリケーン』『エリン・ブロコビッチ』(日本ではいずれも2000年の公開)は,人間主義復権の実録的アメリカ映画として評価が高い。興行的にも悪くないようだ。そういう良心的映画に心を洗われるのもいいが,この『60セカンズ』のような娯楽作品もまた映画の醍醐味である。
 
   
   
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