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O plus E誌 2009年3月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ロックンローラ』 :音楽映画ではない。主要登場人物の1人がロック歌手であるだけだ。ギャング映画得意のガイ・リッチーが監督・脚本で,ロンドンの裏社会の攻防を描く。一癖も二癖もある連中が複雑に絡み合う物語を,クールかつスタイリッシュな映像でぐいぐいと引っ張る。最初そんなに斜に構えずに,もっと素直に描いても面白い題材なのにと思ったが,この描き方も乙なものだと感じ始める。その先は,結末が読めない展開にすっかりハマってしまう。なるほど,この映画はロックしている。麻薬のような魅力だ。
 ■『カフーを待ちわびて』 :沖縄の小さな島を舞台にした素朴な恋愛映画だ。カフーとは「果報」が訛った沖縄方言で,「幸せ」の意味もあり,主人公の愛犬の名前にも使われている。不器用な青年と謎の女性の恋物語は,日本ラブストーリー大賞の第1回受賞作と聞いただけで,途中から展開が読めてしまう。この映画はそれで良い。ハッピーエンドで幸せな気持ちにさせてくれるのだなと分かっていながら,ハラハラした後でじんと来る。欲を言えば,沖縄の海がもっと綺麗だと良かったが,カップルのデートムービーにはお勧めだ。
 ■『パッセンジャーズ』:どうもこの手の映画の評は書きにくい。何を語ってもネタバレになりそうだからだ。B級ホラータッチのサスペンス・ミステリーだが,同工異曲は過去に何度かあった。エンジン故障で胴体着陸した旅客機の生存者は5名で,彼らの心を癒すセラピストが主人公だ。『プラダを着た悪魔』(06)のアン・ハサウェイが演じている。彼女のファンか,この手の結末が初めての観客には楽しめるかも知れないが,既視体験者には今イチの映画に映る。怖がらせ方も緊迫度も,そして1人ずつ消えて行く謎も,どれも中途半端だ。
 ■『花の生涯~梅蘭芳(メイランファン)~』:井伊直弼を描いた舟橋聖一の歴史小説と同名だが,こちらは陳凱歌(チェン・カイコー)監督が描く京劇の天才女形の一代記である。中国の大作らしく気品あふれる悠々とした作品だ。1900~40年頃の中国の風景描写が丁寧で,セット装飾や小道具のクオリティも高い。惜しむらくは,青年時代の梅蘭芳を演じる余小群(ユィ・シャオチュン)の舞台姿が目も眩む美しさなのに対して,成年期以降の黎明(レオン・ライ)はさほど美形でもなく,女形メイクが似合わない。そのためか,京劇のシーンも少なく,鬼気迫るような演劇の場面もなかった。余談だが,梅蘭芳のブレーン邱如白,マネージャーの馮子光を演じる俳優は,ウオッカの角居勝彦調教師と鈴木ヒロミツにとてもよく似ていた(単に丸い眼鏡の印象か?)。それが気になって物語に集中できなかったのは,この映画が今一つ盛り上がりに欠けていたからだろうか。
 ■『ダウト~あるカトリック学校で~』:優れた脚本の舞台劇を映画化し,名優たちが熱演すればこうなるという見本のような映画だ。60年代の米国,カトリック系学校を舞台に,厳格な女性校長(メリル・ストリープ)が人望厚い神父(フィリップ・シーモア・ホフマン)に抱いた疑惑が題材だ。この2人の鬼気迫るやり取りには息を飲む。なるほど,これなら今年のアカデミー賞に,主要キャストの4人がノミネートされているのも納得できる。ミステリータッチの心理サスペンスで,真実はいかにと気を揉むが……。うーん,この結末は見事な肩透かしで,凡百の観客には消化不良感が残る。最初はそう感じたのだが,じっくり考えれば,やはりこれでいい。ただし,邦題は原題のカタカナ表記ではなく,『うたがい』であった方がずっと味わい深かったかと思う。
 ■『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』  :次号でも良かったのだが,早めに紹介しておこう。人気TVシリーズの劇場版は昨年GW公開で大ヒットしたが,当欄ではその安易な作りに辛い点数をつけた。第2作目より先に登場したこのスピンオフ・ムービーには,秘かに期待していたのだが,またもや安直な製作姿勢が気になった。主人公の鑑識官・米沢守(六角精児)は愛すべきキャラだが,もう1人の刑事(萩原聖人)の描き方が酷過ぎる。こんな変な警官などいるものか。脚本も演出も低水準で,音楽も騒々しく安っぽい。これが日本映画の実力とは嘆かわしい。折角のいい題材なのに,こんな映画ばかり作っていては誰も観なくなるぞ。  
   
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  (上記のうち,『ダウト~あるカトリック学校で~』はO plus E誌に非掲載です)  
   
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