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O plus E誌 2006年5月号掲載
 
 
Vフォー・ヴェンデッタ
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2006年2月28日 リサイタル・ホール[完成披露試写会(大阪)]
 
  [4月22日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  観客を翻弄する新感覚のエンターテインメント  
   奇妙な映画だ。娯楽性と社会性を兼ね備えた作品だというが,なるほど面白くない訳ではない。暴力,国家,善悪,正義等々に関して何やら考えさせられるメッセージもかなり盛り込まれている。これまでの作品の常識で流れを先読みしようと考えると,ことごとく裏切られる。最初から観客を翻弄することを目指して脚本を書いたのではとさえ思わせる。なかなか面白い語り口で,見終った後は,結構楽しませてくれたなと感じる。
 原作は,アラン・ムーアが1980年代前半に書いた英国のグラフック・ノベルで,奇妙なマスク姿の怪人Vが主人公だが,スーパーマンやスパイダーマンのようなスーパーヒーローものではない。正体不明,経歴不祥のVがマスクとマント姿で活躍し,犯行現場に残して行くシンボルマーク「V」の字と剣さばきは,怪傑ゾロの「Z」そのものだ。ただし,権力者に刃向かっても,ゾロのような単純な民衆の英雄ではなく,善か悪かの判別不能で,社会の治安も秩序も吹っ飛ばすテロリストだ。クラーク・ケントやピーター・パーカーのように正体と素顔を観客の前にさらけだすのでなく,この怪人Vは仮面を最後までかぶったままだ。
 その仮面をつけたままで,全編素顔を見せない出演を貫いたのはヒューゴ・ウィービングだ。『マトリックス』シリーズでエージェント・スミスを,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでエルフ族の長エルロンドを演じた,あの個性的な顔と言えば分かるだろう。その彼が,身振り手振りと声の抑揚だけで感情を表わす演技をやってのけるのだから,俳優というのはすごいなと感じさせてくれる。
 一方,絶体絶命の危機をVに助けられ,やがて自分自身についての真実を知るようになるヒロインのイヴィーを演じるのは,『SW エピソード1〜3』のナタリー・ポートマンだ。同シリーズでも『クローサー』(04)でも,一作毎に成長する演技力に高い評価を与えたが,この映画での存在感はもっと凄い。映画の途中で,長い髪をバリカンで刈り落とし,後半はずっとスキンヘッドで登場する。この仮面一辺倒と坊主頭の組み合わせだけで押し切るだけでも異色作と言えるだろう。
 『マトリックス』三部作のクリエイターが仕掛ける衝撃の宣戦布告! というキャッチコピーが語る通り,ヒットメーカーのジョエル・シルバーが製作だが,ウォシャウスキー兄弟は脚本だけで,監督には同シリーズの第2監督であったジェームス・マクティーダを抜擢している。数々の大作の第2監督を務めてきただけに,腕は確かで,観客を惹き付ける技は心得ている。
 時代設定は2020年,第3次世界大戦後の世界で,英国はファシズム国家となり,移住者.異教徒,同性愛者は排除され,監視カメラや検閲が横行する戒厳令下におかれている。独裁政府に刃向かうVは,「血の報復,復讐(Vendetta)」の頭文字から来ている。やたらとセリフが長い。反逆者の主張を聞いていると,一昔前のアウトローたち,全共闘や赤軍派のロジックを思い出す。
 1605年に国王暗殺を企てたガイ・フォークス事件,チャイコフスキーの「序曲『1812年』」,「ファウスト」「巌窟王」からシェークスピアの「マクベス」「十二夜」など,文学・宗教・政治に関わる言及や引用で目眩しするのは,ウォシャウスキー兄弟の常套手段だ。まともに解釈しようとしても消化不良を起こすだけだから,そんな装飾は気にせず,アクション・サスペンス,政治スリラーして観ていれば楽しめる作品だ。
 さて,お得意のVFXだが,『マトリックス』ほどの斬新さはないが,それをウリにしてもいない。圧巻は,前半のロンドン中心部の連続破壊,クライマックスでのビッグベン爆発シーンだ(写真1)。これはミニチュア模型を本当に爆発させ,そこに多少のデジタル効果を加えている。アップにも耐える精巧な作りは実に見事だ。
 その他,写真2のようなシーンはデジタル処理の賜物だし,燃え上がるVの字,壮大な花火も当然CGだろう。主担当はCinesite Europeで,同業仲間のFramstore CFC,Double Negativeも参加している。オフィシャルサイトにはVFXのメイキングムービーが沢山あるので,その腕のほどを楽しめる。
 
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写真1 圧巻はビッグベンの爆破シーン
(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
  写真2 こうしたシーンもVFXの賜物  
 
 
 
   
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