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O plus E誌 2007年8月号掲載
 
 
 
怪談』
(松竹配給)
 
      (c)2007「怪談」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [8月4日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹系にて公開予定]   2007年7月5日 松竹試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本の伝統美を描いた和風ホラー  
 

 月の邦画は,VFX満載の『西遊記』の予定だったが,あまりの不出来のため,急遽「短評」欄のこの映画と差し替えることにした。
 さて本作は,『リング』(98)『リング2』(99)を大ヒットさせ,そのハリウッド・リメイク版『ザ・リング2』を全米No.1に押し上げた中田秀夫監督と,「Jホラー」を国際商品に仕上げ,今やハリウッド注目の一瀬隆重プロデューサのコンビによる最新作だ。中田監督にとっては5年ぶりの日本でのメガホンで,初の時代物に挑戦という。日本の伝統的な怪談でどこまで怖がらせてくれるか,それだけでも愉しみだ。
 原作は,三遊亭円朝作の古典落語「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」(岩波文庫刊)。知名度では「四谷怪談」「牡丹灯籠」には負けるが,既に10回以上映画化されている伝統ある名作怪談の1つである。全編演じると8時間以上にわたる長編というが,この噺の前半部を映画化している。主演は,美しい顔立ちと優しい心をもつ煙草売りの青年「新吉」に尾上菊之助,艶やかな姿と凛とした心をもつ年上の三味線の師匠「豊志賀」に黒木瞳を配したが,この男女の組み合わせが絶妙だ(写真1)
 辣腕の一瀬プロデューサらしく,完成前から世界15カ国での公開が決まっているという。ポスターやプレスシートを観ても,日本の伝統美を前面に出して国際的に通用する映画を作ろうという意欲が伝わってくる。なるほど,美術・衣裳は一流で,こうした映画が日本映画の伝統を守ることに貢献しているのは喜ばしい。
 映画は初主演となる尾上菊之助(尾上菊五郎と富士純子の長男,寺島しのぶの弟)が絶品だ。この色気,気品,和服の着こなし,所作の艶やかさは,さすが梨園の御曹司である(写真2)。まさに江戸時代から抜け出したかのような出で立ちは,ただの若手美男俳優では表現できまい。それを受け止める黒木瞳の美しさも,数々の美術セットと見事にマッチしている。ラストの生首を抱えるシーンも怪しく美しい。監督の演出には初時代劇という気負いはなく,素朴なタッチで日本の香りが伝わって来る。
 CG/VFXの登場場面はごく僅かで,必要最小限だ。目立ったのは,江戸の町の俯瞰構図に花火を合成したシーン,赤子の口から虫が飛び出すシーンくらいだ。お累の身体から出てくる蛇の大半はCGでなく,本物だろう。「生首」は作り物でもCG合成でもなく,実写映像の首から下を消してあるのだろう。この映画はこれでいい。
 欠点はといえば,怪談というわりには怖くない。黒木瞳以外の女優陣(井上真央,麻木久美子,木村多江,瀬戸朝香)の演技力が少し弱い。それでも,照明や音楽はこの映画の雰囲気をよく引き立てているし,エンディングに向けて「累ヶ淵」の妖艶な魅力に浸ることができた8(写真3)
 ところが,最後に思わぬ落とし穴が待っていた。エンドロールで流れるのは浜崎あゆみの主題歌で,この騒々しい歌がすべてをぶち壊しにする。映画の余韻も何もあったものではない。この映画だけは,エンドロールを観ずに,早々と席を立つことをお勧めする。

 
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写真1 色男と年上の師匠の組み合わせ   写真2 これぞ水も滴るいい男。音羽屋ぁー!
 
 
 
 
写真3 エンディングに向けて船が進む。そこには……。
(c)2007「怪談」製作委員会
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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