お馴染のフルCGアニメの人気シリーズで,こちらも3作目だ。ブラック・ユーモアとパロディが得意な本シリーズは,米国内では絶大な人気を誇っている。日本では,ディズニーの冠がついたピクサー作品にブランド力で負けてしまうが,徐々に固定ファンも増えている。 森に住む緑の怪物シュレックが,魔法をかけられ「高い高い塔」に閉じこめられていたフィオナ姫を救い,恋に落ち,結ばれるのが2001年作の第1作で,アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。2004年に公開された2作目では,フィオナ姫の両親の招きで「遠い遠い国」に里帰りするが,父であるハロルド国王は結婚に反対でシュレックに刺客を送る。迫り来る陰謀から我が身とフィオナ姫を守らんと戦う愛をかけたシュレックの大冒険物語は,映画興行史上3番目の大ヒットを記録した(ちなみに,歴代第1位は『タイタニック』(97),第2位は『スター・ウォーズ』(77)である)。 さて,この3作目では,病に倒れた瀕死のハロルド国王の後継者を巡る物語だ。次期国王になってくれと頼まれが,なりたくないシュレックは,正統な後継者であるアーサー王子を探す旅に出る。またもや王国の乗っ取りを画策するチャーミング王子とおとぎの悪役達の奇襲を粉砕し,気弱な王子と王国を守らんがために戦う……。というのが物語の骨子だが,相変わらずシュレックとフィオナの中は睦まじく,やがて2人の間に可愛いベイビーも誕生し,エンディングでしっかり登場する。 前2作の共同監督を務めたアンドリュー・アダムソン製作総指揮に回り,監督にはかつてドリームワークス最初のフルCGアニメ『アンツ』(98)や『シュレック』(01)のストーリー・アーティストであったクリス・ミラーが昇格している。主要スタッフも各国の声の俳優もほぼすべて前作通りで,あらゆる面で卒なく,大きな違和感なく作られていると感じる。逆に言えば,こぢんまりまとまっていて,大きなサプライズはない。 相棒の「ドンキー」,前作から登場した「長靴をはいた猫」は健在で,「おとぎ話のキャラクターたち」の役割もしっかりしている。その分,本作品ではあまり目新しいキャラの登場はない。強いて言えば,フィオナが「シンデレラ」「白雪姫」「髪長姫」「眠れる森の美女」と組んで構成するお姫さま軍団「プリンセス5」の存在がお笑いだ(写真1)。言うまでもなく,伝統あるディズニー・アニメのヒロインたちをパロディっている。「髪長姫」は,グリム童話に登場するキャラだが,ディズニーが2009年夏公開のアニメの主人公だけに,それを先取りしておちょくっているのには恐れ入る。 それを除くと,全体としては,前作ほどの躍動感はなく,あまり印象に残らない作品だ。CG技術に関しては,各キャラがまとうコスチュームは相当きめ細かになり,かなりのアップにも耐える質感だ(写真2)。髪の毛や髭も一段としなやかで光沢の表現も見事だから,(まだSIGGRAPHのセッションを聞いていないので詳細は不明だが)手法的には改善されているはずだ(写真3)。数年前とは段違いであるはずなのに,この高画質をそれほどの進歩に感じなくなったのは,フルCGアニメが氾濫してしまったからだろう。 恒例のパロディも,『ハリポタ』シリーズや『ロード・オブ…』を意識したシーンが随所に登場するが(写真4),どこか切れ味が悪く,抱腹絶倒するほどのものでもない。可もなく不可もないファミリー映画に落ち着いてしまったのは,怪物のシュレックを嫌味のない良き夫,良き父親にしてしまったからだ。脇役キャラは個性的で悪くないが,定番のストーリーで毎回ヒットを飛ばせるほどの設定ではないのが辛いところだ。 とはいえ,これだけのドル箱シリーズである以上,大きく変える冒険もできまい.4作目以降にどう立て直して来るのかが興味深い。ライバルのピクサー社は,各作品でガラっと趣向を変えてくるのが強みだ。その最新作は来月号で紹介する。比べて観るのが楽しみだ。