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O plus E誌 2000年3月号掲載
 
 
『13F』
(コロンビア映画/SPE配給)
 
       
      (2000/1/13 SPE試写室)  
         
     
  VRは絵空事ではない  
   個人でもプロでも,世評が高く派手な広告宣伝の作品には辛い点数をつけたくなりがちだ。反面,話題に上らず,思いがけず面白い映画に出会った時は,得をした気分になる。この『13F』もそんな作品だ。
 監督のジョセフ・ラスナック,主演ダグラス・ホールとグレッチェン・モルはいずれも馴染みがないが,製作・脚本に名を連ねるローランド・エメリッヒだけは『インデペンデンス・デイ』『ゴジラ』でご存知だろう。その彼が,ドイツ系の仲間たちを起用して作った硬派のSFムービー,本格派サイバーパンク調の作品である。あの『マトリックス』を超える仮想世界の複雑さと聞くと,VR研究者,電脳空間評論家の私めとしては,これは見逃す訳には行かない。
 とある高層ビルの13階。ここで6年間研究されてきたVR技術は,コンピュータ上に1937年のロサンジェルスを再現し,そこに住む住人たちと意識をリンクさせることができる。即ち,この1999年の13階から別人格となって,1937年の世界に入り込めるのである。ある日,このプロジェクトの責任者フラー博士が殺され,研究員ホールが疑われる。彼は,1999年と1937年を往来して謎を探るうちに,2つの世界が交錯し,危険な二重生活が展開していることを知る。1937年の住人たちが,自分たちは実在しない仮想の存在と知ったことから……,というストーリー設定である。
 米国での公開は『スター・ウォーズ エピソード1』の翌週。『マトリックス』人気もまだ衰えていない頃とあって興行成績は芳しくなかったが,SFの魅力を発揮した悪くない作品だ。何かにつけ『マトリックス』と比較されるが,VFXでは大差をつけられているものの,仮想空間の仕掛けとしては『13F』の方がもう一ひねりしてある。途中やや説明不足の感もあるが,SFらしい煙の巻き方で観客の頭を少し混乱させたあと,エンディングはシンプルに決めている。後味も悪くない。
 VFXシーンは,そう多い方ではないが,レベルは低くはない。むしろ,同一人物のメイクアップの使い分けが凝っている.パラレル・ワールドの両方に存在する人物が,一瞬同じ俳優であると分からず,これはなかなか見事だった。
 難を言えば,仮想世界やコンピュータの描き方がイマイチだ。VRはタイムマシンと同様,SF作家・脚本家のイマジネーションをかきたてるらしく,様々な形態で小説にも映画にも登場する。丸ごと時間をシフトしたり,現実そっくりの仮想世界を設けることは,映像としては何も工夫が要らないのだから実に安易だ。もう1つ世界があるのだと思えば,それを前提にどのようなストーリー展開も可能なのだから乱発したくなるのだろう。
 空を飛んだり,幽霊や動物としゃべったり,有り得ないことを楽しく描くのは,映画の醍醐味というものだ。それでも,科学が進歩すれば実現できそうだと思わせるのが腕である。タイムマシンや透明人間とは異なり,VRは正しく研究されているのだから,全くの絵空事扱いでなく,もう少しVR技術の実情を反映してもらいたいものだ。
 コンピュータの描き方もステレオタイプだ。今どき,あんな武骨で大きな筐体が必要と思っているのだろうか。これは脚本ではなく,美術監督のセンスの問題だろう。
 
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  昔の屋外は殆ど合成シーン  
 
確かに掘り出し物でした。面白かったです。
このシリーズで取り上げる映画には,面白い作品は少なくないけれど,「いい映画」といえるのはそうないのが残念ですね(笑)。
イフェクト・シーンは,人物の目の色が変わったり,未来世界がソフトフォーカスのCGで描かれたりしてましたが,他はあまり気がつきませんでした。
あれまぁ,何と!1937年のLAのほとんどは,映像的にもVFXの産物だと気がつきませんでしたか?例えば,1937年側でツーソンに向かう郊外のシーン,あのシーンのほとんどはCGですよ。だって,そんな頃の映像が都合よくある訳ないし,セットで撮影する訳にもいかない。現在の実写映像をもとに,現在の建物や看板を消し,1937年風のCG建築物を描き加えたり,道路上にクルマを配したりしたのでしょう。街の中は主にスタジオ内撮影でしょうが,その映像にもかなりディジタル合成が入っていると思われます。
そういえばそうですね。かなり見事だったので気がつきませんでした。
「この世の果て」がどうなっているのかは,気がついたでしょ。
これは当たり前ですよ。あまりにもチャチでしたけど…(笑)。
何だろう何だろうと思わせておいて,ドカンと見せるのは『猿の惑星』ラストシーンと同じテクニックです。でも安易過ぎて,もうちょっと何とか工夫してよという感じですね。少しずつテクスチャやポリゴンを粗くして,徐々に変だなと思わせて行くとか。
その手もありますね。
あとレベルが低かったのは,字幕スーパーでした。原語は「システム」とか「シミュレーション」とかを使っているのに,字幕は「仮想空間」の一点張りでした。
『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』は戸田奈津子さんで,さらりとしていましたけどね。
「ダウンロード」の使い方も変で,どう考えても意味の異なるところにも,この言葉を使っていました。もうちょっと,コンピュータやVRを知った専門家に尋ねるくらいは…。
ソニーが親会社なのにね(笑)。
という風に欠陥はいくつもあるのですが,ストーリーは結構面白く,思いがけず楽しめた作品でした。
 
   
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