head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2003年11月号掲載
 
 
starstar
『ティアーズ・オブ・ザ・サン』
(コロンビア映画/ブエナビスタ配給)
 
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年9月16日 ブエナビスタ試写室  
  [10月25日より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
     
  普通の映画だが,ILMの腕の冴えは一段と  
   何とも評論家泣かせの映画だ。褒めるにも貶すにも,特に目立った大きな特長がない。傑作ではないが,特に目くじらを立てるような欠点もない。真面目に作られた作品となると,ますます書くことに困ってしまう。
 概して,評論家の絶賛する作品が大ヒットしたためしがない。大衆向き娯楽作品には,批評家の点数が辛いのは周知の事実だ。一風変わった味つけの作品が彼らの評論の格好の材料となる。このVFX映画時評は,一般の映画評とは違った視点で眺めているのだが,それでこうして何年も続けていると,最近は評論家病にかかってしまいがちだ。入場料を払って自分で観る場合は,特に論じることのない普通の映画を楽しんでいるのに,試写室で観た何か書かなければならないとなると,どうしても目新しさを探してしまう。
 そもそも,映画評は乱暴でいい加減なものだ。文学なら,純文学,歴史小説,ミステリーそれぞれに専門批評家がいて,音楽評論もクラシック,ジャズ,カントリー,ニューミュージックとジャンル毎に明確に別れている。ところが,映画評論には専門性も何もあったものではない。プロですら,アダルト映画だけを除いて,ホラーから子供向きアニメまで何でも論じている。しかも,巨額を投じ,大勢の人間が関わった労作を,大抵は一度観ただけで偉そうに批評しているのである。TV番組には大した社会性も完成度も求めないのに,映画には思想性や芸術性までも求めがちだ。映画というのは,そこまで特別なものなのだろうか。
 映画評のオーソドックスなやり方として,「その監督の過去の作品と比べよ」「その主演俳優の過去の出演作品と比べよ」というのがある。この映画の監督はアントワン・フークア。過去のメジャーな作品は,デンゼル・ワシントンにアカデミー賞主演男優賞をもたらした『トレーニング・デイ』(01)だけだが,それに比べると印象はやや薄い。主演男優は,『アルマゲドン』(98)『シックス・センス』(99)のブルース・ウィリス。もはや『ダイ・ハード』シリーズの暴れん坊ジョン・マクレーン刑事は卒業して,最近は男臭さを残しながらも,抑えた演技の大スターぶりが板についてきた。前作の『ジャスティス』(01)に続いての戦争物だが,この映画も最近の路線の延長線上にある。その点では,特筆すべき点はない。
 一方ヒロインは,『ジェヴォーダンの獣』(02)『マトリックス リローデッド』(03)のモニカ・ベルッチ。キアヌ・リーブスのネオにキスを迫ったあの妖艶な美女である。出番も少なく役柄もよく理解できなかった前作に比べて,こちらは出番も多く存在感のある役だ。どう贔屓目に見ても演技派ではないが,典型的なスター映画の相手役として,堂々と渡り合っている。悪くない出来だ。
 輝かしい軍歴をもつアメリカ海軍特殊部隊シールのウォーターズ大尉は,「内戦下のナイジェリア米国籍の女医リーナ・ケンドリックスを救出せよ」という任務を命じられる。大統領一家を殺した反乱軍が残虐の限りを尽くす中,リーナは28人の難民も一緒に国外脱出させることを懇願する。ウォーターズは司令官にヘリでの救出を求めるが,内政干渉に当たるとして断られ,軍の命令に背いてまでもカメルーン国境までの約60kmの山越え脱出行を決意する……。というのが,ストーリーの概略だ。
 アメリカでの公開は2003年3月7日。イラク戦争の開戦はいつかと国内外の耳目が集まっている頃だ。反乱軍の悪逆非道ぶりを強調し,アメリカが現地難民を救うことの正当性を訴え,国威を昂揚させていると取れなくもないが,この映画にはそんな小難しい思想性はない。単なる困難な状況に立ち向かうヒーローと部下たち,勧善懲悪のハリウッド映画で,たまたま舞台が海外の戦地だいうだけだ。この脚本は,最初『ダイ・ハード4』として用意されたものらしい。なるほど,自分の意志に反して渦中に巻き込まれるという構図は残されているが,7人の精鋭の部下を率いるという点が大きく違う。いっそ『ダイ・ハード4』として,ここにマクラーレン刑事を登場させた方が面白かったのにと思う。
 では,『プライベート・ライアン』以降の戦争映画の常道で,激しい残忍な戦闘シーンが見られるかというと,こちらはぐんと控えめだ。主演の男女の人間ドラマの方が中心で,空母や戦闘機の登場場面もそう本格的ではない。逆に言えば,この作りからすると,海軍の大きな協力の下での撮影ではないから,再三登場するヘリのほとんどはCGか,実機を1, 2機手配して,後はディジタルコピーしたものと思われる。クライマックスに登場する戦闘機のいくつかのカットは模型かも知れない。いずれにせよ,数種のSFX/VFXの使い分けは見事で,全く違和感を感じない。どこのスタジオか知らないが,いい腕だな,層が厚くなったものだなと感心して観ていた。
 エンドロールの社名で驚いた。この映画のVFX担当はILMで,それも1社しか名前は出ていなかった。『パール・ハーバー』の零戦を持ち出すべくもなく,ILMならこのレベルに達しているのは当然だ。名前は数十人程度しかなく,そう多くないVFXシーンをきちんとこなしたのだと分かる。例えば,写真の爆発シーンは見所の1つだ。爆発もCGなら,爆風で体勢が揺れるヘリもCGだろう。そーだ,単独ILM担当の映画だというので,この映画をマークしてあったのを忘れていたのだ。
 さて,次々に部下を失い,ようやくカメルーン国境に近づいた一行の最後に危機に,間一髪で米軍の戦闘機が敵を一網打尽にする。あまりにもご都合主義の安易な脚本は,折角の人間ドラマをブチ壊しにしてしまうが,それでいて思わず拍手したくなる。そう,最後は必ず助けに来る月光仮面やスーパーマンが娯楽映画の醍醐味だ。主演男優がそれを演じなくても,観客が求めているのはハッピーエンディングのカタルシスなのだ。
 
写真 この爆発シーンはお見逃しなく.ヘリの動きにも注意.
(c) Revolution Studios Distribution Company, L.L.C. All Rights Reserved.
  ()  
     
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br