head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2003年1月号掲載
 
 
『レッド・ドラゴン』
(ユニバーサル映画/UIP配給)
 
       
  オフィシャルサイト日本語][英語]   2002年11月25日 日比谷スカラ座1/完成披露試写会  
  [2月8日より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  3匹目のドジョウ狙いは,まずまず期待通り  
   アカデミー賞主要5部門に輝く名作『羊たちの沈黙』(91)の続編『ハンニバル』(01)は,2001年4月号で紹介した通り,世界中のレクター博士ファンの支持を得て小説も映画も大ヒットとなった。味をしめた製作者のラウレンティス夫妻は,既に『刑事グラハム/凍りついた殺意(原題はManhunter)』(86)として映画化されていたレクター・シリーズの第1作「レッド・ドラゴン」(ハヤカワ文庫)を,ハンニバル・レクター=アンソニー・ホプキンス主演で16年ぶりに再映画化することにした。
 まだクラリス・スターリング捜査官が登場する以前の話だが,既にレクター博士はボルティモア州立病院の精神異常犯罪者病棟に収監されている。人食い魔のハンニバルを逮捕した異常犯罪心理の専門家ウィル・グレアムがこの作品の主役で,これを『真実の行方』(96)『ファイト・クラブ』(99)の演技派俳優エドワード・ノートンが演じるという。ぞくぞくするような組み合わせだ。
 監督はジャッキー・チェンの『ラッシュ・アワー』シリーズや『天使がくれた時間』(00)で売り出し中の若手ブレット・ラトナーだが,脚本には『羊たち…』と同じテッド・タリーが起用された。ジャック・クロフォードFBI捜査官に『ピアノ・レッスン』(93)のハーヴェイ・カイテル,他に『イングリッシュ・ペイシェント』(96)のレイフ・ファインズ,『奇跡の海』(96)のエミリー・ワトソン,『マグノリア』(99)のフィリップ・シーモア・ホフマンと脇役陣に芸達者をぞろっと揃えたが,その一方で精神病院の責任者チルトン博士(アンソニー・ヒールド)と監視員バーニー(フランキー・フェイソン)には『羊たち…』と同じ俳優を起用して,シリーズであることを強調している。
 物語は,アトランタとバーミングハムで起きた一家皆殺し事件の解決のため,FBIを退職したグレアムのもとにかつての上司クロフォード捜査官が訪れるところから始まる。被害者の眼に鏡の破片を差し込み,噛み傷を残す殺人鬼を探り出すのに,グレアムはかつて自分が逮捕したレクター博士に意見を求める。ところが,レクターは殺人鬼レッド・ドラゴンと文通を始め,「グレアムの家族を殺せ」のメッセージを送ったことから,グレアム,レクター,レッド・ドラゴンの三つ巴関係が生じ,緊張感溢れるサイコ・サスペンスが展開する。ちなみに,レッド・ドラゴンとは麻雀牌の「中」が象徴する「赤き竜」のことで,殺人鬼はその姿を背中に刺青している。
 収監された獄中で,何ものをも見透かすレクター博士の恐るべき頭脳が与えるヒントの役割は,『羊たち…』とよく似ている。なるほどこれが原点だったのかとファンは頷くだろう。この猟奇殺人事件の犯人を追う中で,かつていかにグレアム捜査官がレクター博士を逮捕し,精神的に傷つきFBIを辞職したのかが語られる。『羊たち…』で見覚えのあるレクター博士の独房,拘禁服,顔面マスク(写真1)などを再登場させたのも,明らかにファンの眼を意識したサービスである。
 
     
 
写真1 見覚えのある強化ガラス壁の独房と噛み付き防止の顔面マスク
 
     
   小説としてはグレアムが主役で,エドワード・ノートンがこれをどう演じるのかと楽しみにしていたが,オーソドックスな探偵役で,あまり彼の個性は活かされていなかった。これなら誰でも演じられる刑事役で,E・ノートンのファンとしては物足りない。悪くはないのだが,スーパー悪役ハンニバル・レクター重視の脚本に負けてしまったというべきだろうか。
 一方,アンソニー・ホプキンス卿のレクター博士は,改めて『羊たち…』と見比べるといかにも老けたなと感じるが,『ハンニバル』を見たばかりだと,そう不自然には感じなかった。理想的には『羊たち…』の直後に再映画化して欲しかった作品だが,寡作トマス・ハリスの「ハンニバル」が出るまでは,興行的には冒険できなかったのだろう。
 SFX/VFX的にはほとんど語ることがない。火災,大爆発のシーンに少し使われていただけで,後は心理戦中心の犯罪映画だ。主演,助演にコストをかけたので,特撮で飾る余裕はなかったのだろう。その必要もない。
 上下2巻の映画化しにくい原作を脚本はよくまとめている。全く予備知識なしでこの映画を観たとしても,かなり楽しめるだろう。しかし,これは徹頭徹尾アンソニー・ホプキンズのレクター博士ぶりを楽しむ映画だ。その期待を裏切ることはない。ファンは最後のカットまで,そのサービス振りを当てにしていていいだろう。
 
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br