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O plus E誌 2002年6月号掲載
 
 
『マジェスティック』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
(c) 2001 Warner Bros. All Rights Reserved.
       
  オフィシャルサイト日本語   2002年4月4日 ワーナー試写室  
  [6月下旬全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  映画ファンの心をくすぐる感動作  
   顔面の筋肉をフルに駆使して『マスク』(94)『ライアーライアー』(97)『グリンチ』(00)ではオーバーアクションのコメディを演じるかと思えば,『トゥルーマン・ショー』(98)『マン・オン・ザ・ムーン』(99)ではシリアス路線に転じて演技派としても開眼したジム・キャリーの最新主演作だ。作風としては,後者に属している。
 7年間にゴールデングローブ賞に5回ノミネートされ,内2回主演男優賞に輝いたこのハリウッドきっての売れっ子も,アカデミー賞には全く縁がなく,ノミネートすらされたことがない。この映画の公開は昨年の12月21日,賞狙いの作品の駆け込みラッシュとなる時期だ。不運なジムに何とかオスカーを取らせてやろうと企画された匂いがプンプンする。監督は,対照的にデビュー作『ショーシャンクの空に』(94)がアカデミー賞に7部門,2作目『グリーンマイル』(99)が4部門の連続ノミネートを果たしたフランク・ダラボン。不運×好運の掛け合わせだけでは心配だったのか,助演には,両賞の他にエミー賞,アメリカン・コメディ賞なども総なめにした名優マーティン・ランドーを配した。
 ここまで手配りしたのだが,やはりアカデミー賞にはかすりもせず,おまけに興行成績も芳しくなかった。賞獲りには派手な宣伝をしない方がいいという計算が,逆に働いたのかもしれない。だからといって,映画の中身が悪いわけではない。これだけの名優が揃い,寡作の名監督が気の合ったスタッフ達と撮った作品が駄作であるはずがない。ダラボン作品らしい,じっくり語りジンと来させる演出で,感動する観客も少なくないだろう。
 時代は1951年のアメリカ。映画の都ハリウッドには,赤狩りの嵐が吹き荒れていた。新進脚本家としての成功を収めたピーター・アップルトン(J・キャリー)は,突然身に覚えのない共産主義者のレッテルを貼られる。失意の中で自動車事故を起こして,川に転落し,見知らぬ海岸へと打ち上げられた時には記憶を失っていた。近くの田舎町ローソンで彼を待ってのは,彼を9年前に出征したまま戦地で行方不明になった息子ルークだという老人ハリー・トリンブルと町の人々だった。フィアンセだったという女性アデル(ローリー・ホールデン)まで現われ,記憶が戻らないままルークとしてこの町で生きて行く決心をした彼に,ピーターを審問会にかけようとする官憲の手が迫る,というのがあらすじだ。
 ピーターとルークは同一人物なのかという疑問の回答は映画に任せるが,この作品には映画ファンを喜ばせる仕掛けがいくつもある。当時のハリウッドの撮影所風景に加えて,ローソンの町でハリーが経営していた映画館「マジェスティック」を再建する下りがある。古い映写機やネオンサインや売店も再現され,当時の名作『巴里のアメリカ人』『欲望という名の電車』も登場する。映画館主の映画への熱い思いは,山田洋次監督,西田敏行主演の『虹をつかむ男』を思い出してしまった。
 ピーターが審問会にかけられる法廷シーンでの熱弁,アデルとの恋の行方は,結末は分かっていながら思わず涙する。フランク・タラボンの手の内にはまってしまうことは避けられない。ジム・キャリーは大人の顔になったなと思わせる半面,『トゥルーマン・ショー』で見せた爽やかな笑顔も健在だ。
 父親ハリー役のマーティン・ランドーの見事な演技にも見惚れてしまう。バイプレーヤー人生は華麗だが,年輩の男性ファンには,往年のTVシリーズ『スパイ大作戦』の変装の名人ローリン・ハンド役といった方が分かりやすいだろうか。ちなみにこの役は,その後「スター・トレック」シリーズでスポック博士役を務めるレナード・二モイが引き継ぎ,最近の映画『ミッション・インポッシブル』では製作者のトム・クルーズ自身が変装の名人イーサン・ハントと名乗って登場する印象的な役柄だ。
 
     
 
写真1 この橋と自動車は実物で撮影
(c)2001 Warner Bros. All Rights Reserved.
写真2 スタジオ内に作られたローソンの街並み
 
     
   物語にはまってしまうと気付かないだろうが,VFXも随所で使われている。1951年当時のハリウッド,チャイニーズ・シアター前に市電が走っているのは,言うまでもなく合成だ。ピーターがクルマもろとも川に落ちるシーンは,実写とCGが巧みに交錯する(写真1)。スケール感もあり,橋や川の水のCGも上出来だなと感心したが,ここはILMが担当らしい。それなら納得だ。
 他に,Matte World Digital社, Gray Matter FX社の名前があったから,ディジタル・マットも多用しているに違いない。ローソンの町の中心部はセットが組まれたが(写真2),一部の建物やワイドアングルでの背景などはCGだろう。町庁舎は実物の大道具,その隣の建物はCGといった具合だ。当時の撮影所風景,浜辺の家での2人のラブシーンなどにも多彩な視覚効果を感じる。
 音楽もまた郷愁を感じさせる。エンディングのナンバーは,ナット・キング・コールの「I Remember You」。この映画の余韻を残す名選曲だ。映画ファンの心をくすぐる演出が多少クサイといえばクサイが,私は嫌いではない。少なくとも,同じく意図的な賞狙いで成功した『ビューティフル・マインド』よりは何倍も感動し,希望が湧いてくる映画だ。
 
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