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O plus E誌 2020年5・6月号掲載
 
 
ダーククリスタル: エイジ・オブ・レジスタンス』
(Netflix)
      (C) 2019 Netflix
 
  オフィシャルサイト[本編映像][制作過程]    
  [2019年8月30日よりNetflixにて独占配信中]   2020年4月24日 全6話 ネット観賞完了
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  パペットたちのリアルさ,醜悪さは一見の価値あり  
  緊急事態宣言が緩和され,地方都市では映画興行が再開されそうな状況だが,相当数の観客が見込めないと採算が取れないCG/VFX大作は,秋以降か来年まで見られそうにない。当欄では早くから,Netflix等のネット配信映画を取り上げて来たが,今や他の紙誌の映画紹介欄も一斉にそれを始めている。当欄ではさらに先に進み,TVシリーズのVFX多用作品を対象にしよう。
 この「TVシリーズ」とは,必ずしもTV放映されなくても,それに類した構成(複数回の連続もので,各話は60分前後)の映像作品を指す。ネット配信サービスの場合,全10話程度が一挙配信されることが多い。
 本号の1作目は,単なるCG/VFX多用作ではない。機会があれば紹介したかったダークファンタジーで,大規模で精巧な人形劇(Puppet Show; PS)に最新のCG/VFXを加えた記念碑的な大作である。PSはコマ撮りのStop Motion Animation (STA)と混同されることが多いので,まず,その違いを解説しておこう。
 STAは,静止状態の人形や物体を少しずつ動かして多数枚撮影し,連続再生して恰も動いているように見せる技術である。一方,PSは人形遣い(Puppeteer)が,人形を指,手,棒,糸等で操作する演劇の総称だ。日本の文楽(人形浄瑠璃)は最も芸術性の高いPSである。いずれも,実物で手作りの人形を使うので,映像化した場合は,CG映像よりも実物感が高いという利点がある。
 手指操作のパペットと,糸操りのマリオネットとを区別することもある。人形工房を経営する米国のジム・ヘンソンとフランク・オズは,その合成語「マペット」を生み出した。彼らの代表作は児童番組『セサミストリート』『マペット・ショー』で,人形は「カーミット」や「ミス・ピギー」が有名だ。その2人が監督した劇場用ファンタジー映画が『ダーククリスタル』(82)で,まさにPS映画の金字塔であり,カルト的な人気を呼んでいる。本作は,その壮大な前日譚となっている。
 基本的な世界観や登場する種族は,前作を踏襲している。既にJ・ヘンソンは鬼籍に入っているが,彼の娘リサ・ヘンソンが製作総指揮に加わっている。監督は,『インクレディブル・ハルク』(08年8月号) 『グランド・イリュージョン』(13年11月号)のルイ・レテリエ。全10話を1人で監督し,時にはカメラも回している。
 とにかく,このPSの制作過程が凄い。Netflixからは,本編だけでなく,前作や『ダーククリスタル: エイジ・オブ・レジスタンスの裏側』(82分)なるドキュメンタリーも配信されている。オススメの視聴コースを示しておこう。
(1) まず本編第1話でクオリティと世界観を把握する
(2) 前作を観て,人形の動きや画質等を比べる
(3) ドキュメンタリーを観て,進化を納得する
(4) しかる後に,本編シリーズの残りを楽しむ
 以下は,当欄の視点からの感想と評価である。
 ■ 前作のデザインを踏襲しつつ,人形のクオリティが上がっている。とりわけ,醜悪なスケクシス族が凄い(写真1)。猛禽類に爬虫類を加味したような容貌が一体毎に微妙に違っている。晩餐シーンでの料理や女性達の衣装もカラフルで凝っている。対するゲルフリン族は羊を擬人化した容貌で,長い耳をもつ(写真2)。この女性群はお世辞にも美的ではなく,猿か狐に見える。もう少し可愛くして,親しみが持てるルックスにして欲しかった。この種族の動きは格段に向上している。
 
 
 
 
 
写真1 惑星トラを支配するのは邪悪なスケクシス族
 
 
 
 
 
写真2 スケクシスと戦うのは長い耳のゲルフリン族
 
 
  ■ 前作よりも最も進化したと感じるのは構図とカメラワークだ。パペット操作の基本形は,人形の後方に溝を設け,人形遣いが隠れて操る。青い着衣の操作者をデジタル処理で消せることで,人形を様々な角度から捕らえることができ,構図やカメラワークの自由度が増した(写真3)。別撮りした人形をデジタル合成することで,さらに演出の自由度も増した(写真4)写真5は,ゲルフリンのブレアとディートを連れ去るスケクシスの乗り物だ。人形を乗せて操作するので,かなりの大きさとなる。それをミニチュアで作った森の中に配置できるのも,デジタル合成の賜物である。映像のスケール感も向上し,もはや,かつての稚拙な人形劇映像ではない。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 青い着衣で操作するパペッティアをデジタル処理で消すことにより,カメラワークの自由度も増した
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 6体の人形遣いたちを消すだけでなく,別撮りした2体を空中にデジタル合成している
 
 
 
 
 
 
 
写真5 スケクシスの護送車はかなり大きな造形物。これをサイズの異なる森林シーンにデジタル合成。
 
 
   ■ この種の造形物も多数制作されている。昔は手作りだったが,今ではCGデザインし,3Dプリンタで製造できる。セットのデザインやその制作過程も一見に値する。前作では30〜35のセットの準備に3年かかったが,本作では70〜80のセットを6ヶ月かけて作ったという。各セットは発砲ポリに着色して作られている。その組立は芸術的であり,芸大のテキストに使えるレベルだ。
 ■ CGの利用は随所で観られ,背景描写には多用されている。パペットの表情(特に目の動き)を豊かにするのに,CGで上書きしているようだ(写真6)。最終章の盛り上げにもCG/VFXの貢献は大きい。弓使いの最期,狩人の死,オーグラの復活(写真7)はCGの賜物だろう。皇帝の闇のパワー,ディートの反撃等も光線のオンパレードで,CG加工の連続だった。CG/VFXは業界の雄DNEGが担当し,実力を遺憾なく発揮している。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 人形の目に,予め反射する光のCG像を重ね,光に包まれるシーンを表現している
 
 
 
 
 
 
 
写真7 何千年も生きてきた守護者のオーグラ。この老婆が放つ光はCGで描画。
(C) 2019 Netflix
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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