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O plus E 2022年11・12月号掲載
 
 
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C)Marvel Studios 2022
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [11月11日より全国ロードショー公開中]   2022年11月10日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
ブラックアダム』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C) 2022 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月2日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2022年11月1日 ワーナー・ブラザース内幸町試写室  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  当欄初のMCUとDCEUの対決, ガチのバトル
 
  CG/VFXの進歩がアメコミ作品の実写映画化を加速させ,当欄ではMarvel Cinematic Universe (MCU)やDC Extended Universe(DCEU)なる作品群をせっせと紹介してきた。最近Disney+配信のMCUのTVシリーズが乱発気味で,さすがにそれらを全部観て紹介する時間的余裕はない。それでも,劇場公開映画はMCU, DCEUともに全作品を取り上げているはずである。
 類似作品2本をまとめ,比較しながら両方を語ることもしばしば行なっているが,気がつけば,MCU, DCEUを直接対決させたことは一度もなかった。記録を調べると,『スーパーマン リターンズ』『X-MEN:ファイナル ディシジョン』 (06年9月号) があったが,まだMCUやDCEUなる名称が登場していない過去のことである。
 競合を避けるため,公開時期を意図的にずらしていたのだろう。今回も公開日は少し離れているが,ともあれ両者をまとめて論じることができた。ともに「ブラック」を冠したVFX大作だが,印象はかなり異なる。比べて語り甲斐のある両陣営の「ブラック対決」となった。
 
 
  新ブラックパンサー誕生までの格調高い最新作  
  米国公開順は逆だが,ここでは本邦での公開日順に取り上げる。MCU第18作『ブラックパンサー』(18年Web専用#1)は,アカデミー賞史上初めて作品賞候補となったスーパーヒーロー映画となり,7部門にノミネートされ,作曲賞・美術賞・衣装デザイン賞の3部門でオスカーを得た。それからもう4年半以上が経っているが,前作でワカンダの新国王となったティ・チャラは,スーパーヒーロー「ブラックパンサー」として前作前後の「アベンジャーズ」シリーズ3作品に登場していたので,絶えず観ていたという思いがある。それなのに,ファンが続編の本作を気にしたのは,主演のチャドウィック・ボーズマンが2020年8月に大腸癌で死去したため,その穴をどうやって埋めるのかが関心事であったからだ。
 新たな男優をティ・チャラとして起用することはせず,前作の主要メンバーだけでシリーズを継続させることが発表された。即ち,残った主要登場人物の1人が新たなブラックパンサーになるということだ。この時点ですぐに,誰が後継者になるか容易に予想できた。それを前提とした記事も何件か見かけたが,その後,映画のストーリーに関する情報は全く伝わってこなかった。
 徹底した情報非公開や,試写会参加者へのネタバレ禁止事項の指定は,最近の大作ならよくあることだ。それでも「新ブラックパンサーが誰なのか,正体は明かすな」との配給会社からのお達しには驚いた。MCUファンならすぐに分かることなのに,わざわざ箝口令を敷くとは,ファンのレベルを低く見過ぎていると感じた。
 映画は重病のティ・チャラの危篤シーンから始まり,妹シュリ(レティーシャ・ライト)の願いもむなしく,落命してしまう。彼の母であり,先代国王の妻であったラモンダ女王(アンジェラ・バセット)が国をまとめようとするが(写真1),新たな脅威が迫って来る。同じ鉱石ヴィブラニウムを有する謎の海底国タロカンの存在が明らかになり,その王ネイモア(テノッチ・ウエルタ)がワカンダ国を滅ぼそうとする…(写真2)。新ブラックパンサーはすぐにも誕生すると思ったのだが,なかなか登場しなかった。
 
 
 
 
 
写真1 ティ・チャラ亡き後、母が女王としてワカンダを統治 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 謎の海底国タロカンの王がネイモア
 
   まあ,前作を観ている観客とは限らないし,とにかく些細なネタバレを嫌う観客もいることだろう。そこまで考えての箝口令ということなら,こちらも悪ノリして,読者にクイズを出しておくことにしよう。予告編からも,新ブラックパンサーが体型的に女性であることは明らかなので(写真3),「誰なのか,以下の中から当ててください」と言っておこう。
 
 
 
 
 
写真3 新ブラックパンサーは,どう見ても女性 
 
 クイズ:新ブラックパンサーは誰なのか,以下の中から当ててください
(ヒント:サントラ盤アルバムのジャケットを見れば,一目瞭然のはず)
@ワカンダ国の統治に奮闘する母のラモンダ女王
A兄の死を最も悲しんだ妹シュリ
B幼馴染みで,国王親衛隊長であったオコエ
C同じく幼馴染みで,元恋人のナキア
Dその他のあっと驚く意外な女性

 閑話休題。以下,当欄の視点からの感想と論評である。
 ■ ワカンダ国は高度な科学技術を有する超文明国だが,対外的にはアフリカの発展途上国のように振る舞っている。国王の葬儀に民族舞踊と思しきダンスが登場するのに驚いたが,その背景には高層ビルの姿も見える(写真4)。やがて棺は空に舞い上がり,王族専用航空機に収納されるあたりからVFXの出番だ。ただし,最近の大作映画の冒頭シーケンスにしては控えめだ。続く劇中では,近代文明と民族文化が混在した国の様子はCGをフルに駆使して魅力的に描かれている。1人ずつこれから売り出そうという思惑があるのかも知れない。
 
 
 
 
 
写真4 国王の葬儀にこの踊り! 背景には高層ビルが。
 
 
   ■ 妹で王女のシュリ(写真5)は若き天才科学者・発明家であるが,彼女のラボの描写は前作からかなり増え,ビジュアル的にも進化している。トニー・スターク社長の工房をより未来的かつハイセンスにした感じだ。DNA操作の場面などは,カラフルでうっとりする。
 
 
 
 
 
写真5 窮地に陥るシュリ(ラボの画像が欲しかったが,この画像しかないのが残念)
 
 
   ■ 海の王国タロカンを描くのにも,CG/VFXはフル回転だ。ただし,海の中は『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の予告編の方が圧倒的に美しかった。王のネイモアは水陸両用で,陸上で空中飛翔する能力をもつ(写真6)。なかなかの強敵で,終盤ようやく登場する新ブラックパンサー(写真7)との対決も見応えがあった。
 
 
 
 
 
写真6 海の帝王は,陸では足首の羽で空を駆け回る
 
 
 
 
 
 
 

写真7 終盤ようやく登場した新ブラックパンサー
(C)Marvel Studios 2022

 
 
  ■ 女王の苦悩,王女の幽閉,タロカンの侵攻等,物語展開はオーソドックスで格調が高かった。それには音楽の影響もかなりある。この格調の高さは,ラストバトルの描写にも活きていて,しっかりCG/VFXで描かれている。見どころは,タロカンが引き起こす大洪水,ドラゴン・フライヤーが空中や水中を縦横に動き回るシーンだ。巨大な船の上で極小サイズで描いた人物像が動いているシーンが印象的だった。大きさの対比が,船を一層巨大に見せている。CG/VFXの主担当はDigital Domain,副担当はWeta FXとCinesiteで,その他ILM,Rise FX, Storm Studios, Scanline VFX, Base FX, Luma Pictures, Mammal Studios等,多数のVFXスタジオが参加している。  
 
  まさにプロレス級の面白さ, 120分間3本勝負  
  もう一方のDCEUの第11作目は,過去作の続編ではなく,全く新しい人物,それもアンチヒーローが主人公である。原作コミックでは,お軽いヒーローのシャザム(ビリー・パットン少年の変身した大人の姿)のライバルだそうだが,DECU7作目『シャザム!』(19年Web専用#2)では,まだこの敵役は登場していなかった。この時期に新作が製作・公開されるということは,続編の『シャザム!〜神々の怒り〜』(2023年3月17日公開予定)に登場してくる可能性大であり,本作とセットで広報宣伝して話題にする戦略なのだろう。
 物語はBC2600年から始まる。古代王国カーンダックの奴隷であったテス・アダムは,勇者として称賛を浴びるが,陰謀に巻き込まれ,死を覚悟する。息子が自分の命を犠牲にして彼に神の力を与えるが,その強大なパワーを復讐に使ったため,地中深くに幽閉される。ある出来事から,彼が眠りから目覚めたのは5,000年後の現代だった。息子を失った悲しみから,破壊神ブラックアダムとして暴れまわり,破壊の限りを尽くす…。ここまでの約30分間の描き方が秀逸で,ワクワクした。
 この破壊神を演じるのは,ドウェイン・ジョンソン。もはや元人気プロレスラー「ザ・ロック」だと述べるまでもなく,今や多数の大作で主役を務める大映画スターだ。元の堂々たる体躯でもこの役に相応しいが,本作のためにトレーニングして引き締まった身体となり,ヒーロースーツも見事に決まっている(写真8)。この破壊神に対抗できるスーパーヒーロー軍団JSAが結成され,召集された4人組が必殺技で彼を捕えようとし,大アクションが展開する(写真9)。このパワーとスピードの激突は,トップレベルのプロレス級の面白さだ。
 
 
 
 
写真8 堂々たる体躯と面構え。さすが,破壊神!
 
 
 
 
 
 
 
写真2 破壊神 vs JSA。まだまだこれは序の口。
 
  監督は,ジャウム・コレット=セラ。D・ジョンソンとは,既に『ジャングル・クルーズ』(21年Web専用#4)でタッグを組んでいる。JSAは「Justice Society of America」の略で,お馴染みの「ジャスティス・リーグ」とは別物のようだ。JSAのリーダーは空の王者「ホークマン」でオルディス・ホッジが演じているが,注目の的は魔術師「ドクター・フェイト」を演じるピアース・ブロスナンだ。主人公の破壊神と戦う役柄だと悪役で,それを5代目007にやらせるのかと思ってしまったが,しかるべき位置づけの役柄で,いい味を出していた。白い髭面がダンディで,実に似合っていた(写真10)
 
 
 
 
 
写真10 5代目ジェームズ・ボンドは,白髪になってもダンディだ
 
 
  他の2人のメンバーは,ほぼ無名の新人ヒーローだが,後述のようにしっかり売り出せるよう,パワー発揮の場面が与えられていた。ヒロインは,物語の鍵を握る女性アドリアナで,現代カーンダックの大学教授だ。演じるサラ・シャヒは,42歳とは思えぬ美形で,本作で注目を集め,一気にブレイクすることだろう。
 以下,当欄の視点からの論評である。
 ■大空を飛翔するホークマンは,大きな金色の翼でその存在がすぐ分かる(写真11)。ドクター・フェイトは,未来が見える魔術師で,多彩な必殺技をもち,分身の術も身につけている(写真12)。彼のマスクも金ピカだが,これは少し悪趣味に感じた(写真13)。「サイクロン」(クインテッサ・スウィンデル)は音波を出し,嵐を制御できる超能力者(写真14)で,「アトム・スマッシャー」(ノア・センティネオ)は身体の分子構造を制御して,自らを巨大化できる能力の持ち主だ(写真15)。それぞれ,スーパーヒーロー映画らしい魅力的なCG/VFXシーンをしっかりと見せてくれる。
 
 
 
 
 
 
 

写真11 とにかく目立つホークマンの金色の大きな翼

 
 
 
 
 
写真12 透明の球体で自らをシールドする技も発揮
 
 
 
 
 
写真13 ドクター・フェイトのマスクも金ピカ
 
 
 
 
 
写真14 音波で嵐を呼ぶ女の「サイクロン」
 
 
 
 
 
写真15 大きさ変幻自在の「アトム・スマッシャー」
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
 
 
  ■ VFXシーンの多彩さ,質・量ともにDCEU史上の最大級だが,そのスピード感,テンポの良さも出色だ。それを引き立てているのが,音楽(劇伴サウンド)である。この点では,格調高さを醸し出す『ブラックパンサー/ワダンダ…』の音楽とは全く違う。音量の大きさまで,D・ジョンソンのサイズに合わせているのかと感じてしまった。彼が大声で呪文「シャザ〜〜ム!」を唱えてパワーを得る度に,(4DXシアターでもないのに)試写室の椅子がビリビリと振動した。音響設備の良い劇場なら,もっと凄かったことだろう。
 ■ では,主人公とJSAが戦ってどうなる? ともに新登場なので,ブラックアダムが死んだり,JSAが全滅しても困る。こうした場合は,共通の巨大な敵が登場し,力を合わせて戦うことが予想できるが,想像にお任せする。ただし,最 “恐” の破壊神が,簡単に正義の組織に迎合する訳ではなく,世界の平和など気にもしない彼のスタンスは貫かれている。ラストバトル約30分も見どころたっぷりだった。『ブラックパンサー…』のような気品と風格はないが,最後まで観客を飽きさせないプロレスの楽しさだ。本作は批評家の評価が低く,観客の評価が極めて高い。MCUに対して一矢を報いたいDCEUを立て直す救世主のようにも感じられた。
 
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  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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