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O plus E誌 2021年11・12月号掲載
 
 
ベロゴリア戦記』
(ウォルト・ディズニー映画/
アルバトロス・フィルム配給)
 
 
 第1章:異世界の王国と魔法の剣
   
(C)Disney 2017 (C)YBW Group 2017

 
    2021年10月26日 SHISYAにてオンライン視聴
       
 
 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師
   
(C)Disney 2020 (C)YBW Group 2020


 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [第1章:11月26日より,第2章:12月3日より,2作連続全国ロードショー公開予定]   2021年10月27日 SHISYAにてオンライン視聴 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  ロシア製のディズニー映画で, しかもファンタジー  
  次もウォルト・ディズニー映画である。ただし,ウォルト・ディズニー・ジャパンは配給に関わっていない。オープニング・ロゴにはしっかりとお馴染みの「シンデレラ城」が登場しているので,まがい物ではない。登場人物は全員ロシア人俳優が演じ,セリフはロシア語だ。正真正銘,これは「ディズニー・ロシア」が製作したディズニー映画である。
 米国外で,しかもロシアにそんな組織があったのか,配給網はあるとしても,映画製作まで独自に進める実力をもった組織があるのか? と思ったのだが,あったということだ。正式名称は「Walt Disney Studios Motion Pictures CIS(のロシア語表記)」とのことだ。本社はモスクワにあり,ロシア国内の映像制作スタジオと提携して映画製作に乗り出し,2009年に最初の映画『The Book of Masters』を公開している。今回の2本が2作目,3作目に当たる。上述のようにオープニング・ロゴの「シンデレラ城」を使わせているからには,米国本社が内容を審査し,許可を与えているに違いない。
 今回は『ベロゴリア戦記』なるファンタジー・シリーズの第1章,第2章として連続公開されるが,既に第3章も完成していて,ロシアでは12月に公開されるようだ。では,まず第1章,第2章のあらすじを記しておこう。ただし,まともなプレスシートは配布されず,主要登場人物の名前程度しか情報がないので,その役割や物語展開の把握に誤りがあっても容赦されたい。
【第1章のあらすじ】
 主人公は,孤児院育ちでペテン師のイワン(ヴィクトル・ホリニャック)で,口先だけで生きてきた。ある日,嘘がバレてプールに逃げ込んだところ,突然異世界に転移してしまう(写真1)。そこは,まるで中世のごときベロゴリア王国で,彼の生まれ故郷であった。伝説の戦士イリヤが人間界に隠した息子で,闇に支配されつつある王国を救うため,呼び戻されたのだという。救世主扱いされたイワンは,止むなく冒険の旅に出る……。
【第2章のあらすじ】
 異世界転移したイワンの活躍で平和を取り戻したベロゴリア王国で,イワンは恋人となった美女ヴァシリーナ(ミラ・シヴァツカヤ)(写真2)との生活を満喫していた。折から,王国内の戦士が集まる力比べの競技会が開催されていたが,その会場に一旦は倒したはずの邪悪な魔女のヴァルヴァラ(エカテリーナ・ヴィルコワ)が現われ,イワンのもつ「魔法の剣」を狙い,その力で王国を支配しようとする。ところが,イワンは人間界と往復するという不純な目的でそのパワーを使ってしまい,剣のもつ魔力が失われようとしていた……。
 
 
 
 
写真1 イワンが転移したのは,中世のような王国             写真2 ヒロインのヴァシリーナは,かなりの美形
 
 
  伝説の魔術師や魔女が登場し,CG/VFXもたっぷり  
  監督はドミトリー・ディアチェンコで,脚本にはヴィタリー・シュリャッポ初め5人もの名前があるが,勿論,いずれも聞いたこともない。
 以下,いくつか項目に分けて論じよう。

【ファンタジー世界とキャラクターの設定】
 イワンが人間界からベロゴリア王国に入った途端に,森があり,仙人のような案内人(写真3)や,魔術師や魔女が登場する。沼の中からマーマン(男性の半魚人)のヴォジャノーイ(写真4)まで出て来るとなると,まさに異世界であり,ファンタジー映画の範疇だ。どう見ても『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや類した映画の影響を受けていると感じたが,単なるその模倣ではなく,欧州にはこの手の童話は昔からあったようだ
 
 
 
 
写真3 王国に入ると仙人のような案内人が登場            写真4 マーマン(男性の半魚人)のヴォジャノーイ
 
 
   その証拠に「ヴォジャノーイ」は本作の独自の名称ではなく,1000年生きてきた「コシチェイ」や600歳の魔女「バーバ・ヤーガ」も,ロシアの絵本によく出て来る悪役らしい(写真5)。第1作目の『The Book of Masters』にも登場していたようだ。それなら,ロシア人は違和感なくこの物語に入れるはずだ。
 
 
 
 
写真5 コシチェイ(左)とバーバ・ヤーガ(右)は,ロシアではお馴染みの悪役キャラ
 
 
  【出来事の演出,武器・小道具等】
 魔法で人間を動物に変身させたり,炎や風を引き起こしたりはさほど珍しくない。出来事の演出としては,王国内で開催された戦士の競技会は面白かった。ヴァシリーナの気を引こうと,鷹フィニストと張り合うイワンがいじらしい。雪の中に岩が登場し,クイズ対決するという場面も面白い。少しバカバカしく風格はないが,コメディタッチの演出としては楽しめる。
 小道具で呆れたのは,第2章では,イワンが人間界から持ち込んだスマホを使っていることだ。王国内で電波の基地局はあるのか,バッテリーの充電はどうするのだと突っ込みたくなる。人間界から持ち込んだ様々な家電製品もしかりだ。コンセントはどこにある,そもそも中世に相当するベロゴリア王国に電気があるのが不思議だが,魔法の剣で何とでもなるとしておこう。

【CG/VFXの質と量】
 ■ ファンタジー映画なら当然とも言えるが,かなりの数のVFXシーンが登場する。まず王国に入ってすぐ登場する魔女ヴァルヴァラの光の鞭(写真6)は当然CG製だろう。続いて登場するカエルやザリガニもCGだと想像できる。美女ヴァシリーナがカエルに変身するのには驚いた。各種魔法も当然CG/VFXの活躍の場だが,第1章では余り驚くほどのものはなかった。
 
 
 
 
 
写真6 魔女ヴァルヴァラの光の鞭は当然CG描写
 
 
   ■ 一番楽しいのは老魔女のバーバ・ヤーガが住む小屋(写真7)だ。鶏のような足をもち,早足で歩く上に,ジャンプして空へと飛翔する(写真8)。バーバ・ヤーガ自身は浮遊する樽に乗って移動する。この小屋はファンタジーの象徴的存在のようで,第3章では赤ん坊の小屋も登場するようだ。もう1つ象徴的存在はCG製の小さなベビードラゴンで,これも何度か登場する。
 
 
 
 
 
写真7 老魔女バーバ・ヤーは小屋に住んでいる 
 
 
 
 
 
 
 
写真8 この小屋は鶏のような足をもち,野を駆け,空を翔ぶ
 
   ■ 半魚人のヴォジャノーイの下半身は一瞬しか登場しない。それなら,CGで描かなくても着ぐるみでも対処できる。頭部にある柔突起(写真4)はどうやって作ったのだろう? 常にクネクネしていたから,これをワイヤー操作で動かすのは不可能に近い。常時動いている突起を制作して取付けたのか,CGで描いたのか,いずれであっても好い出来だと思う。
 ■ 第2章ではVFXシーンがかなり増えていた。小は少女を惑わす毒の花から,『ハリーポッター』シリーズを彷彿とさせる白いフクロウ,黒い邪悪なドラゴン(写真9),バーバ・ヤーガが目覚めさせた空を飛ぶクジラ(写真10)まで,しっかり描かれている。終盤登場するボスキャラのロゴレブも好い出来だった。あまり好きになれなかったのは,何度も登場する「コロボーク」なる球体の生き物だ。劇中で「頭オバケ」と呼ばれているように,表面に顔だけが描かれていて気味が悪い。CGで何でも描けるとはいえ,この描写は悪趣味だ。  
 
 
 
 
写真9 少女を誘惑する毒の花(左)と邪悪な黒いドラゴン(右)
 
 
 
 
 
写真10 この巨大なクジラが空を飛ぶ
(C)Disney 2017 (C)YBW Group 2017
(C)Disney 2020 (C)YBW Group 2020
 
 
 【総合評価】
 冒険物語としてはかなり面白く,予想以上の出来映えだった。もし第4章まであっても,一気に観てしまっただろう。ただし,B級テイストでコメディタッチなので,少し安っぽく感じてしまう。その意味ではネット配信映画のレベルだと言える。
 上述のように,CG/VFXの量が半端ではなかったので,手加減せずに客観的に評価するなら,当映画評のメイン欄としては☆☆止まりだ。面白いが,中身が正統派のファンタジーゆえに,もう少し質的に高く見せる工夫があっても良かったかと思う。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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