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O plus E 2021年3・4月号掲載
 
 
トムとジェリー』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2020 Warner Bros.
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [3月19日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2021年2月19日 大手広告試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  懐かしいコンビが実写映画の大画面内で動き回る  
  懐かしいアニメキャラが劇場用映画の大きなスクリーンに帰ってきた。猫のトム・キャット,ネズミのジェリー・マウスのコンビである。昔ながらのカートゥーンの代表的存在で,スラップスティック・コメディ(ドタバタ劇)の代名詞でもあった。ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラが創作したコンビで,1940年に初登場したという。80年以上も愛されて続けてきた訳である。
 最初は映画館の中で,映画本編の前に上映される前座の短編漫画映画だった。当時は,ミッキーマウスもポパイも皆そうだった。人気を博し長寿となったのは,TV番組になってからである。日本では1964年からTBS系列で放送され,「トムジェリ」と呼ばれていた。既に高校生で受験勉強中の筆者はさほど観ていないが,4歳年下の家内は毎週見ていて,今も主題歌までそらんじている。てっきり過去のキャラだと思っていたが,今でも毎年のようにOVAの長編作品が作られている。
 今回ワーナー・ブラザースの劇場用映画として登場すると聞き,てっきりフルCGアニメだと思った。ポスターを見てもそうとしか思わなかったのは,リアルなニューヨークの街など,今のCGなら容易に描けるからである。それがベースは実写映画あり,人間の俳優たちも多数登場するという。そうと知っても,動物たちは3D-CGでモデリングし,それをレンダリングレベルで2D化しているのだと考えていた。そうではなかった。マスコミ試写を観て,これは紛うことなく,かつてのカートゥーン・タッチで描かれたトムとジェリーが実写画面に合成されているのだと実感した。
 実写映画としての本作の舞台は,NYの超高級ホテル「ロイヤル・ゲート」だった。大都会のNYに出てきたジェリーが快適な住み処として,この高級ホテルを選択し,そこに住み着く。ホテルにとってネズミの出現は禁物で,新人イベント・プランナーのケイラはネズミ退治のため,猫のトムをボーイとして雇用する。ボーイハット姿で登場するなど,トムは少し擬人化されている。
 仕事としてトムはジェリーを追い掛け回し,いつものドタバタ追走劇が始まる(写真1)。ジェリーのためにセレブの結婚パーティが台無しになってしまうのが映画の前半だ。それで馘になったケイラのため,今度はトムとジェリーが協力して,世界一のウェディングパーティを新郎新婦に届けようと奮闘するのが映画の後半である。
 
 
 
 
 
写真1 お馴染みのキャラが昔の姿で実写世界に
 
 
  監督は『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』(05年10月号)のティム・ストーリー。人間の主人公ケイラ役は,クロエ・グレース・モレッツ。筆者のエンジェルであったクロエちゃんも随分大人っぽくなり,少し太めになって,本作ではコメディアン風の役柄である。その他の助演陣には,マイケル・ペーニャ,ロブ・ディレイニー,ケン・チョンらが起用されている。
 特にお子様映画という訳ではなく,大人も楽しめるコメディに仕上がっていた。高級ホテルの施設,客室,パーティ会場の豪華さやセレブのウェディングの飾り付け等が目の保養になったからである。トムとジェリーの動きも大きな画面で冴え渡り,見事なスラップスティックである。ところが,本作の実写と2Dアニメの合成が不自然で,筆者には違和感だらけだった。  以下では,その原因を分析してみよう。
 ■ 全編で2Dセル調描写のトムとジェリーがペラペラに見えてしまった。彼らだけでなく,他の動物たちも同じである。冒頭のNYの空に登場する鳩DJ(写真2)はまだしも,後半登場する象(写真3)は全く不自然で,物語からも浮いてしまっている。実写の背景がカラフルで複雑な場合ほど,ペラペラ感を強く感じた。背景に目が向いてしまい,主役であるトムジェリの存在が希薄になるからだろう。
 
 
 
 
写真2 最初に登場するのは鳩DJ。やや3D風であまり違和感はない。 
 
 
 
 
 
写真3 後半に登場する象の群れ。実写のホテルとは完全にミスマッチ。
 
 
  ■ 思えば昔のカートゥーンはかなりシンプルな背景だった。本作でも,背景がぼけていると2Dキャラの合成はそう不自然ではない(写真4)。これだとトムとジェリーの動きに注目が集まる。VFX合成のテクニックとしては,実写の光沢面に映り込みを入れたり(写真5),壁や床に影を加えたりしている(写真6)。この影はCGで描いているのかも知れない。
 
 
 
 
写真4 背景がぼけていると余り違和感を感じない
 
 
 
 
 
写真5 ピアノ表面にはジェリーが映り込んでいる
 
 
 
 
 
写真6 道路上に影は描き加えているが,背景に負けている
 
 
  ■ 陰影の付加だけではなく,2Dのキャラと実写の合成にはそれなりの工夫がされている。雌猫トゥーツが椅子を引っ掻いて傷をつけるシーンはご愛嬌だ(写真7)写真8ではブルドッグのスパイクに実写の花を加えさせている,フルCGアニメならCGでリアルな花を描くところだ。本作の場合は,実写の撮影を終えた後,2匹とも机の後に座り,スパイクが花を加えるように描き加えたのだろう。原画を描くアニメーターは総勢29名で,撮影開始前に約15,000点,撮影終了後に約25,000点描いたというから,実写への描き加えにかなり労力を要したものと思われる。フルCGアニメとは別の苦労がある訳だ。
 
 
 
 
 
写真7 椅子に影や引っ掻き傷を描き加えている 
 
 
 
 
 
写真8 撮影後の実写映像に2Dキャラ描き込んだと思われる。
(C)2020 Warner Bros. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 最近のフルCGアニメでは,主人公たちのルックスはシンプルでも,かなり凝ったリアルな背景CG描写が多用されている。それで違和感を感じないのは全体のバランスが取れているからだ。コマ撮り人形アニメの場合,基本はすべてが実写なので,やはり調和が取れている。いずれの場合も,背景はほぼ固定されている。それも調和を保つ要件なのだろう。本作のように背景が魅力的であり,しかもその中に動きがある場合は画質のバランスを取りにくく,最悪なのだと感じた。
 ■ トムジェリを3Dでモデリングし,トゥーンシェイディングで2D化していたらどうだったのだろう(一部で使っていたかも)? 動きやカメラワークとの相性は向上したと思われるが,それでは懐かしいトムとジェリーのルックスにならず興ざめだ。トムジェリはこのままでいいから,あまり目立たない,大人しい実写背景にして,彼らの個性を際立たせるべきだったというのが結論だ。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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