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O plus E誌 2015年5月号掲載
 
 
ゼロの未来』
(ショウゲート配給)
      (C) 2013 ASIA & EUROPE PRODUCTIONS S.A. ALL RIGHTS RESERVED.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月16日よりYEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー公開予定]   2015年4月14日 サンプルDVD観賞
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  徹底してビジュアルに拘り続ける監督の面目躍如  
  こちらは別の意味で,公開を心待ちにしていた作品だ。過去に何度か触れたが,季刊誌Cinefexは35年の歴史をもつVFX技術専門誌である。年間10数作品しか掲載されないので,CG/VFX大作が増えた昨今では,この雑誌に取り上げられるだけで,オスカー候補の第一関門と言えるほどだ。その掲載作品のほぼ全てを,当欄では先に紹介している。ところが,第140号(2015年1月号)での掲載を予告された『The Zero Theorem』だけは,どんな映画か検討がつかなかった。どうやら,2013年9月のヴェネチア国際映画祭出品を皮切りに,同年内に多数の映画祭で上映された作品のようだが,本邦での公開予定は一向に聞こえて来なかった。
 予告編リストを見て,『博士と彼女のセオリー』か『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』なのかなと思ったが,この2本ではなかった。実在の偉人の伝記映画ではなく,天才プログラマーが主人公の少し難解なSFらしい。監督が『未来世紀ブラジル』(85)『12モンキーズ』(95)のテリー・ギリアムだというので,強烈な色彩感覚,拘りのビジュアルが想像できた。最近CG/VFXを多用して,描きたい放題なのは,前作『Dr. パルナサスの鏡』(10年1月号)で証明済みである。そうこうする内,ようやく,ショウゲート配給での本邦公開が決まった。この鬼才の映画の配給権を得て,公開してくれるショウゲートに拍手しておきたい。
 天才プログラマーのコーエンを演じるのは,二度の助演男優賞部門で二度オスカーを得たクリストフ・ヴァルツ。本作では,スキンヘッドの主役で登場する。人間嫌いの彼が心を開く女性ベインズリー役には『海の上のピアニスト』(98)のメラニー・ティエリー。同作ではまだ少女の面影があったが,本作ではセクシーな美女として登場し,少しだがヌードも披露してくれる。
 時代設定や場所は不祥だが,近未来のある都市のようである。コンピュータに支配されている管理社会という,SF映画には定番のディストーピアものだが,その意味では『未来世紀…』の印象に近く,それを約半世紀未来にシフトしたかのようだ。邦題もそれを意識して「未来」を入れたのだろう。未解明の「ゼロの定理」なる謎の数式の解明が仕事という設定だが,もっともらしい数式は出て来るものの,あまり意味はない。哲学的なテーマを扱うのに,それらしいテイストを付けているだけだ。
 お得意のビジュアルは,映画の冒頭から全開だ。街の様子(写真1)も,自宅である教会内での仕事場(写真2)も,医者の診察室(写真3)に至るまで,とにかくカラフルかつ刺激的なデザインだ。一昔前に流行った「サイケデリック」なる言葉が思い浮かぶ(写真4)。職場やパーティー会場もCG/VFXの洗礼を受け,この監督らしい異様な雰囲気を醸し出している。ギリアム監督はディスプレイに拘りがあり(『未来世紀…』もそうだった),至る所に合成映像が貼り込まれている。モダニズムは感じられず,むしろ数十年前のレトロなSFのタッチを踏襲していると感じる。
 
 
 
 
 
写真1 市中の光景。至るところに映像ディスプレイがある。
 
 
 
 
 
写真2 教会に住んで,毎日定理の証明に励んでいる
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 この診察室にも,ビジュアルへの強い拘りを感じる
 
 
 
 
 
 
写真4 まさに,かつてのサイケ調
 
 
  その極め付けは,エンティティ解析の中心となるメインフレームの威容である(写真5)。大掛かりな金属製の枠を組み,それをVFX加工した産物だ。このスーパーコンピュータを破壊するのに,結線の束を外すのには笑ってしまった。「ゼロの定理」計算中のビジュアルも見ものだ。操作端末も対話型のデータ操作もゲーム感覚であり,キューブ状の要素を嵌め込んだり,崩れ落ちたりする様で,3次元テトリスを思い出した(写真6)
 
 
 
 
 
写真5 これが,解析に使われる巨大なメインフレーム
 
 
 
 
 
写真6 解析に失敗すると,キューブが崩れ落ちる
(C) 2013 ASIA & EUROPE PRODUCTIONS S.A. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  かく左様に,本作も全編描きたい放題だ。物語展開よりも,美意識を発露したかっただけだとも感じられる。一見難解に思えるが,テーマは実にシンプルで,「人生に意味を与えてくれるものとは?」「幸せを与えてくれるものとは?」に過ぎない。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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