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O plus E誌 2014年10月号掲載
 
 
ミニスキュル 〜森の小さな仲間たち〜』
(フチュリコン・フィルムズ /東北新社配給 )
      (C) MMXIII Futurikon Films - Entre Chien et Loup - Nozon Paris - Nozon SPRL - 2d3D Animations.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月18日より全国イオンシネマにて公開予定]   2014年9月4日 サンプルDVD観賞
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大自然の中での小さな虫たちの動きに心が和む  
  もう1本行こう。ギリシャ神話大作の『ヘラクレス』が締切に間に合わなかったので,急遽この作品を紹介することにした。小さな虫たちが活躍するフランス製の「CGアニメーション」というので,スチル画像を観て,てっきり「フルCGアニメ」かと思った。それなら,もはや敢えて取り上げるほどの対象ではないなと。ところが,予告編を観て,すっかり気が変わった。どう観ても,背景となっている美しい森や渓流は実写ではないか。そこに可愛いCGの虫やアリたちが合成されている。人形劇的な趣きもある。いいね,これは。フルCGよりずっといい。と,すぐに感じた次第である。
 この劇場版長編の前に,多数の短編が製作され,フランスでは2011年から,我が国では2012年4月から「NHK Eテレ」で(2分版と5分版が)放映されていたらしい(現在は放送終了)。シリーズ名は『Minuscule ミニスキュル〜小さなムシの物語〜』。本作も似たような題だが,区別するために意図的に少し変えたのだろう。監督・脚本・企画は,エレーヌ・ジローとその夫君のトマス・ザボの2人。フランス漫画界の巨匠ジャン・ジロー(別名メビウス)の娘夫婦だそうだ。
 本作も関連資料,参考映像をしっかり勉強した。まず,YouTubeにアップされている数本を観て,既に10数本発売されているDVDの最初の2本を購入し,計16話を全部眺めた。フランスの片田舎の田園風景の中,虫たちの声や羽音が実に気持ちいい。CG自体はシンプルで,さしたるレンダリング量ではないが,可愛いキャラと良く出来た脚本に心が癒される。なるほど,Eテレで若い母親が幼児と楽しむには最適のコンテンツだ。
 さて,劇場版の本作である。TV版は4:3のPAL画面だが,劇場版は2.35:1のシネスコ・サイズのワイド画面であり,もうこれだけで森が広大になり,虫たちの活動範囲がぐっと広がったという気がする。アリ,てんとう虫,クモ,ハエ,イモムシ等々の基本デザインはほぼ同じだが,実写画面が高画質になった分,CG映像もしっかり質感高くレンダリングされている(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 蟻たちの他,爬虫類の皮膚も十分な質感で表現
 
 
  それよりも大きく改善されていて,いち早く目を引くのは,背景となる大自然の光景である。手つかずの自然が残る南フランスの自然保護地区内の,エクラン国立公園,メルカントゥール国立公園をロケハンし,リアル3D映像に収めたという。その圧倒的な自然美の中に,小さなCG製の虫を合成し,縦横に活躍させるというだけでワクワクするではないか(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 広大な国立公園の大自然をバックに物語が展開する
 
 
  物語の鍵となるのは,人間が森に置き忘れた角砂糖のボックスだ。TVシリーズ第1話のテーマも角砂糖だったから,余程の好物なのだろう。このお宝をめぐり,黒アリと赤アリの間で争奪戦が始まる(写真3)。そこに巻き込まれた「てんとう虫」の冒険と友情の物語である。TVシリーズと同時に企画され,5年間かけて制作されただけあって,冒険物語としてよくできている。虫世界の『ロード・オブ・ザ・リング』というが,後半,黒アリの城に押し寄せる赤アリの大群と戦闘の模様は,確かに「指輪物語」だ(写真4)。随所に名作のパロディが織り込まれている。大人の映画ファンを意識した演出で,嬉しくなる。
 
 
 
 
 
写真3 ともに大好物ゆえに,争奪戦が勃発
 
 
 
 
 
 
 
写真4 角砂糖を狙い,黒アリ城に赤アリ軍が押し寄せる
 
 
  ひとつ問題があるとすれば,この映画には全くセリフがない。短編ならパントマイムのサイレント映画として成立しても,長編はセリフやナレーションがないと苦しい。大人なら89分の長尺を熟視し理解できるだろうが,子供たちが物語の展開について行くのは難しいだろう。虫たちに人間語を話させる必要はないが,鳴き声に簡単な字幕を入れても良かったかと感じた。
 映像的には,大自然の映像とCG映像の間に,ミニチュアセットを挟んで,撮影・合成しているシーンが少なくない(写真5)。この三者のバランスが良く,CG/VFX合成も自然だ。虫たちの激しい動きに対するモーション・ブラーの付け方も上手い。煙や霧,ダイナマイトの爆発,花火等々のVFX処理もそつなくこなし,カメラアングルも虫たちの動きも,3D上映用に配慮されている。
 
 
 
 
 
写真5 実物大の小道具,ミニチュアセット,CGを織り交ぜて合成
 
 
  ここで正直に告白するならば,評者はこの映画の試写をスクリーンで観ていない。観賞できたのは,画質の悪いサンプルDVDだけだ。この映画は,絶対に大きなスクリーンで3D版を観るべき代物だ。公開日は10月18日で,それを待っていては,次号でも間に合わない。止むなく,本号でここまでを紹介したが,映画館で3D版をじっくり観た結果を,後日報告したい。
 
 
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付記『ミニスキュル』3D版の感想(圧縮版はO plus E誌2014年12月号に掲載)
 
 
   公開後に映画館で3D版を観て報告すると記したので,その約束を果たしておこう。イオンシネマのみでの限定公開であるが,上映館を探すのに少々苦労した。
 まず,京都駅前のイオンモールに行こうとしたが,ここのシネコンは東映系列の「T・ジョイ」であって,イオンシネマではなかった。そうか,イオンモールだからといって,イオンシネマがあるとは限らないのか。しかし,二つ隣のJR桂川駅前に10月17日に新しいイオンモールがオープンし,ここには確実にイオンシネマが入るという。この映画は翌10月18日公開だから丁度間に合う。新装開店なら,何かプレゼントも付くかも知れないという下心もあって,ここで観ることにした。ところが,事前に座席予約しようとしてもなかなかWebサイトがオープンしない。まあ,何しろモール全体もやっと完成するのだから仕方がないかと,事情を察して待つことにした。
 さて,ようやくチケット予約できるようになったと思えば……。何と何と,この『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』の上映予定がない! 何だよー,イオンシネマ限定公開だというのに,イオンシネマだからやっている訳ではないのか,やれやれ。じゃまた別のイオンシネマを探すしかなく,なるべく駅に近いイオンモールを探し,近鉄京都線沿線の「イオンモール高の原」を探し当てた。今度はしっかり上映していると思いきや……。何だ,2D上映しかないじゃないか。3Dがウリの映画だというのに,そんなに扱いが低いとは心外だ。またまた別のイオンシネマを探す破目になり,JR京都線茨木駅から少し歩くが,「イオンシネマ茨木」での3D上映に辿り着いた。といっても,1日5回上映の内,3Dはたった1回であった。折角の意欲作を輸入し,限定公開しておきながら,これでは映画ファンに「来るな。観るな」と言っているようなものである。
 ようやく探し当てたこの3D版を観たのは,公開週の火曜日の16:55からの回であった。一番大きな446席のシアターで,何と,入場者は筆者1人だけだった! これでは,他の観客の反応すら分からない。予告編も,見事なまでにお子様映画一辺倒だった。本シリーズの短編は,「NHK Eテレ」で幼児たちにも人気を博していたとはいえ,これは完全にマーケティング方針が間違っていると言わざるを得ない。フランス製のエスプリを効かせた,シニカルな味付けの演出は,全国の単館系シアターで公開すれば,目の肥えた映画ファンをも十分楽しませる内容だったと思う。
 さて,3D映像だが,大きなスクリーンで,メリハリのある立体感演出は快感であった。無用な飛び出し感はなく,大自然の中で自然な立体感を出している。それには,やはり2台のカメラでのリアル3D撮影に限る。技術的には特筆することはなく,驚くほどのことはなかったが,花火,爆発,赤アリの大群等々の映像の立体感も予想通り上々であった。本作を映画館で観た数日後に,別項の『くるみ割り人形』の試写を観たので,より同作の評価が厳しくなったとも言える。
 冒頭のシーケンスで人間のカップルが置き忘れていった金属製の小箱に,角砂糖が沢山入っていたという設定だが,この缶は市松模様で描かれている(写真6)。これは実物が存在すると同時に,シーンによってはCGでも描かれているようだ。2台のカメラ間の視差調整や現実世界とCGの座標系を正確に合わせ込む較正作業に,この市松模様がマーカーとして好都合だったのではないかと見て取れた。しっかりした3D映画を作る上での,ちょっとした工夫である。
 
 
 
 
 
写真6 何気ない市松模様が、実は曲者
(C) MMXIII Futurikon Films - Entre Chien et Loup - Nozon Paris - Nozon SPRL - 2d3D Animations. All rights reserved.
 
 
  立体映像もさることながら,音も良かった。セリフなしのサイレントゆえ,余計にサウンド・デザインの良さも感じられたのかも知れない。虫やアリが主人公ではあるが,物語はごく普通のアクションものであり,映画の方程式通りの盛り上げと落としどころを守っている。この脚本は人間が主人公であっても,ほぼそのまま使えると思う。カメラワークも編集もオーソドックスなので,映画制作の教本として使えると感じた。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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