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O plus E誌 2005年4月号掲載
 
 
『サウンド・オブ・サンダー』
(フランシス・ピクチャーズ
/松竹配給)
      (C)2004 Laptron Limited  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2006年2月1日 松竹試写室(大阪)  
  [3月25日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  なるほどB級だが,これが意外に面白い  
 

 洋画の日本公開日は,製作国での公開から数ヶ月遅れるのが普通だが,最近は日米(ほぼ)同時公開作品も少なくない。大作であることを強調するための話題作りの1つだが,今やインターネット上で直ちにその評価が世界中を駆け巡るので,妙な悪評が立たない内にとの思惑もあるようだ。本欄は,先入観がないよう,そうした評は見ずに試写会に出かけた第一印象を大事にし,VFX事情をじっくり分析して評価している。とはいえ,やはり企画時,撮影中からの数々の事前情報,マスメディアを通じての大規模な広報宣伝は入って来てしまう。
 大半の読者もそうだろうが,どうしても話題の大作がつまらなかった時の評価は厳しくなるし,メジャー以外の小作品で好みにはまった時は嬉しくなる。そういう掘り出しものには高得点をつけたくなり,他人にも勧めたくなる。これは,同じ入場料1,800円に対する絶対評価ではなく,期待度に対する相対評価なのだろう。無理をして時間を割いて出かけた話題作への失望感と,暇つぶしに観た映画の秀作ではさらに差が開く。時間の価値が,入場料よりも勝っているのかもしれない。
 さて,ほとんど前評判を聞かなかったこの映画の評価は,大きく2つに分かれるだろう。1つは,典型的なB級作品であり,やはりB級はB級だと断じる評価である。SFというジャンルゆえに,若い女性層は最初から避けて通るか,低く見下す傾向がある。もう1つは,期待しなかっただけに,意外と面白いじゃないか,結構楽しめるじゃないかという評価である。
 この映画の原作は,SF界の巨匠レイ・ブラッドベリが1952年に著した短編で,「いかずちの音」(ハヤカワ文庫「太陽の黄金の林檎」収録)という直訳の邦題がついている。舞台は50年後の2055年で,人類はついにタイムトラベル技術を手に入れている。シカゴの大手旅行代理店タイム・サファリ社は,6500年前の白亜紀にタイムスリップして恐竜を目の当たりにするツアーを売り物にしていた。ある顧客が無意識の内に,過去から現代にある物を持ち帰ってしまったために,生態系が破壊され,「別の進化の波」が押し寄せて現代社会が破壊される危機に瀕する……。という設定である。
 監督・撮影は『カプリコン・1』(77)『2010年』(84)『タイムコップ』(94)等のピーター・ハイアムズ。SFは十八番のベテランだが,最近は『エンド・オブ・デイズ』(00年1月号)くらいしか印象にない。主演は,ツアーの引率者トラヴィス・ライヤー博士役にエドワーズ・バーンズ,TAMIの開発者のソニア・ランド博士役に,キャサリン・マコーマックと,いずれも何の映画に出ていたか思い出せないクラスの俳優だ。むしろ,『ガンジー』(82)でアカデミー賞主演男優賞に輝いたベン・キングスレーが,タイム・サファリ社長を演じていたのには驚いた。悪役というより,いかにも強欲で節度のない人物だ。何でも演じるのが俳優とはいえ,オスカー俳優にここまでやらせるのはあんまりだ。
 E・バーンズは,顔立ちもしゃべり方もベン・アフレックによく似ている。本当は彼を使いたかったところを,ギャラを安く上げるために,E・バーンズで我慢したというところだろうか。その安上がりぶりは,冒頭の白亜紀ツアーで登場する恐竜T-レックスの質でもまざまざと見せつけられる。10数年前の『ジュラシック・パーク』(93)と比べても相当レベルが低いし,最近の『キング・コング』(06年1月号)中の恐竜には遠く及ばない。「今どきこのクオリティのCG恐竜かよー」と嘆息するレベルの仕上がりだ。ここまでで,この映画のB級ぶりは完全に刷り込まれてしまう。
 演出も美術デザインも安っぽい。未来なのに絵が古めかしい。ところが,その古さ,安物感のレベルが揃っているため,却って一昔前のマニアックなSF映画を思い出させてくれる。この違和感とも,それでいて懐かしさとも言える奇妙な感覚は,次第に慣れてきて気にならなくなる。B級だと決めつけてしまえば結構乗れて,ストーリーに集中できる。語り口調は悪くはない。
 CG/VFXは,質より量を重視したのか,これでもかとばかりにふんだんに使われている。VFX担当には,QIX,Feinwerk Berlinの2社の名前があった。ドイツのVFXスタジオらしいが,名前を聞くのは初めてで,ここでもコストダウンを図ったのだろう。
 50年後のシカゴを描くのにも,未来生活の小道具もそれなりに工夫しているなと感じる。すぐタクシーだと分かる未来のイエローキャブの形状はなかなか面白い。目の前の空間に青いドローペンで図を描いたり,録画された映像を話になって囲んで観るシーンも悪くない。タイム・ウェイブをあまり良質でない津波風で描いたのはいただけないが,その余波としての町の変貌は,かなりの力作である(写真1)。コモドオオトカゲとマンドリルを足して2で割ったイメージという「リズブーン」や,巨大なウナギかウツボを思わせる水中の魔物など,クリーチャーのデザインも出来不出来の差は目立つが,これも質より量で押してくる(写真2)。
 この種の映画は,主役が不屈の闘志で間一髪地球の危機を救ってハッピーエンドになるに決まっているが,完全にその典型パターンだと考えていい。そこまで分かっていて観るなら,文句なく面白い。
 

 
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写真1 50年後のシカゴの町(左上),タイム・ウエイブ(右上)とその通過後の変貌した町(下)
(C)2004Laptron Limited. All Rights Reserved.
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 トカゲヒヒ(左上),巨大ウナギ状の怪獣(右上),大量の虫(下)等,CGクリーチャーも満載
(C)2004Laptron Limited. All Rights Reserved.
 
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