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O plus E誌 2004年10月号掲載
 
 
『アイ,ロボット』のVFX補遺
 
         
      2004年9月7日 大阪厚生年金会館大ホール  
ロボットのアクションとライティングが驚異的  
   先月号で十分な紙数がなく,書き尽くせなかった『アイ,ロボット』のVFX解説を補足しておこう。専門誌やSIGGRAPHで得た情報もあり,口コミでもそのメイキング情報が伝わって来た。その効果のほどを再確認しに,台風18号の強風の中,一般試写会に足を運んで細部を凝視して来た。何度観ても,これが実写とCGの合成なのかと目を疑うくらい,ロボットの質感は驚異的だ。
 ■ まず先月号の訂正をしておこう。ロボットNS-5の実体モデルは数台作られたが,これは照明条件の確認用だけに利用されたのであって,完成映像ほとんどすべてCG製のロボットだという。カルヴィン博士の至近距離で診断を受けているサニーもそうなのか? 一部実体だとしても,CG映像とのすり替わりは全く分からない。
 ■ ロボットのデザインは,ロボット研究の盛んなピッツバーグにあるPatrick Tatopoulos社が担当した。主役のNS-5に関しては,情感たっぷりの表情をもたせる頭部と,縦横無尽なアクションをこなせるボディの両立が素晴らしい。メタリックな金属光沢面,黒い硬化樹脂状の拡散反射面,半透明のプラスティック・シェルの組み合わせは,CG照明にとっては決して有利な材料ではないが,近未来のロボットだなと感じさせるデザインだ。
 ■ NS-5の動きは徹底して力学的にシミュレーションしておいて,その上で人間の俳優にmocap(モーション・キャプチャ装置)で演技させている。スプーナー刑事やカルヴィン博士との絡みが極めて自然なのは,ほぼ常にmocapスーツを付けた俳優が一緒に演技しているからだ。特に,NS-5の「ユニークな存在」であるサニーに関しては,一貫して声を担当するアラン・デュディックが演じた。その他大勢のNS-5は,名も無いスタントマンたちが演じるのだから,サニーは動きの点でもそれと分かる存在になっている。
 ■ 『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムと同様な制作方法を採りながら,サニーの表情生成にはフェイスmocapを使用していない。ゴラムと違って,サニーはメカであり,アランの表情そのままだと不自然になるからだ。せいぜい赤ん坊レベルの表情が望ましく,スプライン曲線等を利用した独自のカーブを発生させ,かつモルフィングも利用して表情をつけたらしい。
 ■ 動き以上に徹底して工夫されたのが,照明条件を見事に反映したNS-5の質感表現だ。上記の各素材に対して忠実に鏡面反射,拡散反射,屈折を計算するのは,計算量は多くとも,CG物体だけならそう難しい問題ではない。実写映像と一体化し,かつ物体間の相互反射まで反映させるとなると,問題は一気に難しくなり,実照明の配置と仮想光源の調整に名人芸が必要なのだ。屋内シーンなら,歩くロボットの微妙な影が壁面にさして移動していることにも注目されたい。NS-5の半透明のボディを効果的に見せるのに,巧みなバックライトを多用している点も見逃せない。
 ■ 派手なアクション中でもこのレベルのライティングを実現しているのが驚異的だ。この点での大きな見せ場が2つある。1つは,前半のトンネル内のカーチェイスと多数のロボットとの格闘シーンだ。トンネル内には約100の光源が想定され,中には回転する照明まである。恐れ入る。もう1つは,高層のUSR社のガラス窓壁面を多数のNS-5がよじ登るシーンだ。ビル内部から見れば,屋外の市中の夜景がガラス越しに透過し,反対のガラス壁面が反射し,ロボットの表面は鏡面反射と半透明が入り交じっているという気の遠くなる設定だ。前者は310シーンを担当したWetaデジタル,後者は520シーンを担当したデジタル・ドメインの受け持ちだが,この両社間で質的な差を全く感じさせないのにも感心する。
 ■ USR本社ビルの正面玄関と受付は実物セットで,吹き抜けの高層部分は勿論CG製だ。このビルのデザインにも圧倒される。その上部階内部で,無数のNS-5とウィル・スミスが格闘するクライマックス・シーンのカメラワークは凄まじい。上から下からまさに変幻自在。PreVizはImage Engine社,Pixel Liberation社が担当したようだが,もはやPreViz抜きでは,ここまでシーケンスはデザインできないだろう。それを活かし切ったVFXスーパバイザのジョン・ネルソンのセンスと力量に大いなる賛辞を送っておこう。いや,素晴らしい。


(O plus E誌上では,メイキング画像を掲載したが,Web上での利用は許可さ れていないので,ここには掲載できない)
 
   
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