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O plus E誌 2004年9月号掲載
 
 
『ヴァン・ヘルシング』
(ユニバーサル映画
/ギャガ-ヒューマックス共同配給)
 
      (c)2004 UNIVERSAL STUDIOS.  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年7月6日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
  [9月7日より日比谷映画ほか全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  3大モンスターの競演は期待以上の面白さ  
   主人公のヴァン・ヘルシングを演じるのは,『X-メン』のヒュー・ジャックマン。予告編やテレビCMを観る限り,またまたアメコミ・ヒーローの映画化なのかと思う人がいても無理はないが,どこかで聞いたこの題は吸血鬼ドラキュラの宿敵として知られる老教授の名前だ。ところがこの映画では,ローマ・ヴァチカンの密命を受けた若く力強いモンスター・ハンターとして登場する。
 対するは,ドラキュラ伯爵,フランケンシュタイン,狼男という3大モンスターの勢揃いという構図だが,実際には「ジキル博士とハイド氏」の巨漢ハイド氏,せむし男のイゴールも顔見世登場する。待てよ,こういう有名キャラのオールスター登場は,昨年観た『リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い』(03年10月号)と同工異曲じゃないか。時代が19世紀末というのも同じだ。ところが,この3大モンスターはすべて伝統あるユニバーサル映画が生んだキャラで,版権もしっかり同社が確保しているという。なるほど,本家だけあって面白さもぐっと上だった。
 監督・脚本は,同じくユニバーサル映画の古典モンスター映画『ミイラ再生』を『ハムナプトラ』(99)としてリメイクし,大ヒットを飛ばしたスティーヴン・ソマーズ。彼自身がユニバーサル・モンスターを勢揃いさせるアイデアを思いつき,一気に脚本を書いたという。そう聞くだけで,ワクワクするではないか。彼は,この手の娯楽大作を撮らせたら実にうまい。当然,VFXを最大限に効果的に使うことも予想できた。
 ヒロインは,代々ドラキュラと因縁の対決を続ける一族のアナ王女で,『パール・ハーバー』(01)のケイト・ベッキンセールが演じる。これまでの役柄とは一味違うタフで活動的な女性役だ。敵方の女性陣は,3人のドラキュラの花嫁で,CG技術を駆使して空を飛ぶ姿は印象的だった。出番も多い。
 物語の舞台は, 東欧ルーマニアのトランシルバニア地方のとある町だが ,プラハ郊外にスタッフ1,000人が乗り込んで,時代物の大セットを作ったという。その中で展開する物語は,最初から快適なテンポでがんがん飛ばす。息もつかせぬ展開とはこのことだ。自分の脚本だけに,この監督の語りは絶妙だ。
 モンスターの役どころ,出番だけでなく,ハンター側の設定も巧みだ。ヴァン・ヘルシングがモンスター退治用に使う数々の武器を発明するのが修道僧のカールで,この人物も武器も面白い。言うまでもなく,007シリーズのQを意識したお遊びである。このカールを,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのファラミア役だったデヴィッド・ウェンハムが演じる。Q役だけでちょいと登場して終りかと思えば,少し滑稽で,ヴァン・ヘルシングの良きパートナーとして活躍する。ドン・キホーテにとってのサンチョ・パンサを彷彿とさせる。
 強いて難を言えば,前半のテンポの良さに比べて,後半のクライマックスへのもって行き方が少しくどい。エンディングはさっぱりしてこれでいいが,上映時間2時間13分はもう少し短い方が良かったと思う。
 スティーヴン・ソマーズ監督が選んだ視覚効果スタジオは,もちろんILMだ。他にIllusion Arts, Hatch FX等も参加しているが,総勢350人のILMが大半を担当した。全編VFXの連続で,ILMとしてもかなり力を入れた作品であることが分かる。ただし,VFXを無理に使っている感じはない。まさに映画を楽しく,スケールを大きくするのに使われている。やはり,この監督のVFX理解度はかなりのものだ。
 最重点テーマの1つは,ドラキュラの花嫁たちの空を飛ぶ姿だろう。顔が実写で胴体はCGで描かれているが,セット内でモーションキャプチャー・データがリアルタイムに合成されているようだ(写真1)。言うは易しいが,つなぎ目も飛行する姿も違和感はなく仕上げるのはそう簡単ではない。ILMの高度な新技術のなせる技だ。
     
 
 
 
写真1 ILM制作の「空飛ぶドラキュラの花嫁」の出番は多数。首から上だけが実写で,他はCG製。
(c)2004 UNIVERSAL STUDIOS ALL Rights Reserved.
 
     
   狼男が,人間の殻を引き裂いて狼に変身するシーンも印象的だった。狼男そのもののクリーチャー・デザインは,そう驚くほどでなく凡庸だが,変身過程や変身後のスピード感は優れていた(写真2)。フランケンシュタインのメイクも役柄も,オリジナルを損なわず,それでいて新解釈と言える味を出している。
 冒頭の19世紀のパリの町の再現は,『ムーラン・ルージュ』(01年11月号)とは違った味つけで,出来は良かった。ヴァチカン,ブダペストの舞踏会会場,ドラキュラの城等の描写もCG技術なしでは考えられない。写真3なども馬車の動きに目を奪われがちだが,背景のマット画の光景もかなり手は込んでいる。一貫して薄暗いトランンシルバニア国の空などは,ディジタル加工の結果だろう。
 カメラワークも構図もスケールが大きく,VFXも効果的に使われている。『ロード…』の影響をかなり受けていると感じられた。もちろん,好い意味でだが。
   
写真2 狼男の造形は並みだが,動きはシャープ
(c)2004 UNIVERSAL STUDIOS ALL Rights Reserved.
 
写真3 馬車に目を奪われるが,背景もなかなかのもの
 
 
 
     
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