head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2003年7月号掲載
 
 
『ソラリス』
(20世紀フォックス映画)
 
       
  オフィシャルサイト日本語][英語]   2003年6月3日 東宝試写室(大阪)  
  [6月21日より全国東宝洋画系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  計算し尽くされた大人の純文学調SF  
   この映画を日本の映画ファンがどう受け止め,どの程度ヒットするかに興味がある。古典的SFの名作の再映画化でありながら,有名男優がオールヌードのラブシーンを演じるという激しく切ない愛の物語。ジャンル分けが難しいだけに配給会社も宣伝方法に困るだろう。
 何とも豪華な顔触れだ。製作は,『タイタニック』(97)以来プロデューサ業にばかり精を出して,自分ではノンフィクション大型映像以外監督をしていないジェームズ・キャメロン。彼がもっていた再映画化権に名乗りを上げた監督は,2001年度アカデミー賞で監督賞部門にダブルノミネートされ,見事『トラフィック』(01)でオスカーを得たスティーヴン・ソダーバーグ。すっかり大監督の仲間入りしたが,脚本・撮影もこなしている。そして主演は,『アウト・オブ・サイト』(98)『オーシャンズ11』(01)でソダーバーグ作品に出演して意気投合し,映画プロダクションを共同経営するジョージ・クルーニー。このトリオの作品というだけで,思わず身を乗り出したくなるではないか。
 米国公開は2002年11月27日。批評家筋には好評だったのに,観客の反応はイマイチで興行的には芳しくなかった。いや,批評家に褒められる映画が,ポップコーンまみれのシネコン興行でヒットする訳がないのも当然といえば当然だ。日本ではどうだろう? みゆき座系で女性ファンにアピールすべき作品だと思うが,SFというのが足枷になる可能性は十二分にある。
 原作は,スタニスワフ・レムの名作「ソラリスの陽のもとに」(61)で,SF人気投票ベストテンの常連作品だ。1972年にソ連で『惑星ソラリス』として映画化され名作とされているが,評者は不幸にして両方とも未体験である。今回,それを予習する時間的余裕はなかった。
 近未来,未知の惑星ソラリスを探査する宇宙ステーション「プロメテウス」から地球への緊急ビデオ通信は,親友の宇宙飛行士ジバリアンから助けを求める映像で,心理学者のクリス・ケルヴィンは事情調査のため地球を出発する。到着したステーション内でクリスを待っていたのは,自殺したジバリアンの死体と狂気の淵に立たされ個室に閉じこもった科学者2人だけだった。そして,クリス自身も数年前に自殺したはずの妻レイヤ(ナターシャ・マケルホーン)の現れたのに大きな衝撃を受ける。だがそれは,人間の意識を反映してそれを具現化するソラリスの宇宙生命体の仕業だった……。
 原作は,人間の潜在心理の持つ力を巧みに描き出した傑作とされている。ソラリスが,つまりはクリス自身が生み出した妻の幻影に振り回され,人間の心理と意識というものを考えさせられる映画だ。難しいテーマで,監督にも主演俳優にも相当な力量を要求される。原作を知らず予備知識もなく,この映画だけ観ても十分満足の行く素晴らしい作品に仕上がっている。
 ストーリーはシンプルで,難解ではなく,ゆったりしたペースで物語が展開する。謎はあるが,怖がらせたり,どんでん返しがあるわけではない。全編99分はソ連版166分と比べると随分短いが,それほど短く感じさせず,ちょうどいい長さだ。『マトリックス・リローデッド』は,難解ぶるあげくにセリフばかり長いから,少しこの映画に見習うべきだろう。
 相手役のナターシャ・マケルホーンは,『トゥルーマン・ショー』(98)くらいしか出演作を知らないが,いいキャスティングだと思う。ジョージ・クルーニーとの組み合わせもいい。ハッキリとした目鼻立ち,ミステリアスでいてかつ情熱的なルックスの美人で,回想シーンとソラリスでのシーンの使い分けも上手い。これがジュリア・ロバーツだったら,現実味があり甘すぎて失敗だっただろう。
 クレジットには登場しないが,撮影もソダーバーグ監督自身だけに,計算し尽くしたカメラワークと絵作りの精緻さを感じる。照明,カット割りも見事だ。映像制作の教本に使ってもいい出来栄えだ。
 CG,VFXを知り尽したジェームス・キャメロンだが,いやそれだけに安易なCG映像は登場しない。少なくとも『サイン』(02)のようなバカバカしい登場人物はない。至るところで『2001年宇宙の旅』(68)へのオマージュと思しきシーンが登場する。後半クリスがボウマン船長のように見えるが,それもこの映画に魅せられて映画人を志したというJ・キャメロンの思い入れが反映されているのだろう。
 監督が「背景に過ぎない未来の光景に観客の目を奪ったり,使用される新しいテクノロジーに重きを置くのはこの映画のストーリーにそぐわない」と言うように,ステーション内部や宇宙服等は質感を感じさせる映像ではあるが,斬新さを狙ったものではない(写真左)。写真右の宇宙ステーションなどは,伝統的なミニチュアの良さを引き出した美しい映像だ(これがCGだというなら,それはそれで大したものだが)。カメラの動きもゆったりしていて,その点でも『2001年…』を彷彿とさせる。
 
     
 
 
 
写真 CGを多用しすぎず,セットや模型の良さを引き出している
(c)2002 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
 
     
   VFX担当は,お馴染みのシネサイト社が約80人,リズム&ヒューズ社が約50人もかけている。他にも数社名前があったから,目立たないところでは,かなりディジタル技術を駆使していると考えられる。
 筆者が毎度着目する映像機器やコンピュータ端末は,大型はアスペクト比16:9のプラズマ・ディスプレイ,卓上は4:3のLCDモニタだった。この混在は,現在の主流だから止むを得ないところだろう。全体はやや古いデザインながら,宇宙船のコックピットだけは最新のデザインだった。こういう箇所をよく見れば,描かれている時代はいつであっても,映画の製作時期はほぼ分かってしまう。
 ステーションの外にしばしば見えるソラリスの神秘的な輝きは素晴らしくキレイだった。これはCG映像ならではの描写だ。何やら観客も幻想を見ている錯覚に陥っても無理はない。
 
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br