O plus E VFX映画時評 2026年8月号

『ミニオンズ&モンスターズ』

(ユニバーサル映画/東宝東和配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[8月7日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]

(C)Universal Studios


2026年6月30日 TOHOシネマズ六本木[完成披露試写会(東京)](字幕版)
2026年7月22日 東宝関西試写室(字幕版)
2026年7月29日 東宝東和試写室(吹替版)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


映画愛に溢れた快作。ギャグ・シーンも絶好調。

 映画ファンならずとも,ミニオンズは世界中の誰もが知っている。若い女性がバッグやケータイのストラップからぶら下げている可愛い系グッズとしても頻繁に見かける。そのミニオンズが主役のスピンオフシリーズの3作目である。『怪盗グルーの…』を冠したメインシリーズと合計すると,これが7作目となる。各作の順序と位置づけは,6作目『怪盗グルーのミニオン超変身』(24年7月号)の時に整理したので,そちらをご覧頂きたい。
 上記のようにミニオンズの人気は不動のもので,映画批評家や映画サイトがどんな評点をつけようと,興行成績にはさほど影響がないと思われる。そう思いつつも,本作の評価はかなり気になって,その推移を見守った。筆者自身が初見で本作をかなり気に入ったため,他人の評価が気になったのである。前作『ミニオンズ フィーバー』(22年Web専用#4)と本作に関して,代表的な評価集計サイトでのスコア一覧を表1に示した。


表1 主要映画評価集計サイトのスコア

 少し解説すると,Rotten TomatoesのTomatometerはプロの批評家や映画レビューサイトの評点の高評価数のパーセンテージで,この数値が2週目以降の観客動員を左右すると言われている。付属的に一般観客の評価もPopcornmeterとして掲載されている。一方,MetacriticのMetascoreは超一流のプロや厳選メディアの100点満点での平均点で,最も辛口サイトとして知られている。世界最大の映画サイトIMDBのRatingは,膨大な数の世界中の映画ファンによる10点満点の投票結果の平均点だが,配給側の「サクラ行為」や「敵対するネガティヴ投票」を排除する独自の調整を行っているようだ。批評家の評価が数週間で落ち着くのに対して,一般ファンの投票は数ヶ月〜数年の累計で平均化されてしまうので,当初人気の高かった作品もどんどんスコアが下がってしまうことが多い。
 通常,批評家のスコアは大衆向け娯楽映画に対して厳しく,インディペンデント系の個性的な若手監督のデビュー作に甘い傾向がある。3大映画祭の受賞作には特に点数が甘い。ところが今回,表1の結果を見て驚いた。前作がほぼ予想通りの妥当な結果であったのに対して,本作はTomatometerやMetascoreの評点が,PopcornmeterやUser Scoreよりも高いのである! とりわけ,Metascoreでのこの数値は,「異例の高評価」と業界内でも驚かれている。
 このねじれ現象は,本作が映画の歴史を愛情を込めて描いているためにようだ。とりわけ,映画黎明期の代表的映像の正確な引用,サイレント映画や古典的モンスター映画へのオマージュが,プロの批評家に高く評価され,「1920年代のハリウッドへのラブレター」とまで言われている。一方,映画の歴史に詳しくない子供たちやライト層の親からは,「いつものミニオンたちの悪ノリのギャグを期待していたら,前半のサイレント映画ネタが退屈だった」「モンスター映画という割には,意外とモンスターの出番が少なくて,拍子抜けした」という声もあったようだ。絶賛と期待外れが中和され,IMDbは前作までとほぼ同じRatingになってしまったようだ(1作目は6.4)。
 この集計結果とその分析結果を読んで嬉しくなった。筆者が本作を気に入ったのは,まさに本作が映画愛を正面に出している点であった。日頃はカンヌ受賞作を珍重する批評家たちとは価値観が合わないが,今回は心を一にして高評価を与えることができる。実を言うと,オマージュやパロディシーンをしっかり把握したくて,試写を3回も見せてもらった。こんなことは初めてだ。それでもメモを取り切れないほどだった。本当は,公開後にもう数回観たいところなのだが,そうすると他のメイン記事の完成版を書く時間がなくなる。既に公開日から1週間以上も経ってしまったので,執筆にかかることにした。いつものように利用可能な画像を引用しながら,筆者が気付いた元ネタを開示しておく。既に国内外で,小ネタを解説している個人サイトがいくつもあるので,もっと知りたい読者はそれらを探すことをお勧めしておく。

【本編の概要と展開】)
 今回は,記号つきの箇条書きで列挙する。
 (A) ユニバーサル映画のオープニングロゴが,現在のものから過去のロゴに変化する。途中からモノクロ映像になり,最古のロゴ映像中でミニオンたちが戯れている。続いて,映画誕生以前から黎明期の代表的映像を辿り,そのすべてにミニオンたちが乱入し,茶化している。かなり笑える。
 (B) ハリウッドにある映画史博物館(The Magic of Hollywood)で,ガイドのオリビアが見学客を引率して案内するツアーが始まる(写真1)。映画史を飾る作品にちなんだ展示やポスター掲示があり,何が出て来るか予想することが楽しみだった。展示の1つに,映画史を変えたミニオンのジェームズとヘンリーの彫像があったが,誰も彼らの業績は知らなかった(写真2)。そこから彼らが映画制作に係わった物語の紹介が始まる。


写真1 ようこそ映画博物館へ! ガイドはオリビアさん。

写真2 ミニオンのジェイムズとヘンリーは誰も知らなかった

 (C) 例によって,ミニオンたちは,その時代の最強最悪のボス(ビッグボス)を探している。まず大男サイクロップスに始まり,魔法使い,中国の皇帝,海賊船の船長,エジプトのミイラへと続くが, いずれも失敗に終わる。思わず,元ネタを探したくなる。この部分でのギャグは頗る面白かった。最後は列車強盗をボスにしようと追いかけたが,これは映画撮影中のシーンだった。撮影を台無しにしてしまい,監督のマックスに激怒される(写真3)


写真3 これがハリウッドの巨匠マックス監督

 (D) ところが映画スラジオBright Brothers Picturesを経営する双子のフランク&エルウッド兄弟(写真4)にユニークな存在だと面白がられ,ミニオンたちは多数のサイレント映画に出演し,ハリウッドスターとなる。ところが,トーキーの時代になり,英語を話せないミニオンたちは失敗続きで,解雇されてしまった。


写真4 Bright Bros. Picturesのオーナーは巨漢の双子兄弟

 (E) 映画を諦め切れないジェームズは,自分たちが怪物と戦う映画『ミニオンズ&モンスターズ』を制作することを提案する(写真5)。魔法使いが残した魔術書をミニオンのエドが持ち帰り,それを使ってモンスターたちを呼び出す。仲間割れを起こしながらも,マックス監督の賛同を得て,ようやく映画撮影が始まる(写真6)。ところが,ある出来事から大混乱に陥る……。


写真5 ジェームズが考えたモンスター映画の企画

写真6 (上)どんなモンスターを出すかマックス監督に相談
(下)ようやくクランクインに漕ぎ着け, 撮影開始

 (F) ようやく映画は完成し,ジェームズの映画が世界公開され,絶賛を浴びる。と思いきや,思いがけないオチがついていた。これは,観てのお愉しみとしておこう。

 とにかく,どの名画やヒット作のパロディなのか,映画の中盤過ぎまでは,元ネタを探すのが楽しかった。各パートでの元ネタばらしは,別項で後述する。それでいてなぜ最高点でないかと言えば,ジェームズ率いる映画制作の中身,即ち劇中劇が,何度観てもまるで面白くなく,退屈した。映画通以外のミニオンズファン,ファミリー層が置き去りにされたと感じたのも無理はない。その分,減点したので,最終的には過去作2本と同じ評点になってしまった。

【監督と新登場キャラクターたち】)
 本作の監督は,アニメーター出身のピエール・コフィン。シリーズ過去6作中の4作で,クリス・ルノー,カイル・バルダのいずれかと共同監督を務めた人物だ。ところが,監督でない作品も含め,シリーズ全作ですべてのミニオンの声を担当している。即ち,ミニオン語は彼しか話せない。各国語吹替版でも彼の声がそのまま使われている。Mr.ミニオンとでも言うべき人物なのである。その彼が本作は単独監督で臨み,脚本もブライアン・リンチと共同執筆している。監督自身が,マンネリを打破するため,思い切ってハリウッドが舞台の物語にしたと発言している。
 既に名前を出したように本作の中心となるミニオンは,ジェームズ,ヘンリー,エドで,彼tらは過去作では登場していない。スピンオフシリーズの第1作『ミニオンズ』(15年8月号)は恐竜時代から始まるものの,物語の中心は1968年のNYで,2作目『ミニオンズ フィーバー』は1970年代の初頭であった。本作の時代設定は,ハリウッドがサイレントからトーキーに移る時代であるから,1920年後半で,1作目の約40年前の前日譚ということになる。ジェームズは絵が得意という設定であるから,過去2作の,ケビン,ボブ,スチュアートとは別人格として描きたかったのだろう(写真7)。エドは耳が悪いため,手話で仲間と会話するというユニークなミニオンである。よく見ると,目の数,顔の縦横比は変えているが,普通のファンには簡単に見分けられない。コフィン監督が1人で演じているので,声紋鑑定しても識別はできない(笑)。残る多数のミニオンの内,名前があるのは1つ目のディックだけで,彼は仕切りたがり屋でジェームズたち3人組を置き去りにしてボス探しに奔走する(写真8)


写真7 (上)前作までのスチュアート, ボブ, ケビン
(下)本作のヘンリー, ジェイムズ, エド

写真8 中央の1つ目が仕切りたり屋のディック

 モンスター達に移ろう。魔術書を見てエドが最初に登場させたのは,小さな緑色の「グーミー」だった(写真9)。およそ怪物らしくないデザインで,何かのパロディなのか分からなかった。彼はジュームズの構想に共感し,映画にぴったりのモンスター探しを手伝う(写真10)。最もモンスターらしかったのは絶海の孤島で出会う「フィリップス&ハワード」(写真11)で,彼らにはしっかりセリフがある。デザイン的に出色だったのは,橙色で不定形の液体状の「アイリーン」で,多数の目があった(写真12)。これはSFホラー映画『ザ・ブロッブ』(58)が元ネタのようだ。


写真9 最初に現れたモンスターは, 緑色で小柄なグーミー

写真10 映画に適したモンスター選びを手伝うグーミー

写真11 孤島で出会ったモンスターのフィリップス&ハワード。大きな声で威嚇する。

写真12 多数の目を持つ液状モンスターの「アイリーン」。 市中でこんなのに出会ったら, 結構恐ろしい。

 怪物らしくないが,出番が多かったのは地球侵略を目論む未来のエイリアン・ロボット「ドート」で,ミニオンたちは彼をボス候補にする(写真13)。このロボット・ドートが優しい女性活動家デビー(写真14)に恋したことから,ジェームズの映画は大きな影響を受ける。その他の人間の新登場は,マックス監督,彼を補佐するカメラマン(写真15),双子の経営者,ハリウッド女優のメリーといったところだ。いずれも過去作と同様,かなり誇張した漫画風の容貌と体型だが,しっかり1920年代風のコスチュームで登場していた。


写真13 世界制覇をめざすロボットのドート。
優しい女性デビーに恋をして, 映画出演を引き受けた。

写真14 女性活動家のデビー。ドートと恋仲に。

写真15 撮影監督(名前は不祥)からカメラ操作を学ぶジェイムズ

 ところで,シリーズの過去作はいずれも字幕版で見ていたと記憶していたので,本作の3度目の試写は敢えて日本語吹替版を選んだ。『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』(24年12月号)や『星つなぎのエリオ』(25年8月号)の日本語吹替版の幼児的な吹替え音声に苦言を呈していたから,本シリーズの吹替えの出来映えを確認したかったのである。結論を先に言えば,字幕版と吹替版での印象の差は殆どなかった。マックス監督に松平健,ドートに千葉雄大,デビーに鈴木愛里,フランク&エドウッドに銀河万丈というキャスティングだが,いずれも見事な吹替えで違和感はなかった。グーミーの声は名人・山寺宏一で,英語版より遥かにグーミーらしく感じる。彼らの日本語のセリフとコフィン監督のミニオン語(バナナ語)とが,会話として成立していて,全く不思議に感じない。彼らのギャグを楽しみ,映画の元ネタをじっくり探すのには,面倒な字幕を読むより,日本語吹替版の方が遥かに好ましかった。よって,本作は字幕版より吹替版を推しておく。

【種々の元ネタを追って】
 3度の試写観賞中に取ったメモ,各種予告編をじっくり見直しての分析,その後,海外の解説サイトを覗いての調査を経て,筆者の元ネタ探しの結果を報告する。一部思い込みで,間違いがあるかも知れない。
 ■ まず(A)では,映画の発明以前の被写体の連続写真からで,エドワード・マイブリッジの『動く馬』(1878)や『動物の運動』(1887)中の「疾走する犬」から始まる(写真16)。ミニオンが馬や犬を追いかける楽しい映像で,当然,馬や犬はCGモデリングして,ミニオンと合成している。続いては,映画黎明期の歴史的映像で,リュミエール兄弟の有名な『工場の出口』(1895)『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1896),最初の劇映画と言われる『水をかけられた散水夫』(1895)にもミニオンたちが絡む。原映像の画質,構図等はそっくりに見せながら,人物や機関車はCG化しミニオン付きで再現している。初の特撮映画であるジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』(1902)まで入れてくれたのは嬉しい。遊び心たっぷりのアレンジだ。美大や専門学校の映画史の授業で,この一連のミニオンつき映像を見せたら学生にウケるだろう。

   

写真16 エドワード・マイブリッジが撮影した走る動物の連続写真。
この画像の中にミニオンが入り, 馬や犬を追いかける。

 ■ (B)の見学ツアーは名作映画を学びつつ,遊び心も満載だった。『E.T.』(82)を始め,『キング・コング』(33)『ジョーズ』(75)等の名場面が展示されている(写真17)写真18の手前は言うまでもなくブルース・リー,奥のケースの中は『マトリックス』(99年9月号)のキアヌ・リーブスである。ガイドのオリビアはキアヌがお気に入りのようだ(写真19)。このキアヌは実物大人形だが,隣のケースのジョージ・ルーカス監督は,本物が入っていて家に帰りたがっているという設定である(写真20)。こんな風に使って,肖像権侵害と訴えられないかと思ったら,何と声はJ・ルーカス本人だというので驚いた。本作で最大の遊び心である。上記で日本語吹替版を勧めたが,この声を確認したければ,字幕版を観るしかない。


写真17 映画博物館の展示。下の画像では, キング・コングやジョーズの展示も見える。

写真18 手前はブルース・リー, ケースの中はキアヌ・リーヴス

写真19 オリビアさんは, キアヌにご執心のよう

写真20 このケースの中はジョージ・ルーカス監督で, 何と本人が入っている!

 ■ この見学ツアーの後半で,オリビアが大きな地球儀と戯れるシーンは,『チャップリンの独裁者』(40)のパロディ(写真21)である。元々がナチス全盛時代に製作され,ヒトラーの独裁政治を皮肉った映画で,日本では大戦後の1960年まで公開されなかった。中学生の頃,授業の一部としての映画観賞会で,皆で映画館に観に行った覚えがある。当時は何を批判しているのかよく分からなかったが,この地球儀シーンはよく覚えている。もっと後に登場する歯車のシーン(写真22)も,同じくチャップリンが機械文明を皮肉った『モダン・タイムス』(36)のパロディだ。地球儀シーンの背景にある3つの展示(写真23)は,いずれもユニバーサル映画お得意の古典的モンスター映画で,右から『ミイラ再生』(32)のミイラ男(イムホテップ),『地球の静止する日』(51)の巨大ロボットのゴート,『大アマゾンの半魚人』(54)の半魚人(ギルマン)のようだ。


写真21 大きな地球儀と戯れるオリビアさん。まるで,女チャップリン。

写真22 この歯車のシーンもチャップリン映画のパロディ

写真23 壁側の3つの展示は, ユニバーサルお得意のモンスターたち

 ■ (C)のイントロとして,ミニオンたちが原始的なボートで島に向かうシーンがある。先頭のリーダー役が太鼓を叩いて,漕ぎ手たちにオールを漕ぐリズムを伝えている(写真24)。『ベン・ハー』(59)のガレー船を思い出すシーンだ。最初のボス候補は,この島にいた1つ目の大男の「サイクロップス」だった(写真25)。元ネタは『シンバッド七回目の航海』(58)に登場する怪物である。この大男を巡るギャグはかなりの長さで,シリーズ屈指の逸品であった。2人目の「魔術師」(写真26)は,サイレント映画に登場した古典的魔術師の典型で特定の元ネタはないようだ。続く「中国の皇帝」(写真27)は,往年のハリウッド映画で定番の悪役であったり,異国情緒を出すために使われていたという。「海賊船の船長」(写真28)もよくある役だが,これは無声映画時代の大スター,ダグラス・フェアバンクス主演の『黒海賊』(1926年)へのオマージュのようだ。そんな100年前の映画は勿論見ていない。「エジプトのミイラ」(写真29)は,明らかに博物館にも展示されていた『ミイラ再生』へのオマージュだが,ミニオンが包帯をトイレットペーパー替わりに使ったために,骨が露出して崩れてしまうというギャグだった。これには大笑いした。このギャグ映像シーケンスの最後のボス候補は,荒野を走る列車の屋根から先頭車両に移る列車強盗だった。元ネタは,映画史上最初の西部劇と言われる『大列車強盗』(1903)のようだ。ボス候補を追ったミニオンたちが列車を暴走させて,ハリウッドスタジオ内に突入してしまう(写真30)。この当時,LAには路面電車が走っていて,その街並みや映画スタジオの敷地内を再現していたようだ。


写真24 リーダーの太鼓に合わせてオールを漕ぐ。
ここでもディックが仲間を仕切りたがっている。

写真25 最初のビッグボス候補は大男のサイクロップス

写真26 2人目のボス候補は, 恐ろしい魔術書を操る魔法使い

写真27 ミニオンたちは, 中国の皇帝にお仕えしようとしたのだが…

写真28 誰が見ても海賊船の船長。1920年代もこの恰好で登場。

写真29 これぞ最凶のボスだと思ったのに, 思いがけない方法で消滅してしまう

写真30 名作の機関車をコピーし, 1920年代の市街地やハリウッドの撮影所内も再現

 ■ (D)の前半はサイレント映画の時代で,バスター・キートン,ハロルド・ロイド等の喜劇映画へのオマージュが多数あったようだが,よく分からなかった。「時計からのぶら下がり」や「家の外壁が倒れる」のシーンは印象的であったが,元ネタの映画自体は見ていない。マックス監督のバイキング映画にミニオンズを起用したところ,大乱闘になり,本気で相手軍を倒してしまった(写真31)。当の映画のバイキング戦士たちの元ネタは『ザ・バイキング』(28)で,角つきのヘルメットや武器の形状は同作へのオマージュである(写真32)。一方,写真33のギリシャ神殿風のセットの元ネタは,もっと古い映画で,当時の超大作『イントレランス』(1916)の「バビロン編」に登場する巨大宮殿へのオマージュのようだ。映画史上でも有名な「宮殿と巨大な白い象の彫像」のセットで,この宮殿内にミニオンたちが生きた象を持ち込んで暴れ回るというギャグとなっている(写真34)。以前に当欄で紹介した『バビロン』(23年2月号)は,本作と同様,ハリウッドがサイレントからトーキーに変わる時代を描いた娯楽大作で,名作映画も多数引用されていた。冒頭約30分は,豪華ホテルでのド派手な乱痴気パーティが延々と続いた。その中で本物の象が運び込まれて大騒動となっていたので(当然,象はCG製だったが),本作のこの象のシーンは,その映画との二重のパロディだと解釈できる。


写真31 慣れないミニオンたちは, バイキング戦士役を本気で倒してしまった

写真32 角のある兜や鋸歯状の剣が印象的

写真33 これが映画史に残る豪華なギリシャ神殿のセット

写真34 この宮殿内に生きた象に持ち込んだので, さあ大変

 ■ どこで登場したかよく覚えていないが,印象に残ったシーンを挙げておこう。写真35はミニオンがハンフリー・ボガート風の主人公で堂々と登場するラブシーンで,元ネタはフィルム・ノワールの名作『マルタの鷹』(41)である。鮫の背ビレだけが見えてだけで恐怖を感じるのは,勿論スピルバーグ監督の『ジョーズ』だと誰でも分かる(写真36)。それを前提に,同作の恐怖を煽る音楽をそっくり流用していた。終盤にヘンリーが演じるピエロ(写真37)は,『IT/イット “それ”が見えたら,終わり。』(17年11月号)のベニー・ワイズのようだ。確かに耳の形は似ているが,ミニオンが演じるとカラフル過ぎてちっとも怖くない。


写真35 まるでハンフリー・ボガード。トーキーなのにトンデモナイ言葉を話してしまった。

写真36 背ビレだけで元ネタがすぐ分かるので, 恐怖を煽る劇伴曲もそっくり流用

写真37 ヘンリー演じるカラフルなピエロは, まるで怖くない

 ■ 海外の元ネタ紹介サイトでも,結構いい加減な情報が書かれている。怪しい情報の典型例は,「新登場のミニオンやモンスターの名前は,映画史上を飾る監督たちのファーストネーム」という説だ。James, Henry, Edは,「ジェームズ・キャメロン」「ヘンリー・ハサウェイ」「エド・ウッド」だというが,それにしては,監督の業績や活躍した時代もまちまちで,名前が合う監督を無理やり選んだとしか思えない。別途,JamesはイルミネーションのCEOで製作陣の1人Chris Meledandriの息子James,HenryとDickは脚本担当のBrian Lynchの息子Henryと父親Dickという説もあったが,Edに相当する人物がいないので,この説も怪しい。
 ■ 公開日が近づくとTVでスポットCM,YouTubeでは長めの最終版予告編が流れるのが定番だが,今年は日本独自の盆踊り用の「ミニおんど」なる特別映像が用意されていた。日本語吹替俳優が浴衣姿で登場する上,振付け用映像も用意されていた(写真38)。誰の発案なのか,純和風の見事なアイディアの広報作戦だ。さらに,本作のシーンを使った日本企業とのタイアップCMも複数流れていた。一方,北米や欧州では,2026FIFAワールドカップとタイアップして,フランスのキリアン・エムバペ選手が登場するCMが使われていたようだ(写真39)。欧米での本作の公開日は7月1日でW杯決勝トーナメントが始まった頃,決勝戦は7月19日だった。エンバペ選手は前日の3位決定戦で2ゴールを決め,W杯通算得点数の単独首位に立ったから,まさに最高の宣伝効果であったことになる。


写真38 日本公開用に作られた特別映像は「盆踊り」に使える「ミニおんど」。
(上)声優陣が浴衣姿で踊る。(下)振付動画も用意されている。

写真39 欧米ではW杯とタイアップし, エムバペ選手を起用。
人気抜群だったが, おそらく南米では流れていない。

 ■ 以上のように,元ネタとなった映画をかなり熱心に探したのだが,意外にもその半数以上は観ていなかった。さすがに,20世紀前半の映画となると,よほどの名作でリバイバル上映がない限り,視聴の機会がない。米国の大学の映画学科卒業生なら,授業中でも使われるし,レポートを書くために映画ライブラリーを利用できるに違いない。よって,欧米の映画人や批評家なら,本作の元ネタの大半を容易に理解できたことだろう。我々日本人は,邦画の名作も観ておく必要があるので,そこまで手が回らない。今はDVDがあるとはいえ,DVD化され,日本語字幕がある映画は限られている。筆者のような団塊の世代は,子供の頃,映画全盛期に観た邦画なら,今でも克明に覚えているのだが…。

【フルCG映画としての見どころ】)
 折角メイン記事にしたのであるから,当欄としては,フルCG映画としての見どころを少し挙げておこう。ただし,技術的な新規性は殆どない。
 ■ 主役のジェームズは絵が上手いという設定だが,彼のスケッチは中々味があった(写真40)。子供のお絵描きでもなく,プロの画家のスケッチでもない。おそらく,美術監督Charlotte Hutchinsonの管理の下,イルミネーション・スタジオの中で専任アーティストが選ばれたに違いない。魔術書に描かれたモンスターたち(写真41)も同様だろう。コフィン監督はアニメーター出身であるから,最後に自ら手を入れたかも知れない。


写真40 ジェームズがボートの中で描いていたスケッチ

写真41 魔術書に描かれていたモンスターも, かなりの出来映え

 ■ シリーズの過去作に比べて,本作は小物やCGセットのデザインに凝っていると感じた。とりわけ秀逸だったのは,ミニオン達が過ごす屋根裏部屋の室内装飾(写真42)や,その中で多数のミニオンズが登場するシーンの構図であった(写真43)


写真42 屋根裏部屋の調度や小物類も丁寧にデザインされている

写真43 構図や照明も惚れ惚れする出来映えだった

 ■ この部屋でジェームズが絵を描いているシーンは,窓の外の景色が時間とともに変化する(写真44)。映画制作の初期に,この手法で時間変化を表現したことへのオマージュらしい。ギャグが主体のシリーズにしては,このシーンは珍しく情緒性が高かった。この窓の外の景色は,どこかの実景を参考にしたのだろうか? 欲を言えば,映画制作の時代変化を描くだけでなく,1920年代のハリウッド周辺の景観をリアルに描いて欲しかった。列車強盗の箇所で市街地の再現に言及したが,もっと広い地域の当時の鳥瞰シーンが見たかった。マウント・リーの斜面にあるお馴染みの「ハリウッドサイン」の程度では淋しい。なお,この文字列は1923年の設置当初は不動産会社の広告で「HOLLYWOODLAND」だったが,その後,大規模改修で現在の形になった。本作の最終予告編では,液状モンスターのアイリーンが映画撮影所の正門上にあった大型エンブレムを引きはがし,近くの山に向かって投げつけた(写真45)。それで,文字列の一部が壊れてしまい,現在の「HOLLYWOOD」だけになったという洒落である(写真46)


写真44 ジェームズの創作シーン(完成形は写真5)。
窓の外の光景が美しい(特に朝焼けのシーン)。

写真45 (上)映画撮影所内を荒らしまくる液状モンスターのアイリーン
(下)フィルムリール形のエンブレムを撮影所正門から引きはがした

写真46 斜面に当たってLAND部分を壊したため, 現在の形になった

 ■ 元々レイ・トレーシングが得意なCGスタジオだったので,シリーズの初期作品ではそれを強調したシーンが多かった。本作でも,金属製の甲冑の光沢や屋根裏部屋の鏡面反射は優れていた(写真47)。そうした光沢感とは別に,本作では,随所で木目や乱反射する壁面を含むトータルな質感表現での進歩があると感じた。ピクサー作品では『インサイド・ヘッド2』(24年8月号)で,「単なる写実性を求めた頃の描画ではなく,実写ではないと分かる範囲で,気品や風格を感じる映像に仕上げている」と褒めたのだが,本作にはそれとは違う質感の高さを感じた。その一端は,写真44の床面にも表われている。もっと上質のシーンもいくつかあったので,それを例示したかったのだが,残念ながら,利用できる画像が見つからなかった。


写真47 金属製の兜の光沢感と床面の鏡面反射が見事
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